車のブレーキディスクは、ディスクパッドの種類にもよりますが、少しづつ摩耗しています。
とくに欧州車の場合はディスクパッドの材質が硬いものが使われていることもあり、摩耗は早いです。
またディスクブレーキとディスクパッドが接触していない部分は摩耗しないので「段付き摩耗」が発生します。
今回はブレーキディスクに段付きができるとどのような不具合が発生するのかについてお話していきます。
ブレーキディスクの段付き摩耗への処置や予防にはどのようなことがあるのか紹介していきます。
ブレーキディスクの段付きとは
ブレーキパッドとブレーキディスクと接触している部分はブレーキパッドも減っていくことになっていますが、スポーツパッドを組み込んでいる場合や輸入車の場合はディスク側もかなりの摩耗をすることがあります。
段付き摩耗とは、ブレーキディスクが急激に摩耗することでディスクパッドが触れていない部分との摩耗に大きな違いができることで、触れてもわかるくらいの摩耗の違いができている状態を言います。
段付きによる問題点や不具合は?
少し意外に感じるかもしれませんが、段付き摩耗ができているブレーキディスクには不具合が感じられないことも多く、むしろ少しの段付きがあるくらいでブレーキの踏み代がきっちり出てきます。
ディスクに段付きができるということは、それだけディスクパッドとの当たり面と馴染んできているといえ、ブレーキングでの食いつきもよくなります。
もちろん段付き摩耗の弊害もある
ブレーキディスクに段付きができると、ディスクパッドの外周部分との接触部分が偏摩耗することがあります。
この状態ではブレーキペダルを離している状態でもディスクパッドとディスクが触れていて、走行中に「シュー」とか「ゴー」といった音がすることがあります。
とくに壁際を走行しているときに窓を開けて走行するとわかりやすく、接触している面積が広いほど異音も大きくなります。
場合によっては、ブレーキパッドのセンサーが触れているような金属的な「キー」という甲高い異音がすることもあります。
本来はブレーキパッドとディスクにはほんのすこしだけの隙間があり、ブレーキが引きずらない程度のギリギリ隙間が確保されています。
ブレーキディスクに段付きができると、ブレーキパッドとの隙間ができることがあり、ブレーキペダルを踏み込んでからブレーキが効きはじめるまでに若干の時間差ができ、空走距離に影響します。
ブレーキディスクが段付き摩耗をする原因
ディスクパッドの材質が硬い
ブレーキパッドにはさまざまな材質が配合されていて、「ディスクへの攻撃性」「ブレーキダストの量」「ブレーキ鳴きの発生を抑える」「低温時での効き」など、求められる用途に応じて違ってきます。
とくに高温時での制動力を重視しているようなスポーツ走行に対応しているディスクパッドは、低温時では効きが悪く、なおかつブレーキディスクへの攻撃性が高いものもあります。
純正のブレーキパッドとはいえど、その車のタイプに応じてディスクパッドに配合する材質も違いがあります。
そのため、重量のある大型高級セダンなどはブレーキパッドも制動力を安定させるためにブレーキディスクへの攻撃性を犠牲にしている場合もあります。
とくにベンツやBMWなどのドイツ車はディスクの段付き摩耗が顕著に見られ、ディスクパッドの交換ではディスクもセットで交換を推奨しています。
「ちょい乗り仕様」の車はブレーキに段付きができる?
同じ車種であってもブレーキディスクの段付き摩耗に大きな違いが見られることがあります。
とくに車検の分解点検などでブレーキの残りをチェックしていると感じことが、走行距離が少ないにもかかわらずブレーキパッドの摩耗が早いケースがあります。
ユーザー御本人にそのことを伝えると「近場にしか行かないけど毎日のように車は使っている」という、一回の走行距離が短いという方に多いです。
じつはこの使用条件、ブレーキにとってはあまり望ましいものではなく、つねにブレーキが暖まらないことでディスクローター表面が荒れやすくなります。
ブレーキパッドにも適正な温度域があり、車を走らせた直後はブレーキ周辺の温度もほとんど常温にちかく、本来の制動力が発揮できない状態です。
わずか数回でもブレーキを効かせることでディスクパッドの表面温度が上昇、制動力も安定してブレーキディスクへの攻撃性も低くなります。
つまり、ブレーキが暖まらない状態ばかりで走行するということは、ブレーキパッドにもディスクにも負担が大きく、結果的にはディスクに段付き摩耗ができやすくなります。
ブレーキキャリパーの構造でも違いが出る
コンパクトカーや軽自動車によく採用されるディスクブレーキの構造が、「片持ちワンポッドキャリパー」などと呼ばれる、もっともシンプルな構造のものです。
メリットは製造コストが安いことですが、このワンポッドキャリパーにはデメリットもあり、ディスクパッドの減り方に偏りができやすいということです。
とくにスライドピンの部分にガタが大きいと、ブレーキに油圧がかかった状態でキャリパーに斜めの力が働くことがあり、ディスクパッドに均等な力が加わりにくくなります。
結果的に、ディスクパッドがブレーキディスクに対して偏った力を加えることになりブレーキディスクに段付きができる原因になることがあります。
ブレーキキャリパーの構造に問題がある場合は、同じ車種や同じタイプのキャリパーを採用している場合に、よく似た段付き摩耗が見られることがあります。
この場合、段付き摩耗を少しでも抑えるには、キャリパーの動きが悪くならないようにディスクパッドのを脱着することでパッドグリスを塗布したりブレーキダストを清掃、ピンスライド部分へのグリスアップなどが望ましいです。
とはいえ、それでも段付きができやすいことには変わりはなく、根本的な解決にならないままで早めのディスクパッド交換やローター研磨で対応するくらいです。
ブレーキのオーバーホールが必要なことも
左右のホイールに付着したブレーキダストに違いが見られる場合はブレーキに引きずりが発生している可能性があり、点検をする必要があります。さらにディスクの段付きにも左右で差がある場合は要注意です。
ブレーキキャリパーは高温にさらされることでキャリパー内部に組み込まれているピストンのシールやスライドピン内部のダンパーゴムが劣化していきます。
とくにピストンのシールが劣化することで、キャリパー内部でのピストンの動きが悪くなり、ブレーキパッドがディスク面に押し付けられたままの「引きずり」が発生することがよくあります。
この「キャリパー内部の引きずり」もブレーキディスクへの偏摩耗の原因になることもあり、なおかつ深刻な状態になるとピストン周辺のブレーキフルードが高温になり気泡が発生する「ベーパーロック現象」を引き起こすこともあります。
ブレーキディスクの摩耗限界は?
摩耗限界はそれぞれ1mmの段付き
一般的にはブレーキディスクの摩耗限界は片側で1mm、つまり内外で1mmずつと言われています。
ただしブレーキディスクにもいろんなタイプがあり、ソリッドディスクやベンチレーテッド、さらには車格でも本来のディスクの厚みが違います。
メーカーの「推奨値」と整備士の考える「限界値」
メーカーが推奨している「1mmの摩耗が限界」というのは、整備士をしてきた僕としては『少し安全マージンを持たせすぎじゃないの?』という気がしなくもないです。
実際はタクシーやトラック、営業車などの「ひどい使われ方」をしてきた車の点検をしてきましたが、とうに摩耗限界を超えているものもありました。
実際に乗り込んでブレーキペダルを踏み込んでみると、ディスク表面の凹凸がひどく、同乗者が乗り物酔いをするくらいのぎこちないブレーキタッチや、激しいブレーキ鳴きで頭が痛くなります。
これらはブレーキディスクの交換基準でいえば、とうに限界値を超えているものの、車検に合格するだけの制動力や左右差はありません。
ブレーキのパーツメーカーが推奨するブレーキディスクの限界値は、「安全かつ快適」という安全マージンを多めにとった推奨値だと考えています。
整備士として実際にブレーキ周りの点検をしていても、ブレーキディスクが原因で制動力の大きな影響が出るという事例はほとんど経験したことはなく、かなりひどい状態でもある程度の制動力は確保できます。
では、ブレーキ周りの点検をしていて、本当の意味でブレーキディスクの限界を迎えた状態とはどんな状態なのかを整備士としての経験を踏まえて説明していきます。
ディスクの摩耗限界を超えるとどうなる?
ブレーキディスクが摩耗して薄くなることで、ディスクとしての体積が小さくなることになり、結果的に高温にさらされた場合の熱膨張や熱収縮での歪が出やすくなります。
ブレーキペダルにキックバックや違和感がある
ブレーキディスクの表面に凹凸ができると、ブレーキパッドがディスクに押し戻される距離が幅が多くなりブレーキング時にブレーキの抜けのような違和感を感じるようになります。
また、ブレーキペダルにディスク表面の凹凸が伝わることで制動力にムラができたりペダルに違和感を感じます。
ヒートクラックが起きる
一般的なブレーキ操作ではまず起こりませんが、ブレーキディスク表面に急激な温度が加わるとヒートクラックが入ることがあり、そのままブレーキを酷使するとローターが割れる可能性があります。
ブレーキディスクは研磨できる
↑これはローター研磨が終わった状態のブレーキディスク。
作業前のものとは全く違っています。
年間走行距離が少ないならディスク研磨もアリ
ブレーキディスクの表面を切削することで凹凸や偏摩耗をなくす作業をローター研磨といい、積雪の多い地域では車検の整備メニューの定番としている整備工場もあります。
すべてのケースでローター研磨ができるわけではなく、融雪剤などで腐食が早い地域や、年間走行距離が少ないことでディスク表面が荒れている場合などはディスクを交換せずとも研磨でいけることもあります。
ローター研磨の費用はいくらほど?
ブレーキディスク(ローター)を研磨するにはディスク単体にするために車体から外す必要がありますが、車種によってディスクの脱着の費用がかなり違ってきます。
軽自動車やコンパクトカーならブレーキキャリパーの脱着も簡単なぶん、ディスクの脱着作業料も抑えることができますが、大型のセダンやSUVなどの対抗4ポッドキャリパーなどは脱着作業の手間が違ってきます。
ブレーキキャリパーのタイプなどで違ってくる
ブレーキディスク脱着作業料金 左右で8,000円~10,000円ほど
ディスクローター研磨 左右で6,000円~8,000円ほど■大型セダンやSUVなどのキャリパーが大きな車種
ブレーキディスク脱着作業料金 左右で12,000円~20,000円ほど
ディスクローター研磨 左右で10,000円~15,000円ほど
ただし、これらの作業料金はブレーキキャリパーのタイプやブレーキディスクとナックルとの取り付け構造でも違ってくるのは、詳しくは車検証の諸元をもとに整備工場で見積もりを出してもらってください。
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