今回はBP系のレガシィの故障診断のお話です。
オーナー様はドライブが大好きなナイスミドルなお客様でした。
車が好きなお客様の車の整備をするのはとてもやりがいを感じますが
その反面、ご期待に添えるかどうかいつも緊張します。
とくに不具合を直接確認できない状態からの診断は頭の中で推理していく必要がありました。
レガシィのエンジン不調が慢性化
高速道路でエンジンが吹け上がらない
そのレガシィのお客様は、いつも懇意にしてくださっているお客様で、ディーラーも利用するし、なにかトラブルなどの相談となると大抵は僕にご相談をくださるお客様です。
BP系のレガシィスポーツワゴン
レガシィといえばやはりターボモデルのワゴンではないでしょうか。今回診断したモデルもまさにそれで、高速道路でパワフル、ゴルフバッグが余裕で載る積載性、そして洗練されたデザイン。
走行距離がなんと17万キロ
エンジンもミッションも快調なのですが、エンジンはブーストアップしたことが原因でしょうか、エンジンブローしたことで載せ替えをしていました。
それ以外はいたってノーマルの状態でしたが、エンジンオイルやオートマチックオイルなど、メンテナンスに関しては非常に行き届いているのですが、週末にしか乗らない「サンデー・ドライバー」なので、コンディションが崩れはじめると、いろんな不具合が出ることも確かです。
エンジン不調に関する問診
今回の場合、エンジンの調子が悪いということでご相談をいただきましたが、調子が悪いときというのが常にあるわけではなく、特定の条件のときにだけ不具合が起きるとのことでした。
エンジンが冷えていると調子が悪い
オーナー様にどんなときにエンジンの調子が悪いのかを聞いてみたたところ
「寒い日の朝にエンジンをかけると調子が悪い」
「エンジンが暖まるとわりと普通に走れる」
ということでしたが、その不具合を具体的にお伺いしてみると
「とにかくエンジンが吹け上がらない」
「アクセルを踏んでもエンジンの馬力が出ない感じがする」
といった内容でした。
問診の中で見つけたヒント
整備士によって故障診断の手順は多少は違うかもしれませんが、僕の場合はまずその車に普段乗っているご本人からお話を聞くことを優先しています。
できるだけナチュラルな意見を聞きたいので、「どんなときに?」「どんなことがおきる?」みたいなざっくりとした感じでお話を聞くことが多いです。
あまり「こんな感じじゃないですか?」みたいな、こちらの感覚を押し付けてしまうと、「そうかもしれない・・」とご本人が整備士の意見に引っ張られてしまうことがあります。
お客様のお話を聞いていると、はじめは「燃料ポンプが一瞬止まっているのかな?」と思っていました。
燃料ポンプは国産のガソリンエンジンの乗用車の場合、燃料タンクの内部に浸かるようにセットされています。
比較的に故障が少ないと言われる国産車でも走行距離が15万キロくらいになると、この燃料ポンプのモーターが走行中に一瞬だけストップしてしまうような不具合が起き始めます。
つまり、燃料ポンプが止まっていることでガス欠のような状態になりエンジンが吹け上がらないことがあることが原因なのかと考えました。
ですが、「エンジンが暖まったらアイドリングも安定している」「ゆっくりとアクセルを踏み込んでいるとちゃんと走れる」
というお話を聞かせていただいた時点で、「いやいや、燃料ポンプではないな」という感覚になりました。
もしも燃料ポンプが原因でエンジンの不具合が起きるなら、どんな状態でも起きるため、アイドリングでもエンジンが止まったり不整脈のようにアイドルが乱れたりするからです。
それに、高速道路で走行しているときに燃料ポンプが一瞬でも止まるようなことがあれば車がシャクるくらいのエンジン不調に見舞われますが、アクセルをゆっくりと踏み込めば問題ないというのも引っかかりました。
燃料が濃くなったり薄くなったりしている??
あれこれ考えながら、ふと思いついたのが「燃調がズレているのかも?」と考えるようになりました。
『燃調』とは燃料調整の略で、空気と燃料との混合比を理想的な比率に維持するためのチューニングです。
アクセルを踏み込んだり車に荷物を沢山載せていたり、上り坂や高速道路を走行中だったりと、理想的な空燃比費を維持するには、つねに吸い込む空気に対して燃料の噴射量を細かく調整しないといけません。
高速道路で加速が鈍くなる
ここでお客様が言っていた「朝のエンジン始動時」「高速道路でアクセルを踏み込んで加速しようとしたとき」の話が頭をよぎります。
つまり空燃比費が普段よりも変化しないといけない状況で燃調が合ってないのかもしれないということ。
とくに高速道路での加速に関しては燃料の噴射量を大きく変更しないといけません。
レガシィBP5のアイドリング不調
ISCVの不調はアイドリングだけの問題
エンジンの回転が安定しないときや振動が大きいときといったトラブルで考えられるのはエンジンの失火やスロットル周辺のトラブル、それから流入する空気の流量を計測しているエアフロメーターなどが考えられます。
僕の経験ではアイドリングの不調はISCV(アイドル・スピード・コントロール・バルブ)がカーボンなどで目詰まりしてしまうことが多かったです。
消去法で考えてISCVと走行中の不調は関係ない
ですが、このISCVはスロットルを全閉にしているときのアイドリングをさせるためのものですがから、走行中にISCVに不具合が出ても走行に支障がでることはまずありません。
それにISCVが悪いときはエンジンが暖まったときのほうが顕著に症状が出るのでエンジンが冷えているときにはラフアイドルにはなりにくいです。
この場合はスロットルの近くにあるスローポートの通路からエンジンコンディショナーなどのケミカル剤を流し込んでやればISCV周辺のカーボンやスクリューの動きも改善されてしまうことがほとんどです。
やはり本命はエアフロメーターか?
ここまでいろんな可能性について考えていきながら、どうしても「関係ない」と最後まで消しきれなかったのがエアフロメーター。
一般的には『エアフロメーター』とか『エアフロセンサー』などと言われていますが、正しくは
エアフロー・メーター(air-flow meter)ですが、今回は便宜上「エアフロメーター」と呼ぶことにします。
レガシィのエアフロ故障の症状に近い
かつてのスバル車の定番トラブル?
歴代のレガシィの中でも僕が経験したエアフロメーターのトラブルはBG系のレガシィでした。しかもケースと一体型のタイプなのでターボモデルの場合だと45,000円くらいしたのを覚えています。
おなじく水平対向エンジンの2.0Lや1.5Lなどを搭載している兄弟車の「インプレッサ」「フォレスター」などでも同様のトラブルが出ていました。
ただし、その場合の故障内容は「エンジンが止まってしまう」「自己診断機能でもしっかりと故障履歴に記録されている」というケースが多かったので、BP系のレガシィとはあまり当てはまらないと考えていました。
エアフロメーターも消耗品?
結局、試運転をしていても不具合を僕自身が確認できなかったこともあり、自己診断機能でも故障履歴は残っていなかったこともあり、決定打にかける診断になってしまいました。
ですがお客様はとても不安がっていましたし、お金を気にする方でもなかったので、言葉は悪いのですが「ダメもと」でエアフローメーターの交換をしてみることをおすすめしました。
この場合、僕がその決断をした理由は
・症状が確認できない
・不具合の状況からエアフロメーターが怪しい
・このレガシィは17万キロ走行でエアフロの交換歴がなかった
・お客様は部品交換の費用にはシビアではない
・エアフロメーターの価格が12,000ほどだった
・僕の診断を最後まで信じてくれている
このような理由から「エアフロメーターを今まで交換したことが無いようですし、交換してみましょう」
とオススメすることにしました。
エアフロメーターを交換したとたんエンジンが絶不調に!!
後日、エアフロメーターのリビルト品が届いたので交換をすることになりました。
今回は画像を取る時間の余裕がなかったのですが、交換自体はプラスドライバー一本でできるさ行でした。
車に付いていたほうのエアフロメーターを眺めてみると、カーボンがかなり付着していましたが、思っていたよりも遥かにきれいな状態でした。
これで少し不安になりましたが、新しいエアフロメーターに交換してエンジン始動するなり、アイドリングもできないほどのエンジンの調子の悪さ。
さらにエンジンが止まってしまい、再始動しようとしてもエンジンがかからなくなりました。
「よし!やっぱこれかも!!」という安心感がこみ上げてきました。
エンジンの調子が悪くなったのになんで安心するの?
という読者さんの心の声が聴こえてきそうですが、僕が一番嬉しくない結果は、エアフロメーターを交換してもなんの変化もないというのが最も困るのです。
エアフロメーターとECUの関係
エアフロメーターはエンジンに吸い込む空気の量を計測する重要な電子部品です。
このエアフロメーターから送られてくる情報が、ECUと言われるエンジンの制御をしているところに入り、そこで燃料の噴射量などを調整しています。
つまり空燃比がうまくできていない場合、ECUが悪いのではなく、ECUに送られてくるエアフロメーターからの情報がおかしいことが多いのです。
ECUの補正機能がクセ者
ところが、ECUには学習機能がありドライバーの運転方法に合わせてシフトチェンジのタイミングを調整したりすることができます。
その学習機能そのものはいいのですが、過走行車の場合、電子部品であるそれぞれのセンサーの測定値が少しづつ精度が落ちてきても、それなりに補正機能が働いてしまいます。
すると、ドライバーには気が付かないくらいに普通に車を走らせることができてしまい、エアフロメーターなどから送られてくる数値のズレにもまったく気が付かないのです。
そのため、ダメ元でエアフロメーターを交換した場合、もとの部品がズレた数値を送っていれば、正常な部品に交換した直後の変化が大きいということになります。
今回のBP5のレガシィの場合は、エアフロメーターを交換した途端、エンジンは止まるわ、まったく老け上がらなくなるわで「最高に調子が悪い」状態でした。
この不調な状態はどうにかエンジンを始動させてそのままでおいておけば、自動的にECUが正常な数値に合わせて補正をしてくれるので、ほんの数分間で元の状態になります。
あとは、できれば実際に走行させてたり、ヘッドライトを点灯させたりエアコンやパワーステアリングを作動させたりと、さまざまな運転状況のデータをECUに覚えさせることで次第に補正する数値が充実してきます。
後日、お客様から喜びのメールが届いた
実際に高速道路を試運転することはできないので、お客様にエアフロメーターを交換した際の一時的な不調やその理由を説明しました。
「もしかしたら全部の不調は解消されるかも」というお話をしたあと、レガシィとともにお客様は帰って行きました。
燃費まで良くなったよ!
後日お客さまから頂いたメールによると、朝の始動時のアイドリング不調も、高速道路でのパワー不足や息継ぎもなくなり、絶好調になったとのことでした。
しかも燃費もかなり改善されたようで、「いいことばっかりだったよ!」と喜びのメールを頂きました。
燃費が良くなったという内容に関しては僕自身も非常に納得できる話で、空燃比がめちゃくちゃな状態だと、余分な燃料を噴射しつづけていたこともあるでしょうし、濃すぎる空燃比はパワーダウンにもつながります。
逆に言えば、燃費を常に測定していれば、車の健康状態を知るバロメーターにもなるということになりますね。
なにはともあれ・・・やれやれ・・・。
ダメ元でエアフロメーターの交換を勧めた僕としてはなんとか面目躍如という今回のトラブルシュートでした。
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