「そもそも軽自動車は非力」
「軽自動車はエアコンを入れるとさらに非力」
普通乗用車と軽自動車を乗り比べたことのあるユーザーさんなら、軽自動車に対してはこんな意見が多いと思います。
エンジンの排気量が660ccしかない軽自動車にとって、エアコンはかなりのパワーロスにつながります。
ですが、坂道を上っているとエンジンがノッキングするとなると、これは異常というか、なんらかの故障なのかもしれません。
今回は、軽自動車がエアコンを入れたままで上り坂でを走るとノッキングするという事例について整備士の僕の経験を交えてお話していきます。
軽自動車はエアコンを入れると坂道は厳しい
高回転型エンジンはトルク走行が苦手
昨今の軽自動車のエンジンは可変バルブタイミング機構や無段階変速機(CVT)などのおかげで、オールラウンドな性能を持っています。
とはいえ、軽自動車のエンジンは排気量が660ccしかないため、エンジンを高回転にすることでパワーを絞り出すシーンが多いです。
自動車メーカーも燃費が悪化することは重々承知ですが、小排気量エンジンの限られた特性値をオールマイティな使用用途に合うようなチューニングをするための妥協点を作らざるを得ません。
超高回転型のエンジンにしてしまうと低速がスカスカになってしまいますし、低速トルクを求めすぎると高速走行ではパワー不足になってしまいます。
燃費をよくするにはトルク型エンジンが有利
環境性能や低燃費対策を考慮すると、エンジンに求められるのはより低い回転域でパワーを発揮できるトルク重視のエンジン特性が合っています。
それでも坂道をエアコンのコンプレッサーを駆動させながら登っていく場合では、低回転域では十分なパワーを発揮することができず、アクセルを踏み足してエンジンを高回転域で維持せざるを得ません。
軽自動車はエアコンを入れるとノッキングする?
CVT+可変バルブならノッキングはありえない
バルブタイミングを替えられるエンジンが増え、なおかつ無段階変速機(CVT)を搭載するオートマチックの軽自動車なら、エンジンがノッキングすることはまずありません。
ただし、正常な状態のエンジンで、乗車定員や積載量が車検証に記載された範囲内であればという条件です。
さすがに、軽トラックに1tの重量物を載せたりしたら
エンジンは悲鳴を上げて激しくノッキングするかもしれません。
CVTの恩恵は大きい
小型車や軽自動車との相性がいいトランスミッションがCVTですが、上り坂などで高負荷をかけた走行をする際にもCVTのメリットが実感できます。
それまでの多段式のオートマチックだと、ギアとギアのつなぎ目では、エンジンのトルクバンドから外れたエンジン回転域で走行する瞬間ができます。
坂道でエアコンを入れている走行条件では、このわずかなトルクの谷でも失速してしまうことになり、アクセルを踏み足すとキックダウンするという、ギクシャクした走りになります。
ところが、CVTの場合ではトルクバンドから外れたエンジン回転域に回転が落ちてしまう前にCVTのほうで変速比を適性に、なおかつ滑らかに変更することができます。
ノッキングとはエンジンにとって異常事態
ノッキングとは、エンジン内部で異常燃焼が発生したときにおきる「カリカリ」「キンキン」「カンカン」といった金属的な打音のことを言います。
ノッキングが発生する原因は様々ですが、坂道を上っているときにノッキングが発生する際は、エンジンの性能を大幅に上回る負荷をかけてしまったときにおきます。
今回は、軽自動車でエアコンを入れたときにノッキングは起きるのかというお話なので、その部分にフォーカスして考えていきます。
MTならノッキングは起きやすい
結論から言えば、MT(マニュアル・トランスミッション)仕様の軽自動車なら、たとえ可変バルブタイミング機構が備わったエンジンでもノッキングは起こりえます。
MT車の場合、運転者が任意でシフトチェンジをしていくことで、エンジンの特性に合ったギアを選ばないとエンジンへの負荷が瞬間的に異常なまでに高くなることがあります。
たとえば、3速が適正な上り坂なのに5速に入れたままアクセルだけを一気に踏んでいくと、エンジンのパワーを発揮できないような低回転域で高負荷をかけることになります。
すると、エンジン内部では各シリンダー内部で得られる燃焼によるピストンを押し下げる以上の負荷がかかり、異常燃焼が起きます。
ノッキング時の高圧、高温の状態が一定時間続くと、スパークプラグやバルブなどの破損や溶解につながります。
ノッキングを抑制する仕組みもあるけど・・・
コンピューター制御の車なら、エンジン内部で異常燃焼が起きてノッキングが発生したときのために「ノックセンサー」と呼ばれるセンサーが使われています。
ノックセンサーはノッキング時特有の振動周波数を検知するセンサーで、ECU(メインコンピューター)にノック信号が送られてくるとエンジンの点火時期を遅角させます。
ただし、過走行のエンジンやメンテナンス不良の場合、ノッキングが起きやすい条件が増えてしまっていることがあり、ノッキングが発生してしまうことがあります。
整備不良とノッキングの関係
エンジンオイルを長期間交換しなかったり、スパークプラグが摩耗した状態で放置していると、燃焼室の内部では異常燃焼が起きやすい「火種」を増やすことになります。
排気量が660ccしかない軽自動車の場合、ちょっとした悪条件でエンジンへの負荷が増えてしまうことになり、エンジンの寿命を短くしてしまうことにもなります。
エンジンオイルの管理が悪く、焼付き寸前になるとノッキングが起きやすくなります。
平坦な道ではギリギリで発生しなかったノッキングが、上り坂だけで起きることもありうるのです。
ノッキングが発生したらやるべきこと
これは軽自動車に限った話ではありませんが、コンピューター制御の車においてノッキングが発生している場合は、エンジンの健康状態がかなり悪いケースが多いです。
上述したように、エンジンオイルの管理が悪い場合だったり、エアコンのコンプレッサーの内部が破損する直前(ロック寸前)の可能性もあります。
エンジンへの負担を減らす意味でアクセルを抜いてなるべくエンジンをいたわる運転をしましょう。
なんらかの大きな負荷がエンジンにかかっているということになるので、軽自動車の場合はとくに早めの点検をおすすめします。
後輩の整備士に「坂道でノッキングするみたいです」と相談を受たら、
僕ならただちに『エンジンオイル入ってるか?』『スパークプラグ外してみろ』
とアドバイスするかもしれません。
まとめ
軽自動車でエアコンを入れたまま上り坂を走行した場合でも・・・
・基本的にエアコンでノッキングが起きることはない
・ただしMT車ではシフトチェンジが不適切ならノッキングするかも
・ノッキングが起きている場合はアクセルを抜いておとなしい走行をする
・ノッキングは故障の予兆であることもあるので、整備工場で点検を受ける
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