バッテリーが上がると車はエンジンを始動することができなくなります。
始めて経験したときなどは、軽いパニックになってしまうかもしれません。
できればこんな嫌な思いはしたくないはずですが、
バッテリー上がりが原因でレッカーサービスを依頼するケースは非常に多いです。
今回は、バッテリー上がりの原因、寿命やその前兆といえる症状についてのお話です。
車のバッテリーが上がる原因
「バッテリーが上がった」とはどんな状態?
車のバッテリーだけでなく、携帯電話やパソコンなど電源を必要とする機器に搭載されるバッテリーには電気を貯める容量が決まっています。
たとえば、乾電池を使った懐中電灯も連続して使い続けると、しだいに弱い光になっていき、最後には全く電球を光らせることができなくなります。
これとまったく同じ理由で、車のバッテリーも蓄えていた電気を使い切れば小さな電球すら光らすことができなくなります。
これがいわゆる「バッテリー上がり」と呼ばれる状態で、こうなると別の車のバッテリーや救援用の電源を供給してもらうしかありません。
とくにエンジンを始動する場合、セルモーターと呼ばれるモーターがエンジンを回転させます。
別名「スターター」と言われるこのモーターは、止まったままのエンジンを回転させるため、非常に電気を消費する電装品です。
そのためバッテリーの寿命が近づくと顕著に表れるのが、以前よりもスターターモーターが勢いよく回らなくなるという症状です。
バッテリー上がりと寿命の関係
バッテリーは充電と放電を繰り返しながら能力が低下していきます。また、製造された状態から時間が経過することでも少しづつ寿命が短くなっています。
整備士の僕がバッテリーに関することで強調してお伝えしたいことがあります。
いつもお客様にもしつこいくらいに説明しているのですが、それが『バッテリー上がりをするとバッテリーの寿命がいっきに短くなってしまう』ということです。
バッテリーが劣化する科学的なメカニズムの説明は割愛しますが、放電したままの時間が長いほど復活できる可能性は低くなります。
また、50%の放電よりも80%も放電した状態のほうがバッテリーの寿命に影響し、100%放電し切ってしまった状態ならさらに深刻なダメージとなります。
つまり、放電の度合いと、放電したままの時間が長いほど、バッテリーは復活しにくくなります。
逆に言えば、バッテリーをつねに満充電の状態に近く保っている状態であれば、バッテリー寿命を延ばす要因になるといえます。
実際の使用で例えるなら、
×週末の買い物にだけ車を使い、一回の走行距離も短い
◯仕事の関係で長距離の移動をすることが多くほぼ毎日車を走らせている
上記の走行条件は少し両極端ではありますが、どちらのほうがバッテリーの寿命を短くしているかはお分かりいただけると思います。
正解は、もちろん前者で、週末だけの短距離の使用がバッテリーにはよくありません。
よくあるバッテリー上がりの原因
ルームランプなどの消灯忘れ
これはバッテリー上がりのなかでもっとも多いパターンで、夜に車を使ったあとに暗い車内を照らすためにルームランプやマップランプを「ON」にしまい、そのまま戻し忘れてしまうケース。
ただ、新しい車種のなかには、長時間のルームランプ球の点灯がつづくと、自動的に消灯してくれる機能があるものもあります。
ほかにも、トランクルームやラゲッジスペースの照明を消し忘れてしまうこともあり、ふだんあまりやらないようなことをすると消し忘れてしまうことが多いです。
オートライトを勘違い?
スモールランプなどを点灯させたままで車のキーを抜いたりドアをあけると、「ピー」といった警告音が鳴ってランプの消し忘れを教えてくれます。
ところが、携帯電話で話しながら、会話の内容に気を取られているとこのアラーム音に気が付かないことがあります。
また、ふだんオートライト仕様の車に乗り慣れているお客様が整備工場の代車のライトを消さずに一晩じゅうヘッドライトを点灯させていたケースもありました。
エンジンオフで電装品を多用
お客様とお話をしていて驚いたのが、エンジンを止めてイグニッションキーをアクセサリーの位置にしておいて音楽を聴く習慣があるという話でした。
エンジンをかけたままで停車していると、ガソリンを消費してしまったり、近所迷惑なので、エンジンをかけずに車内で過ごすというもの。
ついつい長時間もこれをしてしまうと、完全放電はしていないものの、エンジンを始動させるだけの力が残っていないことになりかねません。
とくにオーディオのなかでもサブウーファーや専用の出力アンプなどを使っている場合、通常のカーオーディオよりもはるかに高出力なだけにバッテリーの消耗は激しくなります。
急激に気温が下がった場合
バッテリーの特性として、周囲の温度が下がるとバッテリー内部の化学反応がおきにくくなるため、電気を貯めておく容量が下がってしまうことになります。
そのため、秋ごろ、「どうにかエンジンを始動できる」という状態のバッテリーなら、気温が一気にさがる真冬には完全にエンジン始動不能になっています。
車のグレードのなかには「寒冷地仕様」と呼ばれるものがありますが、エンジンルームを開けてみると、びっくりするくらい大きなバッテリーが搭載されています。
これも寒冷地でのバッテリー性能の低下を計算に入れたうえでのバッテリーサイズの変更なのです。
冷房は停車中に赤字充電をひきおこす?
車の電装品の中で、最も電気消費量が多いのがエアコンです。
たんなる暖房や送風ではさほど電気を必要としませんが、「ACボタン」を押すことで作動する冷房は非常に電力を消費します。
車種によっては、アイドリング中にエアコンを入れると、発電機からの充電よりも、エアコンで消費する電力を上回ってしまうこともあります。
エンジンの回転を上げてしまえばすぐに黒字になるのですが、雨の日に車を停車させてワイパー、エアコン、リアガラスのデフォッガーなどを同時に作動させるとかなりの確率でバッテリーが上がってしまいます。
あまり知られていないことですが、車のリアガラスに使われている熱線(リアデフォッガー)は、非常に電気を消耗します。
なかには、それと知らずに常にリアデフォッガーのスイッチを入れっぱなしにしているユーザーさんもおられました。
これは電力の無駄遣いでしかなく、燃費の悪化だけでなくバッテリーを弱らせる一因にもなるので、必要な時にだけ使うようにしましょう。
真夏から秋、冬への最悪パターン
真夏でさんざんエアコンを多用することでバッテリーにはかなりの負担をかけてしまいます。
そのうえ、エンジンルームは炎天下や渋滞の影響もあり異常なまでに高温になります。
バッテリーの搭載される位置は車種によって違いますが、エンジンルームにバッテリーがある場合、高温にさらされることでバッテリーの寿命を縮める原因となります。
また、十月の上旬くらいだと、昼間の走行なら軽くエアコンを効かせることもあります。
バッテリーの寿命に影響する条件がいくつも重なるうえ、秋から冬に移り、急激に気温が下がるということも考えられます。
夏場に入る前にバッテリーの点検をしても正常だったはずが、その年の暮れにはほぼ限界を迎えているというケースも多々ありました。
できれば季節の変わり目にはバッテリーの点検をしておくほうが
バッテリー上がりのトラブルに巻き込まれにくいでしょう。
発電機の不良が原因になることも
発電機(オルタネーター)の不良によってバッテリーが上がることがあり、この場合、交換したすぐのバッテリーであっても一日も持たないことがあります。
本来なら、発電機が正常ならバッテリー内の電気がなくなることはありませんが、過走行などが原因で発電機が発電しなくなると、車を走らせるための電気をすべてバッテリーからまかなうことになります。
するとバッテリーからは電気を消費されるいっぽうとなり、電装品やエンジン制御のコンピューターに必要な電気が供給されなくなった時点で車はエンスト、ハザードランプすら点灯させられない状態におちいってしまいます。
暗電流という盲点
車を駐車場などに止めて施錠もした状態では、コンピューターへのバックアップ電源としてごくわずかですが電気を消耗しています。
ほかにも、カーオーディオやカーナビ、セキュリティシステムや防犯用のドライブレコーダーにもバッテリーから電力が供給され続けています。
このように、車を停車させている状態でもバッテリーから出ていく電流を「暗電流」といいます。
暗電流はどの車でも、つねにバッテリーに接続したままであれば完全にゼロにすることはできませんが、バッテリー上がりを引き起こすほどの消費量ではありません。
かりに健康なバッテリーであれば一か月くらいエンジンをまったくかけない状態でもしっかりとエンジンを再始動させることができます。
ところが、電装品など、なんらかのトラブルが原因で正常値の十倍以上の暗電流が発生すると、たとえ健康なバッテリーでも二日もしないうちにバッテリーが完全に上がってしまうこともあります。
異常な暗電流の原因として、発電機の内部ショートや電装品などの接続方法の不備、衝突事故などの後遺症で配線同士がショートした場合などにおきます。
車のバッテリーが寿命に近い症状とは
高性能なバッテリーの落とし穴とは
マニュアルタイプのミッションが全盛期の1980年代から90年代、バッテリーが上がってしまいそうになると、セルモーターの回り方ではっきりと判断できたものでした。
まずイグニッションキーを回すと、普段は
「キュルルルルッ!」
といった感じで元気よく回転するはずのセルモーターが
「キュ・・キュ・・ルル」
とかなり元気のない音で、苦しそうに回転するのがわかります。
そんなときはギアを四速とか三速に入れてクラッチをタイミングよくつなぐ「押し掛け」なんて芸当もできました。
これは、バッテリーの性能が緩やかに劣化していくのがわかるという意味でもあるので、セルモーターが回るときの音がバッテリー劣化のシグナルにもなります。
ところが、バッテリーの性能がどんどんよくなり、エンジンを始動するだけの瞬発力もバッテリーの限界まで発揮できるようになったことで、いきなりエンジンがかからないことも起きやすくなりました。
バッテリー上がりを経験したお客様がよくおっしゃられるのが
「昨日までは普通にエンジンがかかってたのに・・・」
という、かなり納得ができないという、口ぶりです。
「ぎりぎりまで性能を発揮できるバッテリー」というのは、
言いかえれば、「バッテリー上がりの予兆がない」とも言えますし、「突然死がおこりやすいバッテリー」と言えます。
アイドルストップ車なら車が判断してくれる?
別の記事でも書いていますが、アイドルストップ車はバッテリーの電圧降下をかなりシビアに監視しています。
なぜなら、バッテリーが弱っていてエンジンの始動が難しい状態でアイドルストップをしてしまうと、たちまちその場で立ち往生となってしまうからです。
そのためバッテリーの電圧がほんのコンマ数ボルト下がっただけでアイドルストップ機能を停止してしまう車種もあり、メーター内にアイドルストップができなくなったことを表示してくれます。
ただし、あまりにもシビアすぎるきらいがあるので、バッテリーの交換以前に、少し長めの運転をすることでしっかりとバッテリーが充電されて復活することもあります。
もしも三年以上交換していないバッテリーでアイドルストップオフの表示が出たら、バッテリーを交換してしまうほうがいいでしょう。
外観からバッテリーの寿命を判断
バッテリーそのものをよく観察してみると、劣化している場合はそのシグナルを見つけることができます。
その中でもとくにわかりやすいのがバッテリー液の液面がロアレベルになっていたり、六個ある部屋(セル)のそれぞれの液面にばらつきがある場合などです。
そもそも健康な状態のバッテリーは液が減ることはほとんどなく、希硫酸が水素と酸素に電気分解されていることが劣化の始まりといえます。
また、バッテリーを目視で見てみるとバッテリーの液を補充する栓の周辺にホコリが積もっていることがありますが、これはその栓からバッテリー液が蒸発したり分解されて気体になった証拠なのです。
なかにはホコリがしめっぽくなっているままのケースもあり、バッテリー液の減少が早まっているのです。
まとめると、外観でバッテリーの寿命を判断するなら
1.バッテリーの側面から液面がアッパーレベルから下がっているかどうか
2.バッテリーの液面の高さにバラつきがないか
3.バッテリー上面の液補充の栓の周辺にホコリが付着していないか
簡単ですが、これだけでもバッテリーのコンディションを確認することができます。
バッテリーの寿命は予測するしかない?
バッテリーにはある程度の寿命があり、小さなサイズのほうが寿命が短い傾向にあります。
たとえば軽自動車クラスによく使われる「40B19」と呼ばれるサイズのバッテリーだと、車種や使用条件にもよりますが、三年前後で交換が必要になります。
つまり、三年経過したバッテリーなら惜しげもなく交換してしまうのもひとつの予防策になります。
もちろん、バッテリーチェッカーなどを使ってこまめに点検をしていれば、急激に性能が悪くなる瞬間を見極めることもできますが、
バッテリーに関しては、少し早めの交換がトラブル回避には確実な方法といえます。
バッテリー電圧をモニタリングすると早期発見につながる
バッテリーの健康状態を手軽に把握するには、エンジン始動前のバッテリー電圧を毎日確認するのも効果的です。
とくに、シガーソケットに差し込むだけの簡易的なバッテリーチェッカーなら、車内からバッテリーや発電機の電圧を測定できます。
測定機器としての精度が気になるかもしれませんが、毎朝エンジンを始動する前の電圧と始動後の電圧を比較するのなら、電圧の変化を知ることができます。
つまり、同じチェッカーなら、測定値の変化はそれなりに信ぴょう性がでてきるという理屈です。
電装品を使いで装着していたり、過走行で走行距離がかなり多い場合などは、「転ばぬ先の杖」として
バッテリーの寿命を早めに発見できるでしょう。
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