スズキ車の場合、CVTフルードの交換に関してはオーナーズマニュアルでも「無交換」としか記載されていません。
ですが、整備士の僕としては「汚れないオイルなんてない」とお客様にも説明していますが、ほとんどの方が「そりゃそうだ」と感覚的に理解していただけます。
CVTフルードの交換に関しては、各自動車メーカーでも推奨する交換距離が違います。
とくに「無交換」としか整備ガイダンスで記載がないような場合、ユーザーさんはかなり混乱してしまいます。
最近になって、CVTフルードの交換に対しては「無交換」と説明し続けていたスズキディーラーでも、若干の「温度差」を感じることがあります。
・スズキディーラーでCVTフルードの交換をしない理由
・CVTフルードの交換をスズキディーラーに依頼できないのか
・本当にスズキ車はCVTフルードの交換をしなくていいのか
・CVTフルードの交換はディーラー以外ではやらないほうがいいのか
・スズキ車のCVTフルードの交換方法はディーラーと一般整備工場では違うのか
今回はこんなテーマでお話していきます。
CVTオイルの交換をスズキディーラーではどう説明している?
スズキディーラーでCVTフルードの交換をしない理由
ほとんどのCVT搭載のスズキ車ではオーナーズマニュアルでも「無交換」と記載されていて、スズキディーラーの場合はそれに準じてCVTフルードの交換は勧めていません。
じつは、他のメーカーの車では、オーナーズマニュアルの交換推奨距離よりも早くCVTフルードの交換を勧めていることも珍しくありません。
たとえばトヨタ系のディーラーでも10万キロは無交換とされているCVTフルードを2万キロから4万キロの交換スパンで推奨しているディーラーもあります。
それに対して、スズキの場合はメーカー直営のディーラーでは一貫して無交換となっていて、そこには明確なつながりというか統一されているのがわかります。
CVT本体のメーカー保証は10万キロ
車の保証には「一般保証」と「特別保証」があり、CVTはミッション本体になるので特別保証の対象になっています。
特別保証は5年または10万キロのどちらか早い方で期限が切れ、メーカーとしてはCVTフルードは10万キロ無交換でもまず不具合はでないという考えから無交換としているのでしょう。
つまり、走行距離が10万キロを超えた時点で保証は必要なく、故障した場合はユーザーの自己負担で修理してもらうということで完結します。
結果的にはCVTフルード交換というリスクの高い作業はやらずに済み、10万キロオーバーでCVTに不具合が出た場合は車の乗り換え提案の機会になります。
CVTフルードの交換をスズキディーラーに依頼できない?
スズキのディーラーでは、CVTフルードの交換に関して未だに消極的というか、リスクを回避したいというホンネが見えることがあります。
車検の見積もりでも整備書に記載されているそのままの「無交換」で通しているようで、走行距離に関係く見積書にCVTフルードの交換が盛り込まれることはありません。
とはいえ、ユーザーから直接に「CVTのオイルを交換してほしい」と言われた場合、リスクを説明して交換作業を受けてくれるケースもあります。
純正フルードも商品としてラインナップされている
スズキ純正のCVTフルードも商品として販売していて、ディーラーでも在庫していることが多いです。
4リットル缶で販売されてるのでネットでも購入することができ、なかには持ち込みのフルードの交換を受けてくれる整備工場もあります。
スズキ純正のCVTフルードといえば「GREEN2」がメインですが、それぞれの年式や車種でも違いがあり、車検証の情報などで確認する必要があります。
スズキの初期のCVTにはギアオイルが入っていたこともありましたねw
ディーラーも絶対に交換しないわけではない
たとえば、CVTのオイルパンをぶつけてしまった場合、CVTフルードを抜き取らないとオイルパンの交換はできません。
また、大がかりな修理などでドライフシャフトをCVTから抜かなければならないこともあり、その場合は抜けただけの量のCVTフルードを補充することになります。
つまり「メンテナンス」ではなく「修理」としてであればフルードの交換も受けています。
また、一部のスズキアリーナ店ではCVTのオイルパンを外しストレーナーの交換作業も実施しているようで、このやり方がCVTの延命には非常に効果的だと僕も思っています。
ただし、これだけの整備をするとなるとそれなりに費用もかかり、そもそも10万キロ前半くらいで車の乗り換えをしてしまうユーザーさんには必要のない作業かもしれませんね。
本当にスズキ車はCVTフルードの交換をしなくていいの?
スズキディーラーの整備士さんも、CVTオイルパンの脱着作業を経験している人たちはよくわかっていて、「オイルパン外してフルード抜いたらわりと汚れてた」「フルード交換しても問題ない」と感じているはずです。
長く乗りたいならCVTフルードも交換が望ましい
CVTの寿命としては、スチールベルトが破断したり、内部のソレノイドの作動不良などが多いですが、フルードの交換頻度との因果関係はありそうです。
つまり、一度でもCVTフルードの交換をしている場合、上述したようなトラブルの発生する確率は低いように感じています。
実際に統計をとったわけではありませんが、CVTのトラブルでレッカーサービスなどで運び込まれてくる車では、CVTフルードの交換歴がほぼなさそうな車が目立ちます。
もしもフルードが劣化しない構造なら、そもそもフルードそのものが必要ないともいえ、10万キロ以上乗りたいのであれば交換がおすすめです。
CVTフルードの交換はディーラー以外ではやらないほうがいいの?
特別保証の期間内ならディーラーで純正がおすすめ
個人的には、メーカーの特別保証の期間内であれば、CVTフルードはディーラーで純正フルードを使って交換してもらうのがベストだと思っています。
社外品のフルードがダメという意味ではなく、万が一CVTに不具合が発生した場合、保証を受けるための判断をディーラーの整備士がしやすいからです。
社外品のCVTフルードを使用していたとしても特別保証を受けられるケースももちろんありますが、どんなフルードを使用したのかを確認されるために処理が遅くなることがあります。
とはいえ僕自身は、車検で入庫したスズキ車に対して、社外品のCVTフルードの交換をやってきました。
これまで不具合が出たりクレームを頂いたことはありません。
大手メーカーのCVTフルードを使うメリット
ちなみに、僕の勤務している工場で使用しているCVTフルードはエネオスの「XプライムCVT FLUID」ですが、スズキの純正CVTフルードである「GREEN2」との適合もエネオスのサービスデータで確認がとれています。
会社の取引の都合上でエネオスのフルードを使うことになっていますが、エネオスといえば石油元売り会社の大手であり、全国のサービスステーションでの交換実績も多くそこは安心して使っています。
他にも、サブディーラーではカストロールのCVTフルードを使っているところもあります。
メーカーもはっきりとした明言をしてこない?
僕のホンネを言えば、かなり新しいクルマには純正がいいのかなとも思いますが、販売シェアも大きな大手メーカーのCVTフルードに対してディーラー側が「不適合なフルード」と言ってくることはないでしょう。
ここは大手の強みというか、万一のトラブルでもエネオス側がバックアップしてもらえることも含め、大事なお客様の車にも使用しています。
フルードの交換実績が多い整備工場に依頼するのがベター
ディーラー以外の整備工場にCVTフルードの交換を依頼する場合の注意点としては作業環境や、作業をどれだけこなしてきたかの実績も大事です。
CVTフルードの交換にはそれなりに気を使いますが、チェンジャーの中に残っている別のフルードの排出や、コンタミネーションを防ぐためにも作業を多くこなしている整備工場での交換が望ましいです。
また、古いATFチェンジャーを流用してCVTフルードの交換をしている場合も、注入したフルードの量が正確にカウントできていないこともあり、新しいフルードチェンジャーを持っている工場がいいです。
スズキ車のCVTフルードの交換方法はディーラーと一般整備工場では違うのか
使用する機械が違うことが多い
ディーラーとは言え、すべての工場で使用する機器が統一されているわけではなく、CVTフルードの交換に関してもチェンジャーのメーカーが違うこともあります。
チェンジャーが違うということは、抜き取り方にも若干の違いがあり、作業にかかる時間も違うため、料金にも違いがあります。
CVTフルードチェンジャーは、ATFのチェンジャーも兼ねているものも多く、それなりに高価な機械なので、使用頻度が低い工場では所有していないこともあります。
その場合、古典的ですがオイルパンのドレンから抜き取る「下抜き」や、ドレンがない場合はオイルパンを外してしまうやり方もあります。
CVTフルードの抜き取り量に関しては、オイルパンを外してなかのストレーナー(フィルター)も交換するやり方が手間はかかりますが効果的です。
結論として、ディーラーとそれ以外の整備工場ということではなく、各整備工場で使っているフルードチェンジャーも違い、抜き取り方や使用するフルードの量も違います。
車検見積もりでもCVTフルード交換は記載なし
ATやマニュアルトランスミッション(以下MT)のフルードやギアオイルを交換するタイミングとしてよくあるのが車検に出したときに交換を勧められるケース。
ところが、CVT搭載車となると、メーカーによって交換の勧め方にかなりバラつきがあり、スズキディーラーの場合、走行距離に関わらず見積書に載ることはまずありません。
販売店ではCVTフルード交換を勧めている?
整備工場の中にはスズキ車の新車販売をしている工場もあり、ディーラーと混同しているお客様もいるようです。
〇〇自動車とか看板があるけどスズキの看板も一緒に立ってるようなところですね。サブディーラーという呼ばれ方をすることもあります。
これらの整備工場はディーラーではなく、メーカーからは「販売店」とか「販売協力店」と呼ばれていて、一部のリコールなどもメーカーから委託されています。
この販売店では、スズキ車以外の車の整備も販売もしていることが多く、スズキ車が車検で入庫した際には、わりと積極的にCVTフルードの交換を勧めることも珍しくありません。
ただし、その作業内容や交換する費用に関してはそれぞれの販売店で独自の取り決めをしていることが多く、純正ではないCVTフルードを使用していることもあります。
メーカー直営ディーラーでも対応にバラつきがある?
僕自身は自動車ディーラーで勤務したことはありませんが、同僚のなかにはディーラーでの勤務を10年以上経験した人もいます。
彼らの話を聞いていて思うのは、ディーラーには超がつくようなベテラン整備士があまりいないということ。
薄給だったり過酷な労働環境だったりで、辞めてしまうことが多く、なにかトラブルが起きたときの対応力もマニュアル通りだったりします。
そのため、純正以外のCVTフルードを使用したことで不具合が出てしまった場合でも「メーカーの指定していないフルードを使用しているので保証対象外です」という返答しかしないことも多いです。
ですが、なかには車好きのベテラン整備士が残っているディーラーもあり、お客様の立場で保証内容を検討してくれることもあります。
純正以外のCVTフルードを使用していたとしても、適合するものを使用していた場合や、もともと不具合が多数確認されているようなケースではメーカーの保証として扱ってくれることもあります。
ディーラー勤務の整備士さんでよくあるのが、深い造詣を持っている人がサービスフロントにされて現場から離れてしまうことが多いということ。
もったいない気がします。
最後に
今回はスズキのディーラーではCVTフルードの交換を勧めることがなく、交換を依頼しても断られることもあるというお話でした。
スズキ車に関しては2006年以降に制作されたほとんどのCVT車は「無交換」とオーナーズマニュアルにも記載されていて、ディーラーでも同じく無交換と案内しています。
※一部の車種はシビアコンディションに限り75,000kmでの交換を推奨しています。
そのため、車検を依頼してもおすすめ整備にCVTフルードの交換が載ることはなく、交換作業を受けるのはオイルパン交換などの修理に付随する場合がほとんどです。
メーカーの直営整備工場では統一されていますが、販売協力店など他のメーカーも取り扱うような整備工場ではスズキ車のCVTフルード交換を受ける場合も多いです。
ただし、ディーラーや一般整備工場のどちらにも言えることですが、フルードの交換作業に対してはかなり消極的な受注しかしておらず、リスク回避を意識しています。
CVTはメーカーの特別保証の対象部位であるため、5年10万キロの範囲内では純正のフルードで交換するほうが万一の不具合の際も保証修理を受けるための処理も早いことがあります。
ディーラー以外の整備工場でのCVTフルードの交換を依頼する場合は、使用するCVTフルードの信頼性も確認して依頼し、純正を選べるのであれば純正で交換するほうがいいでしょう。
【関連記事】CVTフルードの交換時期や交換距離は?無交換で走るとどうなるの?
【関連記事】CVTオイルが無交換な理由を知りたいというお客様にお答えした話
コメント
スズキのCVTフルードの話し、大変参考になりました。
CVTフルードが無交換で良いなんて、自らエンジンオイル交換してオイルの状態観察するのが楽しみな10万キロ以上乗るつもりの自分からすればあり得ないって思ってました。
ましてや初期の金属粉があると思われるCVTフルードだけでも交換したいですね。
渡邉様
コメントをありがとうございます。
>CVTフルードが無交換で良いなんて、
>自らエンジンオイル交換してオイルの
>状態観察するのが楽しみな10万キロ以上
>乗るつもりの自分からすれば
>あり得ないって思ってました。
↑
エンジンオイルの汚れを確認するの、僕も結構好きですねw
CVTフルードもそうですが、どれくらい負荷をかけているかどうかで汚れ方も違ってきますもんね。
同僚の整備士が言ってましたが
「物が触れるということは、必ずそこに摩擦による削れがありフルードも汚れるはず」
と言ってましたが、僕も同感です。
CVTメーカーの方に聞いたのですが、そもそもCVTは修理する前提で設計していないため、故障すれば部分的な修理は不可能で、全交換になります。
オイル交換が必要というよりもオイルの劣化でCVTに異常が出た時点で寿命なのでしょう。
またCVTの交換部品がなくなった時点でその車は廃車というわけです。
現実的かどうかはさておき、クラシックカーの仲間入りまで乗り続けるなら、重要な部品(ユニット一括)をストックする以外ないかもしれません。色々ユーザーとしては言いたいところですが、メーカーなんてそんなもんです。
Buhibuhi様
コメントをありがとうございます。
>そもそもCVTは修理する前提で
>設計していないため、
>故障すれば部分的な修理は不可能で、
>全交換になります。
↑ ですね。おっしゃる通りだと思います。
別の記事でも書きましたが、
メーカーとしてはCVTが壊れたら、まるごと載せ替えするのか、車を買い替えするか、みたいな感じにしたいのだと思います。
とはいえ、CVTを設計するエンジニアと、利益を追求する営業サイドでは本音は違うのかもしれませんね。
CVT本体が安価な部品ならまるごと交換しかできないというのもわらからなくはないですが、
数十万円もするCVTを「交換しか選択肢がない」というのは、車を大事にしたいユーザーさんには納得できませんね。