今回は、ちょっと小難しそうな「MaaS」を自動車整備士の僕なりになるべくわかりやすくご説明していきます。
普段の整備士としての経験などに関するお話とはだいぶ趣旨が違いますが、自動車整備士ならではの視点で
・そもそもMaaSってなに?
・MaaSとはわかりやすくいうと?
・日本でMaaSが普及するとどうなる?
こんなお話をしていきます。
お話の後半では、この先の車に求められる技術革新や、「こうなればいいのに」という僕自身の妄想(?)も語っていこうと思います。
MaaSとはなんの略?その意味をわかりやすく説明
MaaSってなんの略?
MaaSとは、Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)の略で、自動車や鉄道、飛行機などの「あらゆる乗り物を効率よく利用するための仕組み」を指しています。
言い換えれば、交通手段を高度に統合してユーザーの利便性を究極まで高めることを目的とした概念と言えます。
ベタな日本語で言い換えればMaaSとは
『移動手段にかかわるなんやかんやのサービス』
って感じでしょうか(笑)
MaaSとは究極の乗り換え案内サービス
移動手段をアプリが提案してくれる
スマホを使っていてかなり重宝するのが乗り継ぎを簡単に調べてくれるアプリです。
グーグルマップでも「車」「歩き」みたいな感じで移動手段を選べば、それに適したルートや交通機関を教えてくれます。
とはいえ、これらのアプリで得られるのはあくまでも情報だけで、最後は自分がそれに合わせるだけのこと。
例えば、地下鉄とタクシーとバスを乗り継いで目的地に行こうとすると、地下鉄の時間を確認し、そのあとタクシーを捕まえ、最後にバス停でバスを待つことになります。
それぞれの乗り物に乗るには、自分で確認しながら目的地までのルートと時間の調整が必要になってきます。
乗り継ぎをするための待ち時間や、わずかな徒歩での移動も必要になり、時間のロスは必ず発生します。
しかも、運賃などの決済もそのつど必要で、電子マネーが普及してきたとはいえ、乗り継ぎをするたびに支払いが必要です。
もしもタクシーが予めその人のために待っていてくれれば、時間ロスがなくなり、運賃の支払いも予めすべて計算されていて決済も一括で完了していれば、さらにスムーズです。
これらの乗り換えに関するリサーチや予約をまとめてやってくれれば、利用者は非常に効率的に移動をすることができます。
さらに『今の時間帯ならタクシーよりバスのほうがすぐに乗れますよ』みたいに代替えのルートも提案してくれるのがMaaSの考え方です。
「MaaSアプリ」がその中心
MaaSを具現化するには、インターネットとそれぞれの乗り物を統合する仕組み、それからすべてのユーザーがそのシステムにアクセスするデバイスが必要になります。
利用者はスマートフォンが、MaaSを稼働する運営側は高度に統合されたシステムを構築を擦る必要があります。
スマホを使ってそのサービスと連携することで、これまでは実現できなかった、複数の移動手段を効率よく利用することができるのです。
MaaSをスマホアプリで利用できるようになれば、単なる「案内」ではなく、もっと積極的にユーザーの利便性を上げることができるでしょう。
実際に、都心では地震で帰宅難民となった人がレンタルサイクルに気づいて、臨時バスを待つよりも早く帰宅できたケースもありましたね。
地震や事故などで公共機関が麻痺しているなら、レンタルサイクルや徒歩での移動が最も早いと案内してくれることもあるでしょう。
MaaSの仕組みのなかにシェアサイクルが組み込まれていくことはすでに始まっていて、JRなどもシェアサイクルのための「モビリティポート」開設を計画しています。
【外部リンク】JR西日本|MaaSの実現に向けてシェアサイクル各社との連携拡大
フィンランドが世界でのMaaS先進国
↑フィンランド ヘルシンキ
「Whim」が世界初のMaaSアプリ
MaaSという概念を実用化したのがフィンランドのGlobal社の創業者サンポ・ヒエタネン氏とされています。
もともと福祉に対しても非常に充実していた「世界一幸せな国」と称されていましたが、環境問題にも積極的に取り組んでいます。
だからこそ、渋滞も温室効果ガス削減にも力を入れていますが、MaaSは環境に配慮するだけの目的では無いようです。
マイカーの使用を減らすことが目的
もともとは自家用車があふれかえって環境も渋滞も悪化した状況を改善するために考えられた概念がMaaSです。
『みんなが自分一人のために車を使うなんて効率が悪いし環境によくないよ・・・』
こう考えたフィンランドの修士課程の学生が論文としてMaaSの概念を世に出したと言われています。
MaaSで実現するサービスとは
複数の乗り物が定額で乗れる
MaaSの考え方は、複数の乗り物を効率よく乗り継げば、一人でマイカーに乗らなくていいから渋滞もCO2排出も抑えられるよね、というものです。
そのために、鉄道もバスもタクシーやシェアサイクルも、全部ひっくるめて月額で定額を支払えば使えるようにして公共機関の利用も促進する狙いもあります。
バスの定期券はそのバスを利用することだけの定期券ですが、MaaSアプリなら特定の地域での移動手段をまとめて定額で利用できるようになります。
タクシーさえも決められた距離の範囲なら1ヶ月で4回は追加料金もなく利用できる、みたいな感じでしょうか。
ライドヘイリング・サービスも普及していく
ライドヘイリングとは大規模な配車サービスのことを指し、専用のアプリを使えばタクシーをつかまえることも効率よくできます。
海外では可能ですが、一般の自動車ユーザーが副業としてウーバータクシーの仕組みを利用して運賃を稼いでいます。
日本では「白タク」と呼ばれ認可をもらわずに運賃をとる違法行為ですが、ウーバータクシーのような仕組みが組み込まれれば、利用者を待たせることなく乗り継ぎができます。
MaaSが目指すのはもっとすごい未来
あくまでも例としてお話してきましたが、MaaSという仕組みが目指すのはもっと複雑で驚くくらい便利なものになるでしょう。
そこにはAIに関する技術もかなり関係してくるはずで、MaaSを説明する上で欠かせない「自動化」が重要な鍵になります。
IOTが解決できること
このMaaSというサービスを実現していく上で鍵となるのが、インターネットや自動化された乗り物、そして複数の人がそれらをシェアリングすることです。
たとえば自動化された車がある目的地に向かっていたとして、MaaSアプリで同じ方向に移動したいユーザーがいれば、途中であいのりをすることができれば、車の稼働率を大きく上げることができます。
また、ライドシェアが普及すれば、マイカーで移動しているユーザーが目的地を設定すると、同じ方向に行きたい別のユーザーを乗せて運賃をいただくこともできます。
あらゆる乗り物がインターネットと繋がっていくことで、様々なその時の状況に合わせた移動手段を選ぶことができるようになります。
そうなれば、電気や燃料を無駄に使うこともなく、渋滞や人の一点集中も避けることができ、インフルエンザや感染症の抑制も積極的に行うことができるかもしれません。
MaaSとは自動車に求めるものを変える仕組み
これからの車に必要な「CASE」とは
自動車がMaaSに組み込まれる上で必要な機能や要素として「CASE」があります。
CASEとは、
Connected(コネクテッド(通信機能))
Autonomous(自動運転)
Shared & Services(カーシェアリングとサービス)
Electric(電動化)
これらの頭文字をつなげたもので、インターネットと常に接続された状態で自動運転もできる電気自動車を複数の人が所有したりレンタルするというものです。
ネット接続は必須
自動車がインターネットと繋がったままになれば、渋滞の情報もリアルタイムで共有することができます。
また、コネクテッドカーになれば、車のメンテナンスや異常も管理することができ、整備不良による事故も防ぐことができます。
ほかにも、運転者が急病で意識を失った場合や、危険運転を自動的に通報することも可能になるでしょう。
いずれはドライブレコーダーも義務化されるように感じていますが、
ドラレコから画像を送信することで交通事故の状況が瞬時に把握できるようになるかもしれません。
自動運転が省人化を加速させる
完全な自動運転が可能になれば「運転手」という人手は必要なくなり、MaaSとしてのレベルも飛躍的に上がります。
たとえば、バスが1時間に一本くらいしかないような地域を目指したときに、自動運転のEVが自分のために駅の近くに待機してくれている、みたいな感じです。
MaaSアプリで近くを走っている自動運転のタクシーを呼ぶことができれば、乗り換えの効率も大きく向上します。
また、人は移動中でも車の中で仕事をしたり休息を取ることができ、より生産性を高めることもできるようになります。
利用者を増やし、車を減らせば渋滞もなくなる
一台の車を複数の人でシェアしたりレンタルすることで、車を所有する人は減り、駐車場も減らすことができます。
マイカーが減っていくことで渋滞が緩和され、一般道路も高速道路もよりスムーズに移動できるようになっていきます。
渋滞がなくなれば自動車が消費するエネルギーも減らすことができ、移動コストも下げられるかもしれません。
電動化でCO2排出ゼロに
車はEVになれば、内燃機関(エンジン)から温室効果ガスが排出されることもなくなります。
間接的にはモノを生産していく上で排出されることはありますが、車体そのもののライフサイクルを長くすればそれも抑制していくことができます。
EVならエンジン車よりも構成される部品点数が大幅に少なく作ることができるので、バッテリーやモーター、タイヤなどの消耗品の交換だけで済みます。
自動運転のその先にあるもの
さきほど少し触れましたが、車の完全自動運転が実現できたら、「省人化」「効率化」「交通事故の抑制」など、これまで不可能だったレベルのことが現実になります。
今回はMaaSに関するお話だったので、自動運転がもたらす社会変革についてのお話は割愛しますが、世の中にあるいろんな問題を解決できるのでは、と個人的には思っています。
少子高齢化への対策にもなる?
高齢化が進むと働き手が少なくなり、さまざまな分野で深刻な人手不足が起きますが、それまで「運転手」として働いていた人たちが新たな労働力になります。
また、身体的な理由などで運転免許を取得できなかった人たちも、自動運転を利用して積極的に移動することができれば働き方の自由度も増えるでしょう。
車の運転が大好きな僕としては寂しいかぎりなのですが、
いずれは自動運転じゃない車に乗っていると
「無駄だ!」「危険だ!」と
非難されてしまう世の中になるのかもしれませんね。
買い物難民を減らすことができる
地方では自動車の保有率が高く、「一人に一台」があたりまえですが、高齢化しても車を手放せないという事情もあります。
過疎地では、日用品を買いにいくだけでも車がなければ困難なことも多く、平日は高齢者マークを貼った軽自動車がスーパーで多く見られるのも「地方あるある」と言えます。
自動運転の車が実用化されれば、これらの問題は解決でき、さらに「移動スーパー」が自宅近くまで気軽に来てくれるようになるかもしれません。
すでにとくし丸のように軽トラックの荷台部分を小さなお店にした移動スーパーも稼働していますが、自動運転でやってきてくれればもっと便利でローコストになるかもしれません。
もしもMaaSアプリとこれらのサービスが融合すれば、買い物に出かけようとしている人に、「お店のほうが来てくれるよ」という提案もできるのではないでしょうか。
まとめ
MaaSにもレベルがある
これまで述べてきたように、MaaSとはさまざまな乗り物を効率的に利用するための『究極の乗り換え案内サービス』を目指しています。
それを実現するためには、高度に自動化された電気自動車や、それぞれの稼働状況を通信で瞬時に把握するためのIOT(物とネットがつながる)が今以上に進化していく必要があります。
すべてが同時に進んでいくことは難しいかもしれませんが、様々な分野での技術革新が進むたびに、MaaSもより広く深いサービスになっていくのだと思います。
AIの進歩が重要課題?
MaaSが僕たちの生活にどれくらいのインパクトを与えるかどうかは、『究極の乗換案内サービス』としてどれほどの精度と多方面との連携、そして意外性なのではないでしょうか。
You Tubeを見ていて、そこにおすすめの動画が出てきたとき「おおっ。そんな動画があったのか!見たい!」となることはよくあります。
これもYou Tubeのレコメンドエンジンがユーザーの検索志向などを参考にしていることで、その人の潜在的なニーズを予測していることで可能になるわけです。
AIがどんどん進歩していけば、レコメンドエンジンの精度も速度も飛躍的に向上しますが、同じことがMaaSでも必要になってくるでしょう。
既得権益を企業が後回しにできるかどうか
MaaSが普及するために重要なとことして、それぞれの交通機関や人の移動に関係する企業がどれだけ密に連携することができかどうかにかかってきます。
結果的に、MaaSに参加することによって利用者が減るような移動手段もあるかもしれませんし、それぞれの企業がどこまでユーザーファーストに考えることができるかが大事だと思います。
国からの補助や別の業態への変革を迫られるかもしれませんし、国も企業も利用者も意識を変えていくことが必要に感じます。
次は「CASE」も語ってみようかな
僕自身もかなり最近知った「MaaS」という、これからの車のありかたに大きく関係しそうなIOTと深く関わるサービス。
自動車整備士を20年以上やってきて、自動車に関する技術革新や求められるサービスや機能がここ数年で大きく変わってきていると感じています。
これまで、移動手段の一つとして自動車は重要な役割を担ってきましたが、交通事故や環境問題などの弊害の元凶でもあります。
そして、車の進化はここ数年飛躍的に向上している分野もあります。
今回のMaaSに関するお話をしていくうえで切り離せないのが「CASE」ですが、ここに関してはまた別の記事でお話していきたいと思います。
【関連記事】CASEとは?自動車業界を変える100年に一度の変革期と今後を考える
コメント
2035年には電動車のみになるらしいですしね…
-20度、-30度とかになったときにちゃんと動いてくれるんでしょうか…
もし発電機なくなったら個人の車は週1,2しか動かさないのでバッテリー上がりも心配ですし
SOLTERRAも登場しましたがOEMですしアイサイトないですし…
水平対向エンジンがなくてもSUBARUには「0次安全」など安全面での共感があるため、乗り続けはすると思いますが
と、ちょっと記事とは離れたコメントですみません
CASEの記事、楽しみにしてます
タカハシ様
コメントをありがとうございます。
たしかにEVとバッテリーの問題は切り離せないですね。
気温が下がると蓄電問題が航続距離に大きく影響してしまいますし。
そう考えると、発電専用のエンジンが搭載されていてモーターで駆動という
シリーズハイブリッドのほうが現実的なのかもしれません。
スバルのSOLTERRAはトヨタ色が強そうですね。
それでは、CASEの記事執筆に戻りますね。