今回は小型トラックに限定した、タイヤの脱着やローテーションの作業で戸惑ってしまうホイールナットの緩め方についてご説明していきます。
なお、この記事での「小型トラック」とは、2017年以降に普通免許を取得した方でも運転できる、積載量が2トン以下の車両を対象としています。
これらの作業はプロの整備士なら間違いなくインパクトレンチを使ってホイールナットを緩めていきますが、DIYや緊急時のスペアタイヤへの付替えでは便利な工具はなく、手持ちのものでなんとかしないといけません。
また、会社の業務で使用するトラックでも、一台や二台しか保有していない場合は「有り合わせ」で対応することが多く、プロ用の道具は用意してもらえないこともよくある話です。
汎用性が高く入手しやすいものを使って、緩まないホイールナットに対処する方法をご紹介していきます。
トラックのホイールナットが緩まない原因
小型トラックは普通自動車免許でも運転することができるため、普段は乗用車しか乗らないドライバーも業務で使うことがあります。
乗用車と同じ感覚でトラックを扱おうとすると、勘違いや知識不足で作業に戸惑ってしまうことがあります。
冬用タイヤとの入れ替えで、数カ月ぶりにホイールナットを緩めようとすると
「あれ?ホイールナットが緩まない・・?」
となってしまうケースもあり作業に時間がかかってしまったり、ホイールナットやハブボルトを傷めてしまうこともあります。
お客様から電話で問い合わせを頂いたなかでもとくに多かった事例を紹介していきます。
左側が逆ネジ仕様のトラックも多い
トラックのホイールナットが緩まないという問い合わせで、特に多いのが、逆ネジを正ネジと勘違いしたままで緩めようとするケースです。
小型トラックにも逆ネジが採用されている場合がある
大型トラックでは今でも逆ネジになっている場合がありますが、2トン以下の小型トラックでは左右ともに正ネジになっている車両もあります。
比較的に古いトラックであるほど逆ネジになっていることが多く、自動車メーカーによっても違ってくるので、逆ネジのトラックもあればそうでもないタイプもあるのがややこしいところです。
逆ネジの見分け方
トラックのホイールナットの場合、車体の左側のみが逆ネジになっていることが多いので、まずは目視で車体左側のホイールナットを観察します。
ここでホイールナットに小さく「L」と打刻されている場合は逆ネジですが、なかには打刻がないホイールナットもあります。
その場合は、ホイールナットから少しだけ見えているハブボルトの先端をよく観察すると、ネジの螺旋の向きが逆ネジなのか正ネジなのかがわかります。
トラックの締め付けトルクは高い
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トラックのリアタイヤには大きな荷重がかかるためフロントタイヤよりも高い負荷に耐えられるように設計されています。
そもそも手工具で緩めるのは厳しい
乗用車ならホイールナットの締め付けトルクは前輪も後輪も同じトルクで締め付けられています。
対してトラックは荷物を運ぶことがメインの車なので後輪タイヤのホイールナットは前輪よりもはるかに高いトルクで締め付けられています。
特にダブルタイヤになっている場合は、内側と外側のホイールを同じナットで取り付けているタイプの小型トラックもあり、前輪よりはるかに強いトルクが指定されています。
例えば、積載量が1・5トンのマツダのボンゴ、ダブルタイヤではリアのホイールナットは160N・m前後のトルクで締め付けてあります。
比較的にライトなトラックでも乗用車と比べるとかなり強い締め付けトルクで、整備工場なら基本的にインパクトレンチを使ってタイヤ脱着の作業しています。
2トンクラスのダンプカーなどでは、足回りの一部が3トンや4トンクラスのものに近いこともあり、ホイールナットの締め付けトルクはさらに高く設定されています。
これを人力でやろうとすると効率が悪いことこのうえなく、車載工具だけでタイヤの脱着をしようとすると冬でも全身汗まみれになってしまうでしょう。
ホイールナットが締まりすぎている
プロでも締めすぎている人がけっこういる・・・。
小型トラックのタイヤ交換をする場合、整備工場やタイヤ交換業者ならインパクトレンチを使ってホイールナットを緩めたり締めたりしています。
作業効率を考えると間違いないのですが、インパクトレンチでもエアーを動力源としているエアーインパクトレンチでは、エアタンク内の圧力でインパクトレンチのパワーがかなり違ってきます。
ホイールナットを緩めるときに一瞬でナットが緩んでしまうくらいのパワーで作業をすることは間違っていませんが、同じ力でホイールナットを締め付けていくと、かなりオーバートルクになります。
なかには、その車の適正な締め付けトルクを知らない作業者もいるので、「緩まなければいい」という考えから、かなり強くホイールナットを締め付ける人もいます。
こんな感じで締め付け作業をされてしまうと、あとになって緩めようとすると、本来の緩める力ではどうにもならないくらい固く締まっていて緩められないこともあります。
整備工場やディーラーでも小型トラックに関してはやたらと締め付けていることがあります。
とくにサービスカーでタイヤ交換をやっている業者さんのなかには、仇のようにホイールナットを締めている人もいました。
インパクトレンチを使わないなら工夫が必要
車載工具だけでホイールナットの脱着ができるのは、軽自動車や乗用車クラスの車までで、トラックの場合はエアインパクトレンチや電動インパクトレンチを使用するのが前提といえます。
とはいえ、トラックの運転手が自分でなんとかしないといけないような緊急時やプロのドライバーとして対処する場合は、ないものねだりをしてもしかたがありません。
体力を消耗しますが、マンパワーと創意工夫で作業をするシチュエーションもあるでしょう。
小型トラックのホイールナットの緩め方
ここからは、その車に備え付けられている車載工具に加えて、汎用的な道具や資材などで小型トラックのホイールナットを緩める方法をいくつか紹介します。
鉄パイプなどの継手は欲しい
力まかせの作業は危険!
「マンパワーでどうにかする」とはいえ、力づくで作業をしようとすると怪我をしてしまうリスクが高くなります。
たとえば、レンチを足で蹴りつけったり、全体重をレンチに乗せるようなやり方では、レンチが外れたり靴底が滑った場合は危険です。
車に備え付けの工具ではレンチのハンドル部分が短いために十分なテコがきかず、どうしても力まかせになってしまうので、建築資材などで使われる鉄パイプなどを継手にすることがおすすめです。
ただし、パイプの強度はしっかりしたものを選ぶ必要があり、パイプに力を加える場合でも、グローブや軍手などは手につけておきましょう。
継手の長さと締め付けトルクの関係
固く締まっているホイールナットを緩めるときに、工具に継手をかけて少ない力で緩めていくことは問題ありませんが、ホイールナットを締め付けるときに継手を使う場合は注意が必要です。
たとえば、160N・mでの締付けトルクを指定している車なら、160N・mをkgf・mに換算すると、1メートルのレンチの先端に16kgを超える力を加えることになります。
50センチならその倍の32kg、2メートルなら8kgという具合に継手の長さと、力の加減がかなり違ってきます。
緩める場合はナットが緩むことで過度のトルクがナットやハブボルトに加わることはありませんが、締付けをするときにはオーバートルクで締め付けてしまう可能性があります。
最悪の場合ハブボルトが折れてしまったりホイールナットのネジ山が傷んでしまうこともあります。
継手パイプ+レンチを正対させる土台が必要
鉄パイプや建築資材の角パイプを利用して車載レンチを回すやり方は緊急時や設備が不十分な状況ではかなり有効な方法です。
ただし、車載レンチをホイールナットにセットしただけの状態で長い継手をかけてちからを加えると、ホイールナットに斜めの力が加わることになります。
レンチとホイールナットが正対していない状態で大きな力を加えようとするとレンチが外れたり、ホイールナットが変形して潰れてしまうことがあります。
そこで、緩めようとするホイールナットとレンチ曲がり部分を保持する土台をセットすることで2点で保持して、レンチがホイールナットに対してまっすぐ当てられた状態で力を加えていく必要があります。
つぎの章では汎用の道具や資材を使って、安全に大きなトルクをかけるやりかたを紹介していきます。
ダルマジャッキなどを利用するやり方
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レンチの下側に土台やジャッキをセットすることでレンチに斜めの力が加わらないのでレンチが外れたりナットを傷めることもありません。
とはいえ、僕がこのやり方を実際にやったことがあるのは、フォークリフトのタイヤを野外で外したときくらいでしたが。
トラックには車載工具としてボトルジャッキ、別名「ダルマジャッキ」と呼ばれる縦長の油圧ジャッキが付属されていることが多く、ジャッキの背が高いもののジャッキとしての能力が高いです。
ホイールナットにレンチをセットした付け根部分にこのボトルジャッキをセットしてしまうやり方があります。
それぞれのナットの位置に合わせてジャッキの高さを調節してレンチをセットするので手間がかかってしまいますが、鉄パイプなどの長い継手をレンチにかけるときにはレンチが外れにくくなります。
ただし、ボックスレンチがそれなりに長くないと、ダブルタイヤの場合はホイールナットにレンチをセットしてもホイールの内側から付け根がはみ出してくれないので2点保持することができません。
フロアジャッキがあれば作業性が上がる
上記で紹介したボトルジャッキでレンチを安定させるやり方ですが、地面に近い位置のホイールナットにセットしようとするとボトルジャッキの高さがあだになってしまいます。
その点では、2トンクラスのフロアジャッキがあれば低い位置のホイールナットにも「2点保持作戦」がやりやすいです。
とはいえ、適正な締め付けトルクで締め付けられている場合はここまで丁寧にセットしなくてもホイールナットは緩んでくれます。
資材などを利用する場合
レンチを2点保持させるやり方として、大きな木材やコンクリートブロックを使うやり方もあります。
ボトルジャッキとブロックで高さの調整
ボトルジャッキのストロークだけでは高い位置のホイールナットまでジャッキを伸ばすことができない場合もあるので、ボトルジャッキをコンクリートブロックなどの上に乗せて高さを稼ぐのもおすすめです。
最後に
今回は電動インパクトレンチなどを使わずに小型トラックの固く締まったホイールナットを緩める方法の一例を紹介しました。
まずは大前提として緩めようとしているナットが逆ネジかどうかを確認することと、本来の締め付けトルク以上に締め付けられていることも想定しておく必要があります。
その上で、鉄パイプなどの長い継手を用意して、怪我をしないように少ない力でホイールナットを緩めるために、レンチとナットを正対させてから大きなトルクを加えることが望ましいです。
とはいえ、毎年恒例のスタッドレスタイヤとの入れ替えなら、事前に便利な工具や環境を整えておくことも大事です。
また、緩めたホイールナットを締め付けるときにも注意が必要で、オーバートルクでの締め付けはかえって危険です。
正規の締め付けトルクを調べておきつつ、トルクレンチを用意して正しいトルクでの締付けをするようにしましょう。
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