軽自動車の高額修理として多いのがターボの故障です。
ディーラーに依頼すればその修理費は15万円くらいかかります。
整備士としての経験上でもターボが故障する確率は軽自動車のほうがはるかに高いです。
ですが、軽自動車のターボが故障しやすい理由に関して
一般ユーザーさんが誤解していると感じている部分もあります。
そこで今回は
・軽自動車のターボは本当に壊れやすいのか?
・軽自動車にターボはいらないのか?
・軽自動車のターボの寿命はどらくらいなのか?
お客さまからもよく聞かれるこれらの疑問にお答えしていきます。
軽自動車のターボは壊れやすい?
軽自動車のターボは弱いのか
よくお客さまに聞かれるのが「軽自動車のターボって弱いの?」といった感じの質問です。
それに対する僕の回答は「車種にもよるがあまり強くない」という、少しあいまいなものになります。
なぜ車種によるのかというと、ターボが付いている軽自動車と一言で言っても、その性格というか、味付けはかなり違います。
ターボとは「タービン」と呼ばれるパーツがエンジンの排気側とつながっていて、排気ガスの圧力である「排圧」を使ってタービンブレードを回します。
するとタービンブレードと同軸上にあるコンプレッサーがエンジンに取り込む空気を強制的に圧縮しながら送り込んでいます。
ターボエンジンが自然吸気エンジンよりもパワフルなのは、流入する空気の量が自然吸気よりも多いからです。
タービンにも性格がある?
ターボ付きのエンジンは各メーカーの車種別のラインナップにありますが、それぞれの車種によってターボをつけている意図が違います。
たとえば、同じ軽自動車でも実用的な用途で使われることが多い車種だと、重い荷物を載せていても乗りやすいように、エンジンが低回転でもパワーが発揮できるようになっています。
タービンにはA/R(エーバイアール) という、そのタービンの特性を決める数値があります。
細かいお話は省きますが、低速からターボが仕事をする設定や、高速域で「どかん」をパワーを発揮するようにもできます。
つまり、軽自動車に付いているターボにも「マイルドターボ」などと呼ばれる実用性を重視したものや、スポーツ走行よりの動力性能を狙ったものがあるのです。
この場合、ハイパワーで加給圧を高く設定しているターボのほうが負担が大きく壊れる確率が高くなります。
軽自動車のターボが壊れる原因
軽ターボが短命な理由
ここでお話を「軽自動車のターボは弱いの?」という部分にもどします。
ターボが壊れる原因としては、単純に寿命をむかえたという場合や、メンテナンス不足、使用用途でも違ってきます。
ただ、ここで言えることは、軽自動車のターボは普通車のターボよりも仕事をしている時間も仕事量も多いということです。
つまり、つねに仕事をし続けている軽自動車のターボは「短命」なのです。
いいかたを変えれば「いつも無理をしている」とも言えなくもないのですが、ターボ自体の耐久性よりも仕事量が多いからこそ寿命も短いということです。
軽自動車は重い?
では、なぜ軽自動車のターボの仕事量が多いの?ということになりますが、そもそも軽自動車は660ccという小さな排気量に、1トン近い車両重量というアンバランスな車種です。
それゆえの非力さをカバーするためにターボが装着されることが多いのですが、エンジンの排気量が大きいほど、ターボを回す力も得られやすいため、
660ccの排気量でもきちんと機能させられるターボとなると、どうしても高回転型になってしまいます。
つまり高回転で高負荷なパワーの出し方をするターボということになり結果的に寿命が短くなるということなのです。
たとえば軽自動車に使われているターボを300ccのエンジンに搭載し、車両重量が500kgほどの車体に仕上げた車があるとします。
つまりターボは同じでも排気量も車両重量も小さく軽くなっているわけですが、おそらくこの場合、同じターボですが寿命は長くなるでしょう。
もしもタービン君がしゃべることができたら「やっぱ軽い車って楽やわー!」などと言うかもしれませんねw
たまに、軽箱バンのターボにお乗りのお客さまのターボがえらく短命になったことがあるのですが、
350kgのはずの積載量の軽バンに信じられないほとの荷物を載せて高速道路をアクセルべた踏みという使用条件でした。
これではターボの悲鳴が聞こえてきそうですね。
軽自動車のエンジンオイル交換サイクル
軽自動車のエンジンオイルは汚れやすい
別の記事で、エンジンの排気量によってスパークプラグの寿命や交換推奨距離が違うというお話をしました。
・バイクは5000km
・軽自動車は15000km
・普通車は20000km
つまり、まったく同じスパークプラグを組み込むことができてもスパークプラグの寿命が違う理由は、エンジンが高回転を維持しながら走行しているかによるのです。
同様に、エンジンオイルの交換サイクルとも同じ理由で、
高回転型のエンジンほどエンジンオイルへの負担が大きい
ということが言えます。
車種にもよりますが、僕の体感では軽自動車のエンジンオイルは2000ccクラスの車の1.5倍くらいのスピードで汚れているように思います。
つまり、軽自動車のエンジンオイル交換を、普通車と同じ間隔で交換しているなら、オイル交換をサボリ気味で交換していることになります。
これまで整備士としてたくさんの車のオイル交換をしてきて思うのが、オイルドレンを外して抜けてきたエンジンオイルを見て
「うわ・・だいぶ交換時期をすぎてるな。」
と感じるのは軽自動車が多いです。
これは実際に走行した交換サイクルが適正な距離で交換しているお客さまの車でも感じることで、いかに軽自動車のエンジンオイルが汚れやすいのかを物語っています。
ターボエンジンはオイル管理がキモ
別の記事でエンジンオイルの交換サイクルはターボ車とNA(自然吸気)車では違うというお話をしました。
ターボエンジンの場合、タービンによってエンジン周辺が高温になりやすいのですが、タービンの軸受け部分の潤滑をエンジンオイルが担っています。
そのため、エンジンオイルは毎分で数万回転もしているタービンによって高温にさらされ続けているのです。
車に付属しているメンテナンスノートにも、ターボエンジンとNAエンジンではエンジンオイルの交換サイクルが違うことを明確に記述しています。
CVTフルードの交換推奨距離ならバラつきがあるのに、ターボエンジンのオイル交換にはどのメーカーも整備手帳に「ちゃんとオイル交換してね」と念を押すように書かれています。
以前、気難しい先輩整備士が「オイル交換サボるようなやつはターボ車に乗る資格ないんじゃ!」と怒気をあらわにしていました。
それくらいエンジンオイル交換がターボの寿命に密接に関係しているってことですね。
最新の軽自動車ならターボはいらない?
進化したエンジンとトランスミッション
軽自動車にターボエンジンが搭載される理由は、不足している動力性能を補うためですが、ターボが装着されていなくても快適に走れるのであればそもそも必要ありません。
軽自動車に搭載されているエンジンもここ数年の間に次世代型のエンジンに世代交代してきています。
その傾向として燃費性能であることが重視されていますが、軽自動車をファーストカーとして購入する世帯も増えてきていることから、
高速道路での快適さや同乗者が多いときでもキビキビと走れることも求められています。
軽自動車をファーストカーとして購入する層が増えたということは、一台当たりの単価(利益)を上げることができるということにもなります。
そのため軽自動車をリリースしている各自動車メーカーも商品としての魅力を上げることにしのぎを削っています。
かつてはスポーツエンジンなどに採用されていた可変バルブタイミング機構も今では軽自動車エンジンにも装備されています。
また、エンジン実用回転域を低回転にするために、エンジンもショートストローク型からロングストローク型へと変更されトルク重視の基本設計になっています。
さらにエンジンの得意なトルクバンドをメインに走行するために、CVT(無段階変速機)との組み合わせも主流になっています。
エンジンとCVTの制御を細かくするためにコンピューターの処理速度も高速化され、ドライバーの運転傾向を学習し、加速が必要な状況では高回転域を主に使うことも可能です。
つまり、エンジンそのものの性能も向上し、その力を受けるトランスミッションもCVTになることでターボが付いていなくてもキビキビと走らせられるようになっています。
軽量化の恩恵も大きい
軽自動車のバックパネルやフェンダー部分を樹脂(ウレタン)にすることで、軽量化も進んできています。
とくに排気量の小さな軽自動車には軽量化は非常に大きな意味をもちます。
薄い鉄板を使用しつつボディ剛性を上げる技術にはコストがかかりますが、これも軽自動車を主力商品と考えるなら開発費も割くことができます。
日本の軽自動車にはスモールカーとしての高い技術力が注ぎ込まれていて、非常に高いバランスで完成されつつあります。
それでもターボがないとキツイ
ターボが無い軽自動車でもある程度の動力性能が備わってきていることはたしかですが、やはり加速に関してはターボのような爆発力はありません。
高速道路ではターボ付きが必須?
とくに高速道路などでは、まわりの車の流れに合わせて走行しようとすると軽自動車の場合はターボがないとかなり厳しいです。
最近よく売れている軽自動車はワゴンRやムーヴのようなハイトワゴンや、N-BOXやタント、スペーシアなどの後席がスライドドアになったスーパーハイトワゴンが多いです。
これらのような背の高い軽自動車は重量が増えてしまうこともありますが、高速道路では、その背の高さゆえに空気抵抗もかなり増えてしまいます。
そのためハイトワゴンなどでターボが付いていないと、追い越しなどをすることはかなり厳しくなり、運転手への負担も増えてしまいます。
登坂車線や上り坂は我慢するしかない?
ハイブリッドタイプの軽自動車も徐々に増えてきました。
たとえばスズキのワゴンRやスペーシアなどでは、助手席の下側にあるリチウムイオンバッテリーの電力で発電機をモーターとして駆動させることができます。
モーターのいいところは、いきなり最大トルクを発揮することができるところで、低速走行からの加速にはモーター駆動の存在は大きいです。
ただ、今のところはプリウスなどのようにモーターのみで走行するほどのパワーはなくあくまでもエンジンを補助するくらいの割合です。
長い上り坂などではモーター駆動ができる軽自動車でも、はやりターボエンジン搭載車にはかないません。
【結論】高速走行の頻度が選択の要になる
つまるところ、軽自動車にターボはいらないのか否かという議論に関しては、どんな使用条件がメインなのかという部分にかかってきます。
高速道路をメインに走行し、なおかつハイトワゴンやスーパーハイトワゴンに乗りたいならターボ付きは必須といえます。
ましてや「箱バン」とよばれるFRベースの商用車からワゴンに派生した、エブリィやアトレーなどは車両重量も重いので「ターボありき」となります。
メーカーもその部分はわかっていて、そもそもエブリイワゴンやアトレーワゴンはターボ付きが基本となっています。
それに対して、ミライースやアルトなどの背の低い車両で、高速道路での走行がほとんどない場合はターボは必要ありません。(ミライースにターボ設定はありません)
ターボ車は燃費が悪化しやすく経済的ではない
また、ハイトワゴン系でもお母さんが小さなお子様を乗せて幼稚園や習い事の送り迎えのために使用することがメインなら、ターボ車でなくてもいいかもしれません。
むしろターボが付いていないNA(自然吸気)車のほうが燃費が安定しやすく経済的になります。
ターボ付き車の場合だと、どうしてもアクセルワークをラフにやってしまっただけで燃費がグンと悪くなる傾向にあります。
そのうえターボエンジンのエンジンオイル交換はそれなりにシビアに管理しておかないとターボの寿命に大きく影響してしまいます。
「オイル交換なんて面倒くさい」
などとおっしゃる奥様たちには
ターボ車は不向きかと・・・。
軽自動車のターボの寿命はどれくらい?
エンジンオイルの寿命についてお話する上で、エンジンオイルの質や交換サイクルは非常に大きな要素となります。
そのため、ターボの寿命に関してはまずエンジンオイルのお話に触れざるをえません。
どちらかといえば、寿命を短くしてしまう要因というニュアンスかもしれません。
エンジンオイルの管理でターボの寿命が決まる
これまでのお話で、軽自動車のターボエンジンはつねに大きな負担を受けながら働いています。
ターボそのものの潤滑もエンジンオイルでやっていますし、エンジンも高回転で馬力を出すタイプなので、エンジンオイルの重要性は、もしかしたらすべての自動車のなかでもっとも高いのかもしれません。
ですので、軽自動車のターボの寿命についてのお話をしていくうえでは「エンジンオイルの管理が適正である」ことが大前提です。
オイル交換をしないターボの寿命は?
整備士をしていて、あまり見たくないというか、嫌な気分になるのがメンテナンス不足による故障です。
ターボに関しても非常に多い事例で、お客さま本人は「寿命が短い」とお怒りですが、整備士からすれば「整備不足で壊した」という本音を持っています。
軽自動車の場合、新車からエンジンオイルを無交換のままで30000kmほど走ると、ターボの音が少しおかしいと感じるときがあります。
正常なタービンなら
「ヒュィーーーー」という感じの過給音が
「ヒュヒュルルルルルル」といった感じで音にムラがあります。
おそらくこんな感じで車検くらいしかオイル交換をしない場合だと60000kmくらいでタービンブロー、マフラーから白煙が出始めるかもしれません。
これじゃ車が可哀相だ・・・。
いつもそんなことを思ってしまいます。
ターボに関してはメーカーの一般保証に該当しますが、エンジンオイルの管理状態も保証の認定の際にチェックされます。
当然ですがドロドロのエンジンオイルを見たディーラーの整備士さんも「ダメだこりゃ」と漏らすことでしょう。
【ターボ寿命】適正なオイル管理なら100,000kmはいける?
今回は軽自動車に限定したお話をしますが、ターボ付きの軽自動車ならエンジンオイルの交換はきっちり3,000km毎がおすすめです。
じっさい、僕の軽自動車もそれくらいで交換していますが、100,000kmを超えた今でもタービンのトラブルはありません。
ディーラー系ならおそらく5,000km毎でのエンジンオイル交換を推奨していると思いますが、ディーラーの整備士さんと仲良くなって話をしていると
「ターボ付きなら5,000km未満で交換してもいいですよ」
みたいなお話もしてくれます。これも整備士の本音でしょうね。
あとは使用するエンジンオイルの粘度ですが、最近は5W-30などの少し柔らかめのエンジンオイルでもOKとなってます。
個人的には半化学合成の10W-40を使っていますが、
そこらへんはディーラーさんのオススメするオイルでも問題ないと思います。
とはいえ、やはり交換サイクルは5,000㎞よりもっと早めがいいと思います。
軽自動車のターボはどれくらいで壊れるのか
ここからはエンジンオイルの管理はばっちりという前提でのお話ですが、まず100,000kmは問題なく乗れると思います。
どれくらいの高負荷をエンジンにかけるのかにもよりますが、これくらいの距離なら大丈夫とおもってます。
問題は、10万kmを超えてあとどれくらいタービンが壊れずに乗れるかということですが、引き続きエンジンオイルの管理をしっかりとしていても、13万kmを超えたあたりからだいぶ苦しくなるようです。
ターボが壊れる予兆・前兆は?
故障の前兆にはいろいろありますが、まず多いのがターボの過給音が濁ったようなノイズが混ざった音に変化していきます。
さらに過給しているときのタービンの音が大きくなっていくこともあります。
つまりポイントは
・タービンの音が大きくなる
・過給音がひび割れたような濁った音になる
こんなケースが多いです。
また、加速も悪くなる傾向にあり、マフラーから白煙が出ることもあります。
ターボの寿命を伸ばすコツとは
エンジンオイルの管理は言わずもがなですが、大事な要素としてターボに依存しすぎない運転をすることも軽自動車の場合は重要です。
つねにアクセルをベタ踏みするのは論外として、過給圧をかけずに走行できるような運転方法をすることで、タービンへの負担を減らすことができます。
ふんわりアクセルはターボにもやさしい
ターボはつねに仕事をしているわけではありませんが、アクセルワークによって仕事量が違ってきます。
タービンがエンジンに過給するときは排圧が上がるときで、アクセルをいっきに「ガバッ」と踏み込んだときに過給圧が上がります。
それに対して、アクセルを少しずつ「ジワジワ」と踏み込んでいくと、排圧は上がらずほとんど過給圧も正圧にならずターボに負担はかかっていません。
もちろん、ターボが付いているのにターボが仕事をしない乗り方をするのは本末転倒ですが、普段は低燃費走行を意識し、ここぞというときはターボの力を借りるという感じです。
まとめ
軽自動車+ターボは今後もラインナップされる
今回は軽自動車に限定したお話をしてきました。
軽自動車には軽自動車の規格という特殊な制約があり、アンバランスな部分もある反面、日本の道路事情にマッチしたサイズ感で進化をしてきました。
軽自動車をファーストカーとして所有するうえでは、ターボチャージャーは大事な選択肢の一つといえます。
これまでのまとめ
・軽自動車のターボが弱いわけではない
・軽自動車はエンジンとターボに負担をかける
・軽自動車のエンジンオイル管理は非常に大事
・最新の軽自動車になるほどターボ無しでも快適
・高速道路ではターボがないと厳しい
・スーパーハイトワゴンで高速道路はターボ必須
・上り坂でターボがないとひたすら我慢を強いられる
・オイル管理がしっかりできていることが前提
・10万キロは問題なし
・どれくらい負荷をかける運転をするかで違ってくる
・13万キロあたりから異音やオイル消費の可能性
・ただし丁寧な運転やクーリング走行で15万kmでもいける
以上、今回のお話がこの記事を読んでくださった方のクルマ選びの参考になると嬉しいです。
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