車のトランスミッションの中でもかなりメジャーなものがATと呼ばれるタイプのものです。
オートマチック・トランスミッションの略ですが、多段ギアを自動的に切り替えてくれるいっぽうではギアチェンジのタイミングで発生する変速ショックもあります。
とくに走行距離が多い過走行車では、変速ショックが「コツン」から「ガツン」になってしまった事例も多いです。
今回は、多段式のオートマチック・トランスミッションの変速ショックの原因やそのショックを改善するためにできることについて考えていきます。
オートマチックの変速ショックの原因
シフトソレノイドの動きが重要
AT車の場合、ミッション内部にあるシフトソレノイドと呼ばれる油圧の制御をしている部品が大事な役割を担っています。
シフトチェンジをするときには、シフトソレノイドの動きが速くて正確であるほど、変速時のショックも最小ですみます。
変速ショックが大きくなる原因の多くは、ソレノイドの動きが悪くなることで油圧の切り替えにタイムラグができることです。
エンジンの力を伝えるトルクコンバーター側のパワーが一瞬だけですが行き場を失い、そのあとソレノイドが動き切ると「ドン」という感じでいっきにパワーが繋がってしまいます。
もちろん、スロットル(アクセル)の開き具合も大きな要因なので、アクセルペダルを大きく踏み込んでいれば変速ショックも大きくなります。
それだけ大きなパワーが出ている状態での動力の切り替えは、シフトソレノイドに負担をかけているともいえます。
ちなみにシフトソレノイドとは・・・
シフトソレノイドは電磁弁の一種で、電気信号が入ることで磁力を発生させ、筒状のソレノイドバルブが摺動します。
まるで迷路のようになっているオートマチック内部でのATフルードの流れを、複数のソレノイドバルブの動きで変化させています。
例えば、3速オートマチックだと、シフトソレノイドは3個あり、前進用で2個、バック用に1個あり、1速から2速への切り替えでは前進用の2つのソレノイドバルブの組み合わせでシフトアップしています。
「シフトソレノイドA」と「シフトソレノイドB」の2つがオンになったりオフになったの組み合わせで3速オートマチックのギアチェンジをしています。
シフトソレノイドの動きが悪くなる原因
ATFが汚れているとソレノイドの動きも悪くなる
新車の状態から同じオーナーが乗り続けているとよく分かるのですが、車が新しいころはオートマチックの変速ショックも小さく、走行距離が多くなるとシャクるようなショックになります。
シフトソレノイド自体が劣化することもありますが、オートマチックのフルードが汚れていることでシフトソレノイドの動きが悪くなることが多いです。
オートマチック内部ではギアなどの金属部品が接触しているため、粉末状の削れカスが少しづつミッション内部に溜まっていきます。
シフトソレノイドもオートマチックフルードの中に浸かっているため、フルードの中に漂っている細かい金属粉が摺動部分に入り込んでしまうことがあります。
すると、ソレノイドが本来のような動きにならなくなり、結果的に中途半端な油圧がかかっている状態になり、ルーズなシフトチェンジになってしまいます。
ゆっくりとアクセルを踏み足しているのに、「今、なん速に入ってるんだ?」みたいな感じになる場合はシフトソレノイドの動きが悪いのかもしれません。
トルクの谷が変速ショックを助長する?
AT(Automatic・Transmission)は、複数のギアを切り替えていくことで、トルクバンドが狭いレシプロエンジンを実用的な動力源にすることができます。
もともとエンジンには、効率よくパワーを出せる回転域と苦手な回転域がありますが、運転手が同じように加速していてもその違いを感じることもあります。
オートマチックも進化しているので、そのエンジンの得意な回転域を使って走行しようとしたり、運転手のアクセルワークをコンピューターが学習して補正していくこともあります。
それでもギアとギアのつなぎ目では「もっさり」としただらしない加速になることもあり、トルクバンドに入ったときのシフトアップでは「コツンッ」とやや強めのシフトショックになる場合もあります。
つまり、エンジンのトルク変動とオートマチックのシフトアップのタイミングが悪い状態では変速ショックも大きくなるということになります。
ギア比が離れていると変速ショックが大きくなることも
軽自動車の変速ショックが大きい理由
軽自動車のAT車の場合、オートマチックを多段化することは難しく、4速ATが主流というかATの最終形態なのかもしれません。
そのため、すべての速度を4つのギアでカバーすることになり、発進時にしようする1速ギアはかなりローギアードに設定されています。
つまりパワーがない軽自動車で発進時の加速をよくしようとすると、大きめのギア比にしてエンジンの回転を上げて加速力を得るようにするしかありません。
2速ギアに入るときにショックが大きくなる
ただし、2速も大きめのギア比にしてしまうと、4速しかないオートマチックではすべての速度域をカバーしきれなくなり、2速ギアは1速よりもかなりハイギアよりにせざるを得ません。
すると、停止状態から発進して加速していくと、1速から2速にシフトチェンジしていくときに、この2つのギアのギア比の開き具合がもろに変速ショックの原因になることがあります。
逆を言えば、高級車のように7速とか8速などの多段化が進んでいけば、一つのギアが担う速度域は狭くなり、結果的に変速ショックは感じにくくなります。
余談ですけど、軽自動車の場合はATを多段化するよりも無段階変速のCVTにするほうが自然な流れといえます。
ATでの変速ショックを改善するには
ATF交換はこまめにしたい
加速中のシフトアップで、大きな変速ショックが感じられる場合、ATF(オートマチック・トランスミッション・フルード)の汚れが原因になることが多いです。
変速ショックが出てから交換するのはよくない
とはいえ、「変速ショックが大きくなったからATFを交換する」というのは間違いで、ATFの汚れが初期段階でのフルード交換が望ましいです。
油脂類の交換作業全般に言えることですが、車のコンディションを少しでも悪くさせないための「予防整備」としてオイルやフルードを交換しています。
つまり、オートマチックのフルード交換をしたことでなにかしらのフィーリングの向上を感じたということは、フルード交換の時期としてはやや遅いと言えます。
理想を言えば、フルード交換をしてもふだんと変わらず「普通」に感じるくらいが予防整備としては望ましいのです。
AT用の添加剤も効果的かも
添加剤と聞くだけで拒否反応をしめすユーザーさん一定数おられますが、実際に添加剤を使用したことで変速ショックがやわらいだという事例はかなりあります。
走行距離が少ないころにできるATへのメンテナンスは、やはり早めのATFの交換がいいのですが、中古車で購入した場合などはメンテナンスの履歴が確認できないこともあります。
予防整備と変速ショックの改善を兼ねて添加剤を使ってみるのもいいですが、「あわよくば変速ショックも改善されるかも」というくらいの期待感の使用をがおすすめです。
エンジン暖気でATFの油温も適温に
ATFはエンジンオイルよりも温度変化による膨張率が大きく、エンジンが冷えているときと完全暖気が完了しているときではかなり違います。
もちろん温度差による粘度の変化もあるので、冬場の朝などはオートマチックのフィーリングも違うほどです。
青い水温計のマークが消えてしまうまではオーバードライブにシフトアップできないようになっている車種も多く、オートマチックにとっての暖気はかなり重要です。
暖気をていねいにするとATが長持ちする?
これはあくまでも整備士としての僕の個人的な意見ではありますが、エンジン始動時に暖気をしたあともオートマチックにやさしい運転をすると、ATのトラブルを遅らせれると思っています。
具体的に言えば、アクセルワークを丁寧にしてシフトアップをする直前、さらにアクセルを緩めて意図的に変速ショックが小さくなるようにすることです。
とくに朝のエンジン始動をして車を発進するときの最初のシフトアップは変速ショックも大きなことが多く、一回目の変速はマイルドに行いたいところです。
十分に暖気が完了すればアクセルをしっかりと踏み込んでキックダウンさせたりするのもいいのですが、それもすべてのギアにひととおりギアチェンジしてからがATに優しい運転と言えます。
お客様の車を預かって、朝から車の試乗をすることもありましたが、どのオートマチックも始動直後のフィーリングはギクシャク感があります。
この状態でATに負担をかける運転をすると、シフトソレノイドだけでなく、トルクコンバーターなどの耐久性にも影響を与えてしまいます。
まったく同じ車種で同じくらい走行距離が多い車でも、エンジンやATがカチッとしていると感じる車とそうでない車があります。長年の「慣らし運転」が車にいいのかもしれません。
エンジンのコンディションにも気をつける
オートマチックに動力を与えているエンジンの調子が悪ければそれだけオートマチックの変速にも影響が出てしまいます。
点火系のトラブルは変速ショックよりひどい
とくに点火系のパーツのメンテナンスには気をつけるべきで、イグニッションコイルの不具合が原因でエンジンがシャクるようになると、オートマチックのフィーリングもかなり悪化します。
「オートマチックが壊れた!」と相談に来られたお客様の車を調べると、じつは点火系のトラブルだった、みたいなことは整備士ではよくある事例です。
まとめ
ATが実用され普及し始めた1980年代とくらべると、現在のATは制御の精密さや耐久性なども大幅に向上しています。
さらに多段化されていくことで変速ショックも非常に小さくなり、もはやマニュアルトランスミッションは一部のマニアックなドライバーや実用ありきでの使用目的にのみ採用されています。
それでも、ギアチェンジを行ううえで変速ショックが発生してしまうことは構造上は避けられず、走行距離が増えるにしたがってさらにショックも大きくなっていきます。
変速ショックが大きくなるおもな原因はオートマチックフルード(ATF)の汚れによるシフトソレノイドの作動不良にあります。
少しでもオートマチックの状態を保つためには定期的なATFの交換が望ましいのですが、どれくらいの距離で交換するべきなのかは車種や使用条件によっても違ってきます。
とはいえ、変速ショックが大きくなったからATFの交換をするというのは間違った考え方で、あくまでも調子がいいときに予防整備としてフルード交換をすることが大事です。
また、フルード交換と併せて添加剤を使うことで変速ショックの改善がみられた事例も多く、車齢や走行距離によっては添加剤の使用で誤魔化すしかないケースもあります。
ただし、とことん汚れてしまったATFを抜き変えすることによってAT不調を決定的にしてしまうこともあり、走行距離やフルードの交換頻度によっては交換作業を断られてしまうこともあります。
そのことを考えても、どのタイプのオートマチックにも言えることですが、フルードの交換は早めに行うのがオススメです。
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