マニュアルトランスミッションの車では、シフトチェンジや発進時のスムーズな動力伝達をするためにクラッチ操作をします。
回転数がことなるエンジンとトランスミッションとの連結を切ったり繋いだりするため、クラッチの接触部分はすり減っていきます。
なかにはクラッチの寿命が近づいている症状に気づかずに走行不能になってレッカーサービスのお世話になってしまうケースもあります。
今回は、自動車のクラッチの寿命について
・クラッチの寿命とはどの部品のことを指すのか
・クラッチの寿命が近い場合はどんな症状が出るのか
というお話をしていきます。
クラッチの寿命はどれくらい?
平均的には8万~10万キロくらいは持つはず
まず結論としてクラッチの寿命の平均を言うと、8万~10万キロくらいは問題なく走行できます。
ただし、このあとで詳しく述べますが、クラッチの寿命に大きく関係してくる要素もあり、なかには3万キロ未満で完全にダメにしてしまうドライバーさんもいます。
クラッチのメーカー保証は3年
クラッチ周辺に関するメーカーの保証は3年まはた5万キロ(距離に関してはメーカーによって多少違います)ほどです。
ただし、すべての不具合に対して保証を受けられるわけではなく、運転手の技量不足や間違った使用方法での不具合は保証の対象にはなりません。
整備士がクラッチディスクを見たら、
不具合なのか過失なのかはすぐにわかってしまいますので。
今回はクラッチの寿命がどれくらいなのか、というテーマでお話をしています。
ただ、整備士的には「それを言っちゃあ元も子もないでしょ・・。」という話ですが、クラッチの寿命はドライバーの運転技術に大きく左右されます。
言い換えれば、どんな運転をしているかでクラッチの寿命がかなり違うわけで、使用条件や運転方法も加味しつつクラッチの耐久性を考えていく必要があります。
クラッチの摩耗スピードは運転手の技量で大きく変わる
↑ 普通免許でも乗れる小型トラックのクラッチ操作は
運転手の技量にバラつきが見られるケースが多いです。
発進時のクラッチミートでわかってしまう?
クラッチの寿命の中でも典型的なのがクラッチディスクが摩耗してしまうことで、その摩耗スピードに多く関係してくるのが発進時のクラッチミートです。
停止した状態から車が動き始めるまでのクラッチペダルをゆっくりと上げていく操作、いわゆる「半クラッチ」を使っているときがクラッチにもっとも負担をかけます。
この半クラッチの時間が長いほどクラッチディスクの摩耗は早まってしまうので、マニュアル車の運転に慣れたドライバーほど半クラッチの時間は短いです。
なおかつ、エンジンの回転を必要なだけ上げていきながらクラッチミートさせると、クラッチへの負担は大幅に軽減されるので丁寧なアクセル操作も同時に必要です。
つまり、発進時でのクラッチを長持ちさせる運転とは
・エンジン回転を不要に上げない
・半クラッチの時間が短い
・クラッチのつなぎ方が丁寧
こういった運転を心がけている運転手ならクラッチの寿命は15万キロくらいは余裕で走れます。
ハイエースとかなら、
20万キロ以上もクラッチを無交換で走っているケースもけっこうあります。
スムーズなシフトチェンジも大事
クラッチ操作のなかでも頻繁に行うのがギアを変えるためのクラッチを切ってから繋ぐまでの一連の流れです。
クラッチを繋ぎ直すときに、エンジン側の回転とミッション側の回転に大きな回転差があると、クラッチを繋いだ瞬間に車が急減速することがあります。
これは、エンジンの回転とそのときの車速がギアと合っていないため、急激なエンジンブレーキが効いてしまうために起きます。
そのため、速度と車重をかけ合わせただけの運動エネルギーがクラッチにかかることになり、クラッチディスクのダンパーややクラッチカバーの接触面を傷める原因になります。
もちろんエンジンの回転が高すぎてもよくありませんが、低すぎてエンジンブレーキが効いてしまうほうがクラッチにはよくありません。
クラッチ操作に熟練しているドライバーのなかにはエンジンの回転をアクセル操作で上げておき、ミッション側とエンジン側の回転差をなくしてからクラッチを繋ぐテクニックを使う人もいます。
今ではタクシーですらオートマチック車がほとんどになってしまいましたが、
マニュアル車の運転ならプロの運転手の操作を参考にしてほしいところです。
・発進時の半クラッチを丁寧にすることでクラッチの寿命は15万キロくらいまで伸ばせる
・走行中のシフトチェンジでうまくエンジン回転を合わせればさらにクラッチの寿命は伸びる
とはいえ、どんなに上手に運転できるドライバーでもクラッチの寿命が短くなってしまう使用条件もあります。
つぎの章ではクラッチの寿命と使用条件の関係を説明していきます。
使用条件もクラッチの寿命に大きく関わってくる
ストップ・アンド・ゴーを繰り返す運転
配達に使っている軽バンのクラッチが、同一車種とくらべてオーバーホールが必要になりやすくなります。
つまり、短い距離で重い荷物を乗せた状態で「止まる」「配る」「発進する」を繰り返しているわけで、クラッチにはかなり負担を使用条件と言えます。
いくら運転技術に長けたドライバーさんでも、こんな使い方をしていてはクラッチディスクの摩耗は早く、クラッチのオーバーホールも定期的にすることになります。
例えば、
かなり重い牛乳のケースを乗せた状態で
一件ずつ車を止めて少しづつ牛乳を数本ほど配達する場合などは、
定期的にクラッチ交換が必要になります。
登坂が多い地域での使用
僕の経験談ですが、少しご高齢のお客様の軽トラックのクラッチがけっこうな頻度でダメになってました。
運転するところを観察していたのですが、クラッチのつなぎ方などはかなり上手なので「なんでだろ?」と思っていました。
あとで知ったことですが、山間部でみかん作っているようで、かなりの急勾配を重いみかんや農機具を乗せて走ることが多かったようです。
ここでのポイントは、急勾配での発進がクラッチにかなり負担になっていたということです。
・配達などストップ・アンド・ゴーを繰り返す使用
・重い荷物を乗せた状態での発進・山間部での使用などで上り坂の発進が多い
これらの条件が重なるとさらにクラッチの寿命は短くなってしまいます。
クラッチの寿命が近いとどんな症状になる?
エンジン回転がいきなり上がる
クラッチディスクが摩耗して限界がちかくなると、エンジンからの力を受け止めきれなくなり、アクセルを踏んでも車が進まないように感じることがあります。
初期症状では高いギアでおきる
クラッチのおもな消耗品はクラッチディスクですが、ディスクの表面がすり減って限界を迎えると「クラッチ滑り」が発生し、アクセルを踏んでもエンジンを空ぶかしをしたような症状がでます。
とくに高いギアで走行している状態でおきやすく、例えば、5速ミッションの車なら4速よりも5速に入っているときにクラッチ滑りが発生するようになります。
4速よりも5速のほうがクラッチに高い圧着力が求められるため、1速での発進時ではあまり症状が出にくく、初期段階ではクラッチの寿命に気づかない運転手も多いです。
整備士がクラッチのチェックをするやり方の一例
ちなみにですが、整備士がクラッチの寿命をチェックするときにエンジンストールするかどうかで判断することがあります。
やり方は、前後に障害物がない安全な場所に車を停止させ、フットブレーキを踏んだままで、サイドブレーキをしっかりと引いておきます。
エンジン回転はアイドリングのままで、ギアを最も高いギアに入れ、クラッチを一気に繋いでみてエンジンストールするなら合格、エンジンが止まらなければクラッチの寿命と判断します。
このやり方は
「たぶんダメだろうな」という
終わりかけのクラッチにしかやりません。
クラッチディスクの
ダンパーなどに負担をかけますので。
発進時にジャダーが出る
クラッチジャダー(clutch judder)とは、発進時などでクラッチを繋いでいくときに、「ゴツゴツ」といった感じの繋がりにムラが出る状態をいいます。
スムーズに車を発進させられないだけでなく、クラッチの切れも悪くなるのでシフトチェンジをするときにミッション側の回転が止まりきらずシフトが入りにくくなります。
おもにディスクの偏摩耗が原因
クラッチジャダーの原因はクラッチディスクやクラッチカバーの接触面に波のような凹凸ができることで、エンジンの動力が一定で伝わらなくなるために発生します。
クラッチディスクが摩耗していくことで、クラッチディスクの表面のフェーシングと呼ばれる部分が偏摩耗することがあり、ジャダーを起こしますがクラッチカバーに問題があるケースもあります。
エンジンオイル漏れが発生し、
漏れたオイルがクラッチ側に流れていくことで
クラッチフェーシングが
傷んでしまう場合などは偏摩耗が起きやすくなります。
クラッチペダルの上のほうで繋がる
クラッチの寿命の典型クラッチディスクの摩耗で、クラッチペダルを上げていってもなかなか車が進まず、最終的にはクラッチペダルを完全に戻しきっても車が進まなくなります。
ワイヤー式なら調整もできる
軽自動車や小型車ではクラッチペダルとミッション側のレリーズフォークをワイヤーで繋げている車種も多く、クラッチディスクの摩耗が進むと、はっきりとわかるほどに繋がり方が変わります。
そのぶん、クラッチディスクの摩耗が進んでもワイヤーの付け根にある調整ネジを動かすことでクラッチワイヤーの遊びを作ることでもとの踏み代に調節できます。
ワイヤー式のクラッチペダルは、クラッチディスクが摩耗する→ワイヤーを調整する→もとの踏み代にもどる→また摩耗するという具合に調整しながら使っていきます。
車検や法定点検でマニュアル車が入庫したら
クラッチワイヤーの調整は必ず確認します。
油圧クラッチは踏み代の調整ができない
今では主流となる油圧クラッチは、中型以上の乗用車やほとんどの貨物車に採用されていて、クラッチディスクが摩耗してクラッチフォークの位置が変わっても踏み代に大きな変化はありません。
油圧クラッチのメリットは、クラッチフォークの位置が変化しても、クラッチレリーズシリンダーが縮むことで遊びがの調整がいらないことです。
ただし、クラッチディスクがどんどん摩耗してくるとクラッチの繋がるポイントがどんどん上のほうになり、クラッチペダルもかなり重くなります。
ワイヤー式も油圧式も、どちらにせよクラッチディスクがすり減って薄くなるとクラッチが重くなります。
クラッチペダルが重くなる
クラッチディスクの摩耗がわかる理由
クラッチの構造上、クラッチディスクが摩耗してくるとクラッチカバーのダイヤフラムスプリングの角度がきつくなります。
するとレリーズベアリングでスプリングを押す力がきつくなるので、クラッチディスクが痩せてくるとクラッチペダルを踏むための力が必要になります。
そのため、「以前よりクラッチが重くなったな」と感じたらクラッチの寿命が近づいているといえます。
同じ車種を何台もチェックしてきたディーラーの整備士やベテランの整備士なら、クラッチペダルを踏んだ瞬間にクラッチディスクの摩耗度合いがわかるのです。
軽トラックなどはとくにわかりやすく、交換したてのクラッチは「カクン」という感じで奥にいくほど軽くなる感じに、すり減っていると踏み始めがもっとも重くなります。
まとめ
10万キロ走れる運転を
クラッチ部品の耐久性はその車の出力や車両重量などで違いがありますが、本来は10万キロくらいは走れるくらいには設定されています。
ただし、運転手の半クラッチの使い方や重量物を乗せたままのストップ・アンド・ゴーなど、使用条件や乗り方によっては5万キロも持たないケースもあります。
そのいっぽうで、軽自動車でも20万キロちかくクラッチ交換をせずに走行できているケースもあり、意識をすることでクラッチの寿命は伸びます。
クラッチ交換は高額修理
クラッチのオーバーホールをするには、トランスミッションを車体から降ろすという大掛かりな作業をすします。
そのうえ、
・クラッチディスク
・クラッチカバー
・レリーズベアリング
・パイロットベアリング(車種による)
上記のような部品を同時に交換することになり、軽自動車クラスでも5万円、コンパクトカー以上なら7万円以上の修理費用となります。
なかにはミッションを降ろすためにエンジンくっついたまま、まるごと車体から切り離す車種もあり、高額な修理費となります。
安全でエコな運転がクラッチの寿命を伸ばす
少し意外かもしれませんが、燃費のいい運転を心がけるとクラッチにもやさしい運転をすることができます。
「急ブレーキ」「急アクセル」などの『急』がつく運転を避けることで経済的に車を走らせることができるのです。
それでは皆様、ご安全に。
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