今回はトルクレンチを使わずにホイールナットを締め付ける注意点についてのお話です。
スペアタイヤとの入替えが多く、作業の例にしていますが、夏、冬タイヤとの入れ替えやタイヤローテーションでもやり方は同じです。
タイヤの脱着作業ではトルクレンチを使って最終的な増し締めと確認をするべきなのですが、緊急時などでトルクレンチがその場にないケースも多々あります。
その場合、車載工具だけでホイールナットを締め付けることになり、安全にホイールナットを締めていくやり方を知っておくことも大事です。
先に結論としてそのやり方を説明します。
①その車の正しいホイールナットの締め付けトルクを調べる
②車載レンチの長さを把握し25センチ付近に手をかけて増し締め
③本来の締め付けトルクの4倍の重みでレンチに力を加える
ざっくり言えばこんな感じです。
ただし、増し締めをするまえに確認しておかないと事故につながってしまうことがらもあり、いくつかの手順を踏んでいくことが大事です。
ホイールナットをトルクレンチを使わずに締める方法
まずは基本的なところをしっかりと守りながら仮締めをするまでの手順を確認しておきましょう。
これから説明するやり方は、整備士でもここまで念入りにやらないかもしれない方法です。
ではなぜそれを僕が勧めるのかというと、今回のテーマは『トルクレンチを使わずにホイールナットを締める』ということに焦点をあてたお話です。
つまり、トルクレンチで正確なトルク管理ができない以上、それ以外の手順を念入りにすることで少しでもタイヤ脱落などのリスクを下げようというのが狙いです。
正しいトルクでの締め付けができないだけに
「念入りな確認」「丁寧な作業」
さらに「念入りな最終確認」をする必要があります。
スペアタイヤを装着するときの注意点
タイヤがパンクしたりバーストしてしまった場合でも、スペアタイヤがあれば入れ替えをすることで車を走行させることができます。
ただし、いくつか確認しておくべきこともあり、車から取り出したスペアタイヤといきなり付け替えをせず、現状を把握することも大事です。
スペアタイヤの取り付けには純正ホイールナットが望ましい
軽量のジュラルミンやアルミ製のホイールナットでドレスアップしている車を見かけますが、これらの材質のものは、締め付けトルクを間違うとネジ山を傷めてしまうことが多いです。
そのため、スペアタイヤへの脱着や別のタイヤ・ホイールへの入替えなどで、トルクレンチが無い場合は純正のホイールナットを使うほうが無難です。
重たくてヤボったいデザインが多い純正ホイールナットですが、ネジ山の強度はかなり強いほうです。
ホンダ車は要注意。社外ホイールに交換しているとまずい
日本車のなかでホンダ車だけはホイールナットの釣りつけ面が違っていて、ホンダ純正のホイールとナットはそれぞれ取付け面が球面になっています。
純正のホイールとナットのままなら問題ありませんが、社外品のアルミホイールに交換している場合は、そのれに併せてホイールナットもテーパー状のナットに変更されています。
この状態だと、球面状の座面になっているスペアタイヤ・ホイールをテーパー状のナットで締め付けることになってしまい、たとえ本来のトルクで締め付けた場合でも、スペアタイヤの脱落につながる可能性があります。
つまり、ホンダ車に関しては、社外品のアルミホイールに交換していても純正のナットをスペアタイヤの取り付け用に車に乗せておかないといけないことになります。
ハブ周辺のサビや異物をチェックする
パンクしたタイヤを外してみると、ホイールと接触していたハブの周りが錆びていることがよくあります。
そのままの状態で、ほぼ未使用のスペアタイヤを車から出して取り付ける場合は、ハブ側にサビや異物が付着していないかを確認しておきます。
車載レンチなどをうまく利用する
ハブにはホイールの中心部分の穴の径とぴったり収まるような円筒状の部分があり、純正のホイールなら少しキツイくらいになっています。
パンクしたホイールを外したときに、ハブ側にサビが浮いていて異物と呼べるほどになっている場合は、マイナスドライバーのような先端が硬いものでこそげ取るようにしてハブ周辺をきれいにならしておくことが大事です。
もしもハブ周辺に大量のサビが浮いたままでスペアタイヤを取り付けてしまうと、適切な締め付けトルクでホイールナットを締めても走行中にナットが緩んでしまうことがあります。
ハブに付着したサビが原因でハブをホイールのディスク面が密着していないことがあり、異物を挟んだままでホイールナットを締めてつけてもディスク面とハブの間に隙間ができたま間になっていることがあります。
車載工具のレンチの中には、ホイールキャップを外すために、レンチの反対側が大きなマイナスドライバーのようになっているものがあります。
その場合は、大きなマイナスドライバーのように、ハブ周辺のサビをガリガリとこそげ取るように掃除をすることができて便利です。
ホイールナットでセンター出しをする
↑ 2個のホイールナットを当たるまで締め込めば
ホイールとハブの中心を合わせることができます。
テーパー状でも球面状でも、ホイールナットとホイールがしっかりと当たった状態になれば、ホイールのディスク面とハブ側が密着します。
このとき、2箇所のホイールナットを完全に座面が当たるまで締め込んでいくことで、ホイールの中心と、車体側のハブの中心を一致させることができます。
やり方は、タイヤを下から支えて上下に動かしながら、もう片方の手でホイールナットを指でつまんで締め付けていきます。
一箇所のナットを締め込んでいくのではなく、2箇所以上のナットを交互に締めていきながらナットがホイールの座面に密着できるようにタイヤを少しづつ動かしていきます。
こうやってホイール側とハブ側の中心部分を合わせることを「センター出し」とか「センターを出しておく」などと言うこともあります。
センター出しができていない状態でホイールナットを締め付けてしまうと、ナットがホイールを傷めてしまうことがあり、そのままで本締めをしてしまうと、タイヤの脱落にもなりかねません。
センター出しという言葉を整備士が使うのはマニュアル・トランスミッションのクラッチディスクとクラッチカバーを交換して組み付けるときに言っています。
タイヤの取付に慣れていない場合は、2個のナットだけでセンター出しをするのではなく、すべてのホイールナットをピッタリと手締めしておくことで、確実にセンターを出すことができます。
この前準備をきっちりとやっておかないと、レンチを使ってナットを仮締めしていくときにホイールナットやホイールを傷めてしまうことになります。
緊急時のスペアタイヤへの交換など、締付けトルクを正確にできないようなでは指だけでナットを仮止めしていく作業はとくに大事です。
車載レンチでも仮締めの手順は同じ
ホイールナットを手締めで仮止めすることができたら、次は車載レンチでホイールナットを締め付けて仮締めをしていきますがポイントは以下の2つ。
・対角に締めていく
・複数回に分けて締める
とくに複数回に分けて仮締めをしていくのは大事で、一箇所のナットをいきなり強いトルクで締め付けてしまうと、その対角の部分が応力で浮いてしまうことがあります。
はじめの仮締めはとくに弱めに、なおかつ対角のナットを締めていくのがポイントです。
トルクレンチを使わずに適正なトルクでの締付けをする方法
ここからが今回のお話のメインですが、いかにして本来の締め付けトルクに近い強さで増し締めをすることができるかですが、まずはその車の本来のホイールナットの締付けトルクを確認しておくことが大事です。
ホイールナットの締め付けトルクの確認方法
車の車検証入れなどに備え付けてある取り扱い説明書のなかには、ホイールナットの締め付けトルクや車載工具を使って応急タイヤへ交換するやり方にについて記載されている場合もあります。
もしもわからない場合は、ホイールナットの締め付けトルクについてまとめている記事があるのでそちらを参考にしてください。
車載レンチの長さと締め付けトルクを把握しておく
現在のホイールナットの締め付けトルクの単位は、N・m(ニュートンメートル)になっていますが、ここからはイメージしやすいように、あえてkgf・m(キログラムフォースメートル)の両方を記載して説明していきます。
締め付けトルクはkgf・mのほうがわかりやすい理由
基本的にレンチを使ってホイールナットを締め付けるときは、仮締めの際にはレンチの端を手のひらで叩くようにして締め付けていきますが、最後の増し締めをするさいには、体重を利用して締め付けていきます。
プロの整備士もトルクレンチを使うときにはトルクレンチに自分の体重をかけてゆっくりと締め付けていきます。
このとき、
すべての体重を乗せてしまうと
レンチが外れてしまったときに怪我してしまうので
両足で踏ん張るような姿勢を取ります。
トヨタ車とダイハツ車を例にしてみる
トヨタやダイハツの乗用車の場合はホイールナットを10.5kgf・mで増し締めするように指定されています。※一部の車種はのぞきますが詳細は別の記事をご覧ください。
トルクレンチを使わずに最後の増し締めを10.5kgf・mのトルクで締め付けたい場合だと
1メートルの長さのレンチなら、ホイールナットを10.5kgf・mで締め付けるには、そのレンチの先端に10.5kgの重みを加えることで、10.5kgf・mで締め付けることができます。
仮に、車載レンチの長さが25cmであればテコがきかないぶん、1メートルのレンチよりも4倍の力を加えないと同じトルクで締め付けができない計算になります。
10.5kg × 4 = 42kg
つまり、同じトルクで締め付ける場合でもレンチの長さが変わると
10.5kgf・m(103N·m)のトルクでホイールナットを締める場合 | |||
レンチの長さ | 1メートル | 50センチ | 25センチ |
レンチにかけるトルク | 10.5kg(103N·m) | 21kg(206N·m) | 42kg(412N·m) |
↑
N·mとkgf・mの両方で表してみましたが、やはり慣れ親しんだkgf・mのほうが、力の加減がイメージしやすいですね。
自分の体重をイメージしながら、じわじわとレンチに自重を乗せていきながら、25センチの車載レンチなら42kgの体重を乗せるイメージで、ということになります。
車載レンチの長さは25センチほど
車種によっても車載レンチの長さは違ってくるとおもいますが、ここではわかりやすいように、車載レンチの長さを25センチという前提でご説明していきます。
ちなみに、スズキアルトの車載レンチをサンプルにして長さを測ってみましたが、ほぼ25センチの有効長さでした。
「25センチ」をイメージするには靴を見る?!
緊急時にレンチの長さを測るような悠長なことはできませんが、大人の足のサイズが25センチくらいと考えれば、わりと25センチがイメージできるのではないでしょうか。
車に備え付けられている車載レンチの長さも車種によって違うかもしれませんが、おそらくどの車載レンチも、最低でも25センチはあるはずです。
かりに25センチ以上の長さのレンチであっても、レンチに手をかける部分を25センチ付近にすれば、このやり方がイメージできます。
まとめ
トルクレンチを使わずにホイールナットをなるべく安全に締め付ける方法とは
・その車のホイールナット締め付けトルクを調べる
・使用するレンチの長さに応じて手締めの加減をイメージする
・車載のホイールレンチの長さは25センチほどのものが多い
・25センチのレンチなら規定トルクを4倍にした力で締め付ける
・25センチをイメージするには靴のサイズでイメージする
・この場合締め付けトルクはニュートン表示よりもkgf・mがわかりやすい
とはいえ、備えあれば患いなし
車に載せたままにする車載工具ではかなり使いにくかったりします。そこで、整備士の僕も愛車に乗せているのが、折りたたみができるクロスレンチです。
レンチのクロスさせる部分を長めにすることでトルクがかけられやすく、力を加えるときや早回しをするときなどで形状を変えられるのも便利です。
両手でしっかりと力を入れることもできて、作業性も格段に上がり、17mm、19mm、21mmのどのサイズのホイールナットにも対応できます。
とくに社外品のホイールナットに交換してナットの2面幅が変更されている場合は必ず準備しておかないと、そもそもスペアタイヤとの脱着すらできません。
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