輸入車などでよく見かけるホイールボルトには
どんなメリットがあるのでしょうか。
そりゃあ、なんでも日本車が理にかなった設計をしてるに決まってるでしょ。
いやいや、自動車大国のドイツでも
ホイールボルトを採用していることがほとんどですけど・・。
日本車のほとんどに採用されているのが、ホイールナットとスタッドボルトでホイールとハブを連結する方式です。
その一方で、欧州車に多く採用されているのがホイールボルトでホイールを締め付ける方式。
このホイールナット方式とホイールボルト方式にはどんな違いがあり、それぞれどんなメリットやデメリットがあるのでしょうか。
今回は安全に直結するタイヤ脱着に関連するお話として、タイヤの取り付け方式のお話です。
ホイールナットとホイールボルトの違いとは
ナットとボルトのどちらを締め付ける?
日本車やアメリカ車に多いホイールナットを使った方式では、タイヤ・ホイールを車体側のハブに取り付けるときには、ハブから突き出したボルトに対してナットを締め込んでいきます。
それに対して欧州車に多いのが、タイヤ・ホイールを直接ホイールボルトでハブに固定させるタイプで、レンチなどの工具で直接締め付けるのはホイールボルトになります。
つまり、外側からタイヤ・ホイールを固定しているのがナットなのかボルトなのかという違いと言えます。
ホイールをナットで締め込んでいるので「ホイールナット」、
ボルトで締め込んでいるタイプは「ホイールボルト」ですね。
ホイールナットは別名ラグナットと呼ばれる
おもに日本車の整備をしていると、ホイールを車体に連結させるためのナットのことを『ホイールナット』と呼ぶことが一般的です。
ですが、自動車のタイヤ・ホイールに使用されているボルトやナットは、自動車メーカーによってはラグナット(lug nut)と呼ぶことがあります。
ホイールナットはハブに接触しない
ホイールナットの場合、ホイールがハブにセットされた状態からホイールナットをねじ込んでいき固定するので、ホイールナットとハブの間にはホイールがあります。
スタッドボルトとナットでサンドイッチにしてる?
そのため、ホイールナットは直接ハブに接触しておらず、ハブを貫通するように内側から突き出しているスタッドボルトとホイールナットが接触しています。
ホイールボルトは直接ハブに締め込まれている
ナット方式に対して、ボルト方式のハブボルトの場合はホイールとハブの両方に接触していることが特徴になります。
その理由については後述しますが、ハブボルトを採用するメリットとデメリットがそれぞれあり、ホイールボルトを採用している背景も関係しています。
ラグボルト(lag bolt)と呼ぶこともある
自動車メーカーによってはホイールボルトのことをラグボルト(lag bolt)と呼ぶメーカーもあります。
基本的にはラグボルトもホイールボルトも全く同じものを指すと言えますが、輸入車に車載されている説明書には「ホイールボルト」と記載されることが多いようです。
↑ 古いポルシェのハブは裏側からハブボルトが貫通して圧入されて、ホイールナットでホイールを固定させています。
↑ 現在の欧州車の多くはホイールボルトをハブに直接ねじ込んでホイールを固定しています。
ホイールナットのメリットとデメリット
作業性のよさがメリット
日本車のほとんどに採用されているホイールナットの方式ですが、なんといってもタイヤ・ホイールを取り付ける際の作業性のよさが大きなメリットです。
とくに大きなタイヤと重いホイールの車では作業者の負担がかなり大きく、地面すれすれにハブの高さを調整しておけばトラックのタイヤでも一瞬の力だけで取り付けができます。
スタッドボルトの交換が個別にできる
↑ スタッドボルトをかわすスペースが裏側にあれば、
整備士としては本当に助かります。
ホイールナット方式の車の場合、ハブから飛び出しているスタッドボルトのネジ山が傷んでしまった場合はそのボルトだけを交換することができます。
車種にもよりますが、10分もあれば交換できることもあるので、修理にかかるコストを安く抑えることができます。
デメリットは連結部分の剛性不足・・?
ホイールボルト方式の場合はボルトとハブだけでホイールを固定しているので剛性が高いと言われています。
それに対してホイールナット方式では、ハブに挿入されているスタッドボルトとホイールナットでホイールを固定することになるので、部品の点数がひとつ多くなるぶん剛性が低くなります。
部品と部品の結合部分にはわずかながらも隙間があり、車体に加えてブレーキングやコーナリングなどの慣性も加わるとホイールとハブの間に金属のたわみができてしまうのです。
部品の精度が高くなり剛性面も問題なくなった?
ホイールやハブの取付面やホイールナットのテーパー部分の仕上げのよさなどもあり、ホイールナット方式がボルト方式との剛性の差も大きな開きはないと感じています。
たとえば、スーパーカー並みのパフォーマンスを発揮する日産のGT-Rでもホイールナット方式で、なんの問題もありません。
ホイールでボルトを傷めることも
タイヤとホイールがセットになった状態になるとかなりの重量になるため、作業者が両手で持ち上げながらハブにセットするさいに、誤ってスタッドボルトにぶつけてしまうことがあります。
ボルトの先端部分が潰れてしまうだけでなく、ホイールの穴の部分でボルトのネジ山を傷めながら取り付けてしまうこともよくあり、重いタイヤ・ホイールであるほど傷めやすくなります。
ホイールナットが一本だけ緩まないというトラブルも、前回のタイヤ交換の際にボルトを傷めてしまったままでホイールナットを締め込んでいるパターンもあります。
クロカン4駆のように大きなタイヤなら、かなり体力が必要になるため専用の道具を使って正面から正確にセットさせるのが理想です。
ホイールボルトのメリットとデメリット
連結部分の剛性が高く部品点数を減らせる
高級車の代表格といえばメルセデス・ベンツですが、ベンツでもホイールボルトを採用しており、ただ単にコストダウンができるという意味なら高級車にホイールボルトを採用することはありません。
なにかしらのアドバンテージがあるからこその採用ですが、その大きな理由として挙げられるのがホイールボルトがホイールを直接ハブに固定させていることが挙げられます。
ホイールボルトが直接ハブに締め込まれる
ホイールボルトは、ハブに直接ねじ込んで締め付けていくことで取り付けの強度で優れ、ホイール脱落のリスクを減らすことができます。
ハブ、スタッドボルト、ホイールナットの、3点の部品でホイールを固定するよりも、連結部分の剛性は高く、悪路が多く長距離移動が多いヨーロッパではホイールボルトがよく採用されます。
部品点数を減らせる
車体側のハブには、ボルホイールトをねじ込むためのネジ山が刻まれており、多くの日本車に採用されているホイールナットよりも部品の点数が少なくなります。
スタッドボルトがいらないことでホイールボルトのほうが部品点数が少なくすみ、コストカットの面では優れています。
古いフランス車のなかには、
3本のホイールボルトで
ホイールを固定しているモデルもありましたよね。
デメリットは作業性の悪さ
↑ センターにわずかに付き出したところにホイールをセットしながらボルトの位置を合わせる作業は、うっかりホイールを落としてブレーキディスクにぶつけてしまうことがあります。
ホイールをセットする際に手間取りがち
ホイールボルトのデメリットは、ホイールの取付の際の作業性の悪さで、それなりに重いタイヤ・ホイールを宙に浮かせながらハブにセットしなければなりません。
輸入車の整備に慣れていない整備士やタイヤ交換作業員がやらかしてしまうのが、ホイールの内側をブレーキディスクの遮熱板などにぶつけてしまうことです。
そのうえ、ハブのセンターとホイールのセンターがきっちりと合わさっていないタイプでは、ホイールのセンターがハブ側にうまく合わせにくく、ホイールボルトの締め付けに気をつかいます。
腰に故障を抱えている
おじさんメカニックには辛い作業です・・・。
ガイドボルトがあると作業性がかなりよくなる
↑ガイドボルトがあればホイールナット方式のようにボルトを目指してホイールをセットするだけなので穴を合わせる必要はありません。
作業時間も短縮、早くて丁寧な作業ができて便利
ハブとホイールの当たり面が平らな状態では、ホイールを取り付けるときにハブボルトをねじ込んでいくネジ穴とホイールの穴を合わせる必要があります。
この穴を合わせる作業を簡単にできるツールがガイドボルトと呼ばれるもので、予めハブ側にこのボルトを2本セットしておけば、あとはホイールの穴に通すだけ。
プルプルと手を震わせながら重いタイヤ・ホイールを支える必要もないので、落ち着いてホイールボルトを締め込んでいくことができるので、丁寧な作業ができます。
このガイドボルトは車種によってボルトの太さとネジのピッチを合わせないと使えないので、使用したい車種のボルトサイズを調べておきましょう。
まとめ
ホイールナットとホイールボルトのメリット・デメリット | ||
ホイールナット | ホイールボルト | |
◎メリット |
◎ タイヤ脱着の作業性がいい ◎ スタッドボルトを単体で交換できる ◎ホイールナットも定期的に交換できる |
◎ ハブとの取り付け剛性が高い
◎ 部品点数が少ない ◎ ハブの取付面の清掃がやりやすい |
✕デメリット | ✕ ハブ周辺の清掃がやりづらい
✕ 部品点数が多いので取付面との剛性が低下する |
✕ ネジ山が傷んだ場合はハブの交換となり高額修理に
✕ タイヤ脱着の作業性が悪い |
タイヤ脱着での注意点
ホイールボルト、ホイールナットのどちらにせよ、タイヤ・ホイールをハブにセットする際にスタッドボルトにホイールをぶつけたり腰を傷めてしまうことがあります。
軽自動車やコンパクトカーならともかく、ハブボルトを採用している輸入車や大型のSUVなどのタイヤ脱着にはそれなりに体力と経験が必要になってきます。
タイヤを支える便利な道具もある
↑ これはエマーソン製のタイヤ交換用補助器具 タイヤリフター クルピタ丸ですが、昇降機能がついているのでホイールの高さを微調整しながら取り付けができるので、ホイールボルト方式が多い輸入車などにはかなり重宝します。
さらにさきほど紹介したガイドボルトを併用することでホイールボルトとハブの穴を合わせる作業もかなりやりやすくなります。
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