「車にあまり乗らないならバッテリーは外しておいたほうがいい」
これは僕が整備士としてスタートした二十数年前以上から言われている、バッテリーを弱らせないための節約術です。
この「二十数年前から」というフレーズに、「おや?」と違和感を感じた方も多いはず。
現在とそのころでは車の制御方法や性能はまったく違います。
それでも、いまだにバッテリーを外しておけという、意見があるのはどういった根拠なのでしょうか。
今回は、車のバッテリーを外しておくのは、
はたしてどれくらいのメリットがあるのかというテーマで現役整備士の僕なりの意見をお話していきます。
車のバッテリーは乗らないと弱る。でも外すと?
車のバッテリーが弱っていく理由
そもそも、バッテリーは車に搭載されて接続されていても弱りますが、商品として保管されていても少しづつですが寿命が短くなっています。
ただし、車に接続されたままの状態とはその劣化が進むスピードはまったく違います。
バッテリーは車に搭載されて使用が始まったときから、充電と放電を繰り返すことになります。
また、ほとんどの場合、バッテリーは車のエンジンルームにあるため、エンジンなどからの放熱にさらされつづけます。
結果的にはバッテリー劣化はかなりのスピードですすんでしまうのです。
また、車に接続されているだけでも多少の電力を消費しているので、つねに満充電の状態で維持されていないことも劣化の原因といえます。
バッテリー端子の外し方
今回はバッテリーの劣化や上がりを防ぐことを目的としたバッテリーの外し方についてご説明します。
バッテリーは車に載ったままでOK
バッテリーそのものを車から取り外すとなると、車体に固定されているステーを外したり、重いバッテリーを持ち上げることになります。
エンジンをかけることもありませんし、よほど極寒とか高温の場所でなければ、車に搭載したままでも問題はありません。
マイナス端子を外せば完了
自動車のバッテリーの場合、車のボディそのものがマイナス側(アース)なので、バッテリーのマイナス端子を外せばおしまい。
このときに必要な工具は、マイナス端子を外すための10mmのスパナがあればできてしまいます。
ディーゼルエンジン車などの車格の大きい車の場合はマイナス端子のボルト・ナットが12mmの場合もあります。
端子のボルトがやたらときつくしまっていることもあるので、めがねレンチやボックスレンチがあれば便利です。
バッテリーを外しておくメリットとデメリット
端子を外すメリットは?
あくまでバッテリーの寿命を伸ばすことだけを考えれば、あまり車に乗らない期間はバッテリーの端子を外しておくメリットはあります。
車に消費されてしまう電力をカットすることができるぶん、放電はかなり緩やかになり、バッテリーの劣化を遅らせることができます。
とうぜん、バッテリー自体も電力消費はなくなるので、あがりにくい状態にすることができます。
たとえば、一ヶ月に一度しか使わないような場合だと、バッテリーを車に繋いだままだと、おそらくエンジンの始動ができない状態になっているケースも多いです。
まとめると、バッテリーを外しておくメリットは
・バッテリーの寿命を少しでも長くできる
・バッテリー上がりを回避しやすい
ということになります。
バッテリーを外すのはデメリットだらけ?
コンピューターの記憶が初期化されてしまう
車にはエンジンの制御をするためのECU(engine・control・unit)と呼ばれるコンピューターがあります。
このコンピューターには学習機能があり、エンジンの制御を細やかに補正つづけて、その内容を記憶しています。
バッテリーの端子を外すと、この記憶はおよそ一分ほどで消えてしまい、学習した内容は初期化してしまいます。
そのため、エンジンを始動させても、やたらとエンジン回転が高くなったり、車を走らせても以前の状態とフィーリングが違うことがあります。
オートマチックの変速のタイミングなどが変わってしまったり、エンジンが止まりそうになることもあります。
また、パワーウィンドウのオート機能が初期化されていて、一度のスイッチ操作での全開や全閉ができなくなります。
カーナビやカーオーディオの設定なども初期化
カーナビなどの電子機器もバッテリーの電源で設定の記憶をバックアップしています。
そのため、バッテリーを外すと時計の時刻や設定した内容もすべて初期化されています。
これらを再設定するのはなかなか面倒で、説明書を引っ張り出してしばらくオーディオとにらめっこをするハメになります。
カーナビのハードディスクが壊れるかも?!
一度バッテリーの端子を車から外してしまうと、カーナビに供給されていたバックアップ電源が断たれてしまいます。
この状態からもう一度端子を接続してエンジンをかけると、カーナビが起動しないというトラブルがかなりあります。
本来ならバッテリーを外してもこんなことにはならないのですが、比較的に古いHDDナビだと起こりやすいトラブルです。
一度この状態になってしまうと、二度と復活することなく、カーナビを取り外して修理に出すかナビの買い替えとなってしまいます。
なかには特定のメーカーのHDDナビがバッテリー交換やバッテリー上がりがきっかけで起動できなくなるトラブルが頻発しているようです。
【外部リンク】とあるメーカーのHDDナビがいきなり壊れる事例
じつはこの事例、僕自身は経験したことはないのですが、JAFの隊員さんやレッカーサービスのスタッフの間では有名な話として聞かされたことがあります。
そのため、ハードディスク内蔵のカーナビを付けているなら、バッテリーを外しておくのはかなりリスクがあると思っておいてください。
バッテリーを再接続したとたんセキュリティアラームが・・
イモビライザーなどのセキュリティアラームが装備されている車の中には、バッテリーの端子を再接続しただけでセキュリティが作動してしまうこともあります。
こうなると、ハザードランプが点滅しながらホーンが鳴り響くことになり、初めて経験するとかなり焦ってしまいます。
こうなると、本来のキーを使ってエンジンを始動または、ハイブリッドシステムを起動しないとアラームは定期的になり続けることになります。
車のコンディションはバッテリーありきではない
機械は動かさないと調子をくずす
しばらく車に乗らないからバッテリーを外しておくというのは、バッテリーの状態にばかり意識してしまっています。
車のコンディションを少しでも維持させたいと考えるなら、エンジンやミッション、ブレーキ周りなどのことも考えておく必要があります。
車だけではありませんが、あらゆる機械は動かさないことで調子がわるくなっていきます。
エンジンもたまに始動させて内部のエンジンオイルを循環させ、オイルの油膜を各部にコーティングしないと調子が戻りにくくなります。
もちろんオートマチックやマニュアルのトランスミッションも同様で、動かしてあげることで調子を維持できます。
また、ブレーキや足回りですら、止まったままだと動きが悪くなることがあり、とくにブレーキ類はディスクローターが茶色く錆びてしまったり、油圧を受けるピストンが固着してしまうこともあります。
エアコンのコンプレッサーですら、久しぶりにエンジンをかけてエアコンを入れると異音が発生することがあります。
農家の軽トラは短命?
田舎の農家さんでよくあるのが、トラクターなどの農機具のような扱いを受けている軽トラックのバッテリー上がり。
そのため、他の耕運機や田植え機と同じようにバッテリーの端子を外した状態でおいている軽トラックも少なくありません。
これらの軽トラックを車検で点検することがありますが、年間の走行距離が1000kmにも満たないような使用状況のものも多いです。
とうぜんバッテリーはわりと新しいのに弱っていて、充電器で充電されることでかろうじて延命しているケースもあります。
バッテリーだけでなく、エンジンの始動性が悪かったり、ベルトまわりのプーリーが錆びていて、ベルトがすぐにダメになったり。
タイヤの空気圧も低いままなのでタイヤのヒビ割れもびっしり。
トータルで診てみると、走行距離が少ないのにあまり調子が良くない車が多いです。
まとめ
整備士としてあらためて感じたことは、車は走らせても走らせなくても傷んでいくということと、ちょっとした配慮でコンディションがずいぶん違ってくるということです。
バッテリーの状態に注意がいきがちですが、
「車は走らせてなんぼ」といってしまうと身も蓋もない話ですが、
車は走らせることでのみ、本来の調子を「全体的に」維持できることはたしかです。
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