整備士のサボカジです。
今回はDA64系のエブリィやエブリィワゴンの、水漏れしていないのにリザーブタンクの冷却水が減っていく原因についてのお話です。
僕自身もDA64Wのエブリィワゴンに乗っていて新車から10年近く乗ってきました。
軽自動車の中では比較的に重量があるエブリィや軽トラックとして酷使されることが多いキャリィ。
660ccの排気量では非力に感じることも多く、知らず知らずのうちにエンジンに負担をかけていることが多いです。
・ラジエーターの冷却水が減っているのに漏れが見当たらない原因
・この状態はどれくらい深刻な状態なのか?
これらについて、整備士としての経験も含めてお話していきます。
ただし、今回の記事はほんの一例ですので、他にもいろんな原因はあります。
DA64系のエブリィやキャリィは冷却水が減る?
リザーブタンクの位置で減り方が違う?
自身のエブリィワゴンは新車から乗っていますが、冷却水のリザーブタンクが減るということはあまり経験したことはありません。
9年以上経過した現在の走行距離は11万キロを超えましたが、ボンネットを開けたところにあるリザーブタンクの液面に大きな変化はありません。
とはいえ、リザーブタンクの空気抜きの穴から少しづつ蒸発して減っているような減り方はしますが。
過走行のエブリィワゴンは冷却水が減ることが多い?
10万キロを超えて冷却水が減り始めた?
さきほど、新車からほぼ冷却水が減ったことはなかったと書きましたが、じつは10万キロを超えたあたりから「ぼちぼち」なペースで減ることがありました。
3か月くらい経ったときにふと冷却水のリザーブタンクを確認してみるとフルレベルとロアレベルの間くらいに調整していた液面が、ロアレベルの少し上ぐらいに。
蒸発した水分だけ液面が下がったのかとおもいつつ、これまではあまりなかったことなので少し心配になってきました。
冷却水のニオイが漂うことが・・
リザーブタンクの冷却水がじわじわと減ることがあった時期から、エブリィワゴンを止めていると、車体の前側から冷却水(クーラント)の臭いがすることがあります。
あの独特の鼻にツンとくるような臭いなので、自動車整備士という職業柄でかなり気になります。
ところが、リフトアップしてエンジン回りを中心に車体の下回りを点検していてもはっきりと冷却水が漏れている場所を特定することができませんでした。
滲んだ冷却水がエンジンブロックの熱で揮発していく
この場合、よくあるのがエンジンブロックなどの高温になる部分に漏れた冷却水が付着し、下に滴る前に高温にさらされて水分が飛んでしまっているという現象です。
冷却水の漏れたような臭いがするけど、どこから漏れているのかがわからないという場合は、高温になる部分から少しづつだけ冷却水が漏れて臭いだけがするというパターンといえます。
タービン周辺から水が滲むことが多い
さきほどの「エンジンブロック周辺で水漏れがおきてそのまま蒸発する」というお話ですが、エンジンのすぐ隣に配置されているタービンからの水漏れも考えられます。
↑ このように、タービンの軸受け部分を冷やすために冷却水が巡っていますが、
↓ 冷却水のパイプの付け根から冷却水が漏れて乾いた跡が残っています。
タービン本体はエンジンブロックよりも高温になるので、多めに漏れた冷却水でさえもタービンの熱でそのまま蒸発することがあります。
すると、冷却水が地面に落ちていないのに、冷却水の独特のツンとした臭いがすることがあります。
また、タービンの軸受け部分のシールが破損したことで、冷却水が燃焼室に吸い込まれていくことも考えられます。
エブリィだけとは限らず、ターボ付きの車ならありうることですが、とくに軽箱バンや軽ワゴンのターボでは起きやすい不具合です。
冷却水が減るのに漏れてない原因とは
ラジエーターキャップの不良
ラジエーターキャップの機能は大事
エンジン内部の冷却水が冷えた状態と暖機された状態ではラジエーター内の圧力が違います。
その内圧を制御するための役割をしているのがラジエーターキャップで、冷却水の温度が高くなり内圧が上がりすぎると、リザーブタンクに冷却水を逃がす働きをします。
ところが、このラジエーターキャップの弁の部分がうまく機能しないと、ラジエーター内の内圧が低い状態でもリザーブタンクに冷却水を逃がしてしまうことがあります。
すると、冷却水を一時的に溜めておくリザーブタンクがいっぱいになってしまい、リザーブタンクの注ぎ口やオーバーフローのための通路から冷却水がこぼれていくことがあります。
ラジエーター本体の冷却水が減っていく?
ラジエーターキャップの内圧を保持する機能が失われたままでは、エンジンが暖まるたびに冷却水がリザーブタンクに送られ、エンジンが冷えても冷却水を吸い込まなくなります。
すると、リザーブタンクには多いくらいの冷却水が入っているのにラジエーター本体の冷却水が不足するような症状がおきることがあります。
エブリィにもラジエーターキャップはある
エンジンによっては加圧タンクもあるケースがありますが、スズキのエブリィやキャリーはラジエーターキャップだけで冷却水の圧力の制御をしています。
あまりにも交換されることがないままのラジエーターキャップならリザーブタンクにオーバーフローさせてしまうトラブルも考えられます。
車検毎にラジエーターキャップを交換するのも過剰整備ではないですが、4年くらい使っているならラジエーターキャップを交換するのもおすすめです。
シリンダーヘッドガスケットが抜けている状態
上述しましたが、「滲んだように漏れている冷却水がどこかで蒸発している」という状態は、漏れている部分を修理することができればそれで解決することができます。
とはいえ、エンジンブロックとシリンダヘッドの継ぎ目から冷却水が滲んでいる場合はいずれ大がかりな修理が必要になります。
ヘッドガスケットの交換が必要になると、エンジンの外側や内部に冷却水やエンジンオイルが漏れていく現象が起きます。
もっとも深刻な状態とは
シリンダーヘッドガスケットの密閉性が落ちてしまって冷却水がエンジンブロック周辺ににじみ出るケースは、ある意味で軽症といえます。
深刻なのは、シリンダヘッドガスケットの密閉性が落ち、シリンダーブロックのウォータージャケットから冷却水が燃焼室に入り込んでしまっているケースです。
整備士たちはこの状態を「ヘッドガスケットが抜けている」「ヘッドが抜けている」「ガスケットが抜けた」といった言い方をしています。
つまり、本来はシリンダーブロックの中ではエンジンオイルが通過する通路と、冷却水が通過するウォータージャケット、シリンダーが圧縮する圧力は、混ざることはありません。
それが、なんらかの理由でシリンダヘッドガスケットの劣化で、燃焼室に冷却水が流れ込んで、ガソリンと一緒に燃えて出ていくことがあります。
スズキのK6A型エンジンの場合・・
DA64系のエブリィに搭載されているK6A型エンジンの場合、シリンダーヘッドガスケットがダメになって冷却水が燃焼室に入り込むケースがあります。
たいていの場合は、走行距離では10万キロ以上、もしくは高負荷な運転を繰り返しているような使用条件です。
とくにエブリィの場合はエンジンが縦置きなので、走行風が十分に当たらず、熱がこもりやすい二番シリンダーがに冷却水が入ることがあります。
同じK6A型エンジンでもエンジンレイアウトが横置きのワゴンRやアルトなどよりもエンジンが縦置きのエブリィやジムニーには起きやすいのが特徴です。
シリンダーヘッドガスケットの交換費用は高額
ヘッドガスケットの交換とは?
今回はエブリィに関するお話なのですが、オーバーヒートや過走行が原因でしりだーヘッドガスケットが抜けてしまうことはどのエンジンでも起こりえます。
シリンダーヘッドが熱で歪んでしまった状態ではなく、ガスケットだけの交換で修理が完了する場合でも、シリンダーヘッドをシリンダーブロックから切り離す必要があります。
その場合、ヘッドカバーを外してタイミングチェーンも外していくことになり、作業性が悪いキャブオーバーのエブリィでは、エンジンをまるごと降ろしてしまうほうが早いこともあります。
キャブオーバータイプのエブリィは作業性が悪い
エブリィのような運転席の下にエンジンがあるタイプの車は、キャブオーバーと言われるタイプのエンジンレイアウトです。
ボンネットからエンジンを触ることができるタイプのアルトやワゴンRのような車種なら作業性がいいので、5時間で終わる作業がキャブオーバーの場合は1時間以上の時間ロスになることもあります。
作業時間が長くなるほど作業工賃もそれに比例して高くなるので、シリンダーヘッドガスケットのようなエンジンの上側にアプローチする作業では時間がかかってしまいます。
たとえば、整備士が1時間を費やす作業を金額にする「レバーレート」が8,000円なら、5時間かかる作業と6.5時間かかる場合では
シリンダヘッドガスケットの交換
8,000円 × 5時間 = 40,000円
8,000円 × 6.5時間 = 52,000円
となり、エブリィのようなキャブオーバーの車のほうが修理費が高くなります。
あくまでも目安ではありますが、シリンダーヘッドガスケットの交換にはこれくらいの作業時間がかかります。
まとめ
エブリィの冷却水が減るもっとも多いケース
今回は『水漏れをしていないのに冷却水が漏れる』という症状だけをピックアップしたお話でした。
このまでのお話でいくつかのありがちな症例を紹介してきましたが、スズキのエブリィシリーズだけで考えると、冷却水が減る原因としては、
・エンジン周辺やタービンで水漏れが発生し、そのほとんどが周辺の熱で蒸発して滴り落ちない。
・ヘッドガスケットの不良やヘッドの歪みにより、燃焼室に冷却水が入り込んで排ガスとともに出ていった。
上記のようなケースが多いようです。
この場合はタービン本体の交換やシリンダーヘッドガスケットの交換など、
それなりに費用と時間がかかる修理になることでしょう。
【関連記事】DA64Wエブリィワゴン|10万キロ超えの状態は?あと何年何キロ乗れる?
コメント
サボカジ様
はじめまして、エブリィのクーラント液の現象のサイト拝見しました。まさにサイト通りでクーラント液が減ってしまいます。今年1月に水温警告灯が点灯して修理に出してとりあえずサーモスタットを交換してみますと言われクーラント液とサーモスタットを交換してもらいました。その後は警告灯も点灯することが無かったんですが今回また点灯してしまい、オートバックスでオイル交換をしたついでに見てもらいました。サーモはそんにすぐに壊れるものではないので室内とエンジンルームのラジエーターキャップを変えてみたらどうかと提案されました。それで改善されないようならエンジンに回っているような話でした。昨日念のためラジエーターキャップを外して見たところほとんどクーラント液が空になっていました。キャップを変えて改善されないようでしたら、一度見ていただければと思っています。当方は厚木市近辺在住です。
さち様
はじめまして。
エブリィのクーラントが減るという現象についてですね。
先にお伺いしておきたいのが、走行距離、ターボなのかノンターボなのかなどですが、DA64系のエブリィワゴンでしたら乗用モデルは全車ターボ付きです。
エブリィのターボモデルでよくある事例を紹介しておきます。
走行距離が10万キロを超えているターボモデルの場合、クーラントが減る原因として多いのが、
・タービン周辺からの水漏れ
・シリンダーヘッドガスケットの損傷やヘッド面の歪みなど
上記のようなことが多いようです。
とくに、走行距離が多いターボモデルのエブリィでは、2番シリンダー周辺でヘッドガスケットが抜けていて、燃焼室にクーラントが入り込んでしまうことが多いです。
この症状のやっかいなところは、水漏れが外部に起きていないので、いくらエンジン周辺を見ても水漏れしている部分がわからないことです。
この場合では、燃焼室に入り込んだクーラントは、そのまま排気ガスと一緒にマフラーから出ていってしまいます。
さち様のエブリィの場合、今後確認していただきたいのは、
・過去にオーバーヒートをしたことがないか
・エンジン周辺やタービン周りの水漏れがないかを念入りに確認
・エンジンの圧縮が正常かどうかをコンプレッションゲージで測定する
上記の2点を整備工場で確認してもらってください。
走行距離が多いのであれば、残念ながらシリンダーヘッドガスケットが抜けているか、シリンダーヘッドが歪んでしまっているかではないでしょうか。
その場合は、シリンダヘッドの載せ替えやガスケットの交換よりもエンジンを載せ替えするほうが確実なケースも多いですが、直に確認しないとなんとも言えません。
ちなみに、僕が住んでいる地域は厚木市からははるか遠いので診て差し上げることはできません。
以上なにかしらの参考になれば。
ご返信ありがとうございます。車はターボで、距離は185000キロです。エンジンの乗せ変えの場合通常費用はどのくらいかかるものなのでしょうか?修理せずにクーラント液を足しながら乗ることは当面可能でしょうか?ちなみに前回修理の時に水温計の赤表示は点灯しましたが、すぐに、運転を中止して修理に出しましたのでラジエーターからクーラント液が吹くようにことはありませんでした。エンジン付近からの水漏れは何度か確認しましたがありませんでした、
お忙しいところ申し訳ありません。ご助言いただければ幸いです。
さち様
>車はターボで、距離は185000キロです。
>エンジンの乗せ変えの場合通常費用は
>どのくらいかかるものなのでしょうか?
↑
まず、エンジンを載せ替えする場合、「リビルト品」と「中古品」の2つの選択肢があります。
リビルトエンジンを使用する場合、
①リビルトエンジン 15万円前後
②エンジン脱着作業工賃 5万円~7万円ほど
③その他のショートパーツやクーラントエンジンオイルなど
トータルで25万円ほどで収まるのではないでしょうか。
中古エンジンを使用する場合
①中古エンジン 7万円~10万円ほど
②エンジン脱着作業工賃 5万円~7万円ほど
③その他のショートパーツやクーラントエンジンオイルなど
中古エンジンの価格はエブリィの場合、他の軽自動車よりも割高で、走行距離の少ないエンジンは価格も高めになります。
また、18万キロを超えているということですが、タービンも故障する確率が高く、同時に交換するほうがいいかもしれません。
その場合、リビルトのタービンで7万円くらいはするでしょうか。
また、僕の経験では、エブリィワゴンではオートマチックが不調になった事例もあり、走行距離から考えるとオートマチックの載せ替えも近い将来必要になる可能性があります。
今回はエンジン載せ替えにフォーカスしていますが、車全体としてのコストも視野に入れて修理を検討されたほうがいいですね。
>修理せずにクーラント液を足しながら
>乗ることは当面可能でしょうか?
クーラントがどれくらいの頻度で減っていくのかにもよりますが、高速道路の走行はもちろんNGで、近場ですこし走らせるくらいなら「だましだまし」という感じで乗れるかもしれません。
ただし、車検に出したときに排ガスが合格できないなどの弊害もあるかもしれませんね。
以上、参考になれば幸いです。
ご回答ありがとうございます。修理、買い換えも含めて検討してみます。
DA64系のエブリィに搭載されているK6A型のターボ車で197000km走行
以前からボコボコ音がする度に水を入れて処理してましたがだんだんとひどくなり30km走行するとラジエータの蓋を開けて2Lのペットボトル2本は入ります。それで今のところエアコンも効き支障なく走っているのですが30km走行毎に4Lの給水はさすがにいつ壊れるか怖いです。走り出して10分くらいでボコボコ音聞こえます。燃焼した排ガスが冷却水循環ルートに入って沸騰して水が減ると思われます。エンジンガスケットが抜けてると思うのですが延命修理(ガスケット交換)も車両本体より高くなりそうですので
命が尽きるまで乗ってあげて見送ろうかと思ってます。
やはりボコボコ音は僕の推測は正しいでしょうか?教えてくださいよろしくお願いします
NAO様
おそらくご推測のとおり、シリンダーヘッドガスケットが抜けているか、最悪の場合はシリンダヘッドが歪んでいると思います。
ラジエーターキャップから水を補充してもエンジン周辺のどこにも水漏れがない場合、冷却水が燃焼室に入り込んでマフラーから出ているのでしょう。
エンジンが縦置きのエブリィやジムニーではわりと起きるのですが、2番シリンダー付近のウォータージャケットから冷却水が入り込むことがあります。
この状態では登り坂や高速道路などの負荷の高い走行をできませんし、燃焼室に大量の冷却水が入り込んで、とつぜんエンジンがかからなくなる可能性もあります。
延命処置として考えられるのは、ラドウェルなどの冷却水の漏れ止め剤をラジエーターに入れてみることくらいでしょうか。
ただし、漏れ止め剤がうまく届いてくれればいいのですが、別のところに引っかかってしまう可能性もあるのでリスクを承知の「最後の手段」ですが。
冷却水の量を切らさないようにしつつ、いつ走行不能になるのかもわからないのでレッカーサービスを依頼する準備もしておいたほうがいいですね。
できればミッションとエンジンがくっついたままの中古があればまるっと交換できればベストなんですが。
以上、ご参考にしてください。
サボカジ
サボカジ様
やはりそうでしたか。
でも冷却水が燃焼室に入り込んでもエンジンがかかって走るんですね?
先客のさき様への提案のように¥25万を捻出して治すであれば
新古車に乗り換える費用に充填が懸命と思いました。
外部もボコボコですし車検まで4ヶ月遠出せず、年寄りの散歩と考えて乗ってあげて見送るが良いかと思いました。
とても為になるコメントありがとうございます。
このようなサイトがある事と丁寧な返信にとても感謝してます。
NAO
NAO様
お役に立てたようでよかったです。
>外部もボコボコですし車検まで4ヶ月遠出せず、
>年寄りの散歩と考えて乗ってあげて
>見送るが良いかと思いました。
↑
そうですね。
車は乗り続けることでコスパが悪くなる時期がきます。
愛着があってふんぎりがつかないという方もいますが
修理ばかりになると、嫌な思い出が最後に残ることになりますね。
>とても為になるコメントありがとうございます。
>このようなサイトがある事と
>丁寧な返信にとても感謝してます。
↑
ありがとうございます!
記事更新のなによりの励みになります。
またなにかあればご質問くださいね。