今回は走行距離が20万キロオーバーという、かなり過酷な使用条件のダイハツ:ハイゼットバン(S321V)の水漏れの作業記録です。
仕事で使う車の場合、修理費がかかりすぎる場合は廃車しかないというくらいの限界まで走り切るユーザーさんが多いです。
ハイゼットのラジエーターはそれほど弱くない印象ですが、さすがに22万キロ走行のお客様のハイゼットは冷却水が「ダダ漏れ」でした。
S321Vハイゼットの水漏れとエンジン警告灯
水温警告灯とエンジン警告灯が点灯
「いつも車を止めている駐車場に赤い液体がこぼれている」というのがお客様の依頼内容でした。
「それと、変なマークのランプが付いていて今は消えてます」とのことで、これは嫌な予感しかしません。
まずそのハイゼットに近づいたとたん気がついたのが冷却水が熱せられて乾いたときの独特のツンと鼻につく匂いでした。
トヨタ車とダイハツ車は冷却水をピンク色、、または赤色にしたものが使われていて、
「赤い液体」
「変なマークのランプ」
という2つのキーワードでオーバーヒートだろうと思っていました。
ところが、お客様の話では黄色のエンジンのような形をした警告灯ということで、エンジンチェックランプが点灯したようなので、外部診断機(オフボードテスター)で診断を始めました。
P0115水温センサー信号系統
外部診断機をハイゼットにつなぐために、運転席の足元付近を探してOBD接続用のコネクターを探します。
コネクターはハンドルの下側の左付近を下から見上げるとみつかり、接続して警告灯点灯の内容を確認します。
結果は水温センサーの信号が基準値を外れているといった内容です。
「水温センサーの異常ってことはセンサーが壊れている・・?」
と一瞬思ったのですが、ダイハツ車の場合は水漏れなどで冷却水がなくなると水温センサー周辺が高温になりエンジンチェックランプも点灯するようです。
エンジン警告灯と前後して赤い水温計の形をしたオーバーヒートの警告灯も点灯します。
はたして、お客様に聞いてみると水温の警告灯も点灯していたとのことでした。
ラジエーター本体からも水漏れ
ハイゼットをリフトアップして下から点検してみると、フロントバンパーのすぐ後ろ側にあるラジエーターの下側に冷却水が漏れて乾いたあとが確認できましした。
ハイゼットのラジエーターはアルミ製のコアと樹脂製のタンクが組み合わされたタイプのもので、樹脂製のタンクが劣化して割れたりコアとタンクの接続部から漏れることがほとんどです。
そうそうに水漏れの原因を見つけたのはいいのですが、ここで僕が気になったのは、オーバーヒートを起こしてからどれくらい車を走らせてしまったかとうこと。
この時間がながいほど、エンジンに深刻なダメージを負っている可能性が高く、場合によってはシリンダーヘッドガスケットが抜けていたり、ヘッド面がひずんでしまっていることがあります。
S321Vハイゼットのラジエーター交換費用の内訳は?
ラジエーター交換の工程
S321V型のハイゼットの場合は、ラジエーターを外す工程は以下のようなもの。
基本的にはリフトアップしてからやる作業ですが、フロント部分だけをジャッキアップ、リジットラックをかけてできなくもないです。
ラジエーターの外し方
・リフトアップする
・フロントバンパーを外す
・冷却水を抜く
・ラジエーターロアホースとアッパーホースをラジエーターから外す
・AT車の場合はATオイルクーラーのホースをラジエーターから外す
・ラジエーターからファンシュラウドを外す
・エアコンコンデンサーを浮かせてラジエーターを抜き出す
S321Vのラジエーター交換費用はいくらほど?
交換作業一式 15,000円■部品
ラジエーター(社外品) 25,000円
ラジエーターキャップ 1,000円
ロングライフクーラント 1,500円■合計 42,500円 + 消費税
全国的にどこの整備工場でもおおよそこれくらいの修理費用になるのではないでしょうか。
ただし、ディーラーによっては純正のラジーエーターを使用することもあり、工賃も含めると一般整備工場よりは1割ほど高くなるかもしれません。
【まとめ】作業後に思ったこと
S321Vハイゼットは「働くクルマ」として配達業などで使用されることが多く、年間走行距離も多く冷却系統への負担も大きくなりがちです。
また、ハイゼットの中で休憩や食事をするといった使い方をするユーザーさんも多いですが、エアコンを入れたままでアイドリングをしている状態はエンジンへの負担が増えます。
警告灯が隠れている車が多い・・・
作業後にオーバーヒートによるエンジンへのダメージを確認しましたが、とりあえず問題なく走行できそうで、これもユーザーさんが水温の警告灯を確認し、すぐに走行するのをやめたことが功を奏しました。
よくあるのが、メーター周辺に書類やボールペンなどをおいてメーター内の警告灯の部分が隠れてしまっているケースで、警告灯がいつ点灯したのかがわからないこともあります。
エンジン警告灯も水温警告灯も、点灯したらすぐにわかるようにしておくことで、初期の段階で異常に気づけて早めに対処することができます。
短期間で長距離を走行するパターンは壊れにくい?
今回作業を担当したハイゼットは、宅配業として使用されていて、平成24年式ですが10年間で22万キロを走行していました。
年間走行距離としては2万キロオーバーはやや多いほうですが、スペアの車として使用されるようになってから走行ペースはかなり落ちているとのことです。
エンジンオイル交換の重要性も再認識
また、エンジンオイルが劣化したままだと、エンジン内部の内圧が上がりやすくなり、オイル漏れの原因になりやすく、連鎖するように水漏れになることもあります。
おそらくピーク時では年間で4万キロくらいは走っていたようですが、オイル交換を4,000キロ前後で交換される方なので、エンジンはくたびれているもののまだ走れそうでした。
仕事用の車として新車で購入し、3年間で10万キロを走るというお客様もいましたが、かなりのハイペースで走行する場合、意外にも壊れにくいことが多いです。
もちろん、タイヤやブレーキパッドはそれ相応に摩耗していきますが、エンジンオイルの管理さえしっかりとできていれば、という条件はつきます。
そのうえで、オイル漏れや水漏れはあまり起きにくく、エンジンルームを点検して思ったことは、エンジン周辺が冷えたり暖まったりを繰り返すことで故障が出やすいということ。
温度変化がもたらすもの
今回はラジエーターの劣化による水漏れのお話ですので、そこにフォーカスした話になります。
僕が整備士になった20年以上前では、ラジエーターは真鍮製の車がまだちらほら残っていて、乗用車は現在のアルミと樹脂で構成されるタイプになってましたが、トラックは真鍮製が当たり前でした。
このタイプ、非常に頑丈でラジエーター本体に物理的な損傷がないかぎり、水漏れを起こすようなことはありませんが、かなりコストがかかるため、コンパクトカーや軽自動車にはあまり使われません。
ちなみに、DA64Wのエブリイワゴンはオールアルミ一体型のラジエーターですが、水漏れはなかなか起きないようです。
今回のハイゼットのラジエーターもそうですが、樹脂製のタンクとアルミ製のコアで構成されるタイプは、つなぎ目に挟み込んであるパッキンが硬化して水漏れを起こします。
硬いゴム製のパッキンですが、やはりゴムの弾力で密閉性を保っているかぎり、ゴムが劣化して硬化することで水漏れが発生します。
その硬化の原因が温度変化で、エンジンが暖気したあとですぐにエンジンを止めて自然に冷えていくということを繰り返すことで劣化しやすくなるのだと思います。
言い換えると、少しだけ走行してすぐにエンジンを止めるような「ちょい乗り仕様」のユーザーさんのほうが水漏れも起きやすいということです。
それに対して、一日中エンジンをかけたままにすることが多い「プロ仕様」のユーザーさんはエンジン周辺やラジエーター周辺の温度変化が少ないはずです。
車を入れ替えるために
ガレージや駐車場でしか車を動かさないようなケースは車にはかなり悪いです。
「隠れシビアコンディション」な車も多い
少し極端な例かもしれませんが、1日に100キロを走行するケースと1日に3キロしか走らないケースでは同じ車種でも水漏れやオイル漏れを起こす確率は変わらないのかもしれません。
走行し続けることで車を消耗させ故障が起きるリスクも上昇しますが、走行してすぐに車を止めてしまうと、温度変化を起こす回数が増えることになります。
結果的に、ゴムや樹脂の部品に熱膨張と収縮を繰り返させることになり、「そんなに走ってないのによく壊れるな・・・。」となってしまうこともあります。
自動車メーカーもこのことはよく把握していて、メーカーの定めるシビアコンディションの条件には、『1回の乗車で走行距離が8km以下の運転』も該当します。
以上、今回は過走行な車の修理をして感じたことも織り交ぜた整備記録でした。
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