ブレーキを踏んだときに発生する異音のなかに「グググ」とか「ゴゴゴ」といった低い音域のものがあります。
このタイプの異音が発生すやすい状況としては比較的に低速で走行しているときやほぼ止まっているときが多いです。
先にこのタイプの異音についての緊急性をお伝えしますが、ほとんどの場合は異常ではないケースです。
とはいえ、どうしても気持ちが悪いから改善したいと感じる方や、車検や点検のあとで異音が鳴り出した場合は原因を知りたいところ。
今回はブレーキ周辺から発生する異音の原因について整備士としての体験談も交えてお話していきます。
ブレーキの異音には「グググ」と「ゴゴゴ」が多い
音域が低いブレーキの異音とは
まずはブレーキの異音全般に関することとして、音域が高い異音と低い異音があることがあげられます。
音域が高い異音は「キーキー」とか「キュー」といった金属がこすれるようなものなので今回のお話で割愛します。
それに対して低い音域の異音は「グググ」や「ゴゴゴ」という、重いものがゆっくり動くようなイメージのものです。
音の発生には振動と周波数が関係している
擦れ合う物と物の間には摩擦が発生し、その摩擦の度合いによって微細な振動が発生しています。
より細かくて周波数が高い振動の場合はキーなどの甲高い音で、低い音が出るのは周波数が低いためです。
ブレーキの異音のなかでも低い音で鳴る「グググ」や「ゴゴゴ」といったものは、比較的に低い周波数の振動から発生しています。
また、低い音域の異音は低い速度で発生しやすく、言い換えればブレーキディスクとディスクパッドの擦れ合うスピードも低速時に発生しやすくなります。
ブレーキの異音に関しては高い速度域では「キーキー」、低い速度では「グググ」みたいなケースが多いです。
それでは、実際にグググとかゴゴゴといった音質の異音が発生する条件をいくつか挙げていきます。
ブレーキを離していくとグググと鳴る
グググ音の典型的なパターン
オートマチック車でよくある異音として、ブレーキペダルを踏んで車が停止している状態からブレーキを離して進もうとするとグググと鳴るケース。
この状態はブレーキを軽く効かせたままでドライブレンジに入っているので、前に進もうとする力が加わったままでブレーキを弱めていくことになります。
するとブレーキが弱まるときに、進もうとする力とのバランスがぎこちなくブレーキが効いた状態になり、一定の力でブレーキが効かないことでABSが作動したような振動が発生します。
つまり、非常に短い間隔でブレーキを踏んだり離したりするような状態がわずかな摩擦係数のムラで運転手の意思と関係なく起きているというわけです。
雨の日や朝に鳴りやすい
停止状態からのグググ音は路面が濡れているときや、ブレーキ周辺が冷えている早朝などに起きやすく、夜露でブレーキディスク表面が濡れているときも顕著になります。
とくにわかりやすいのが洗車をする前には鳴らなかった異音が洗車直後には音が発生することで、ブレーキ周りの変化を検証しやすいです。
お客様からお預かりした車を洗車して車を動かそうとするとブレーキを離すタイミングでグググとかゴゴゴという音が出ることがよくあります。
原因は洗車の水がブレーキディスクにかかってしまうことでディスクパッドとディスクとの摩擦が変化し、なおかつ水分が均一にディスク表面に付着していないことで異音が出やすく鳴ります。
ディスク表面の水分は、走行しながら軽くブレーキを効かしておけば自然に水分が蒸発していくことで異音も出なくなります。
止まる直前に異音が出る
ブレーキの摩擦係数は変化している
少し強めにブレーキを効かせながら車を停止させると、「グッグッ」とか「グググ」といった音が発生することがあります。
これも上述した、ブレーキディスクやドラムブレーキ内部の摩擦係数の変化が関係していることがあります。
ブレーキを強めに効かせると、回転しているディスクやドラムの表面の温度がいっきに上昇し、ブレーキパッドやブレーキライニングの温度にも部分的なムラがあります。
より温かくなっている部分と少し温度が低い部分とではブレーキの効き具合にも摩擦係数のばらつきができることで、わずかながら制動力に差ができます。
かりに強くブレーキを踏み始めても徐々にペダルを踏む力加減をスムーズにゆっくりと抜いていけば、止まる直前の異音は発生しにくくなります。
ブレーキ周辺に走行風が通過することで、周辺温度のムラが減り摩擦係数が均一に近づけば、ブレーキ鳴きの要因を減らすことができるわけですね。
発進時に異音が出る場合は引きずりが原因
ブレーキを離してもブレーキから異音が出るのは異常
本来はブレーキペダルを離した状態ではブレーキは一切効いていないはずですが、過走行の車や融雪剤による摺動部分の固着などでブレーキの戻りが悪くなっていることがあります。
この状態は「ブレーキが引きずっている」という言い方をしますが、ディスクブレーキの油圧ピストンの戻りが悪かったり、スライドピンが錆びたりなど理由は様々です。
この引きずりという状態、言い換えれば『ブレーキペダルを離してもブレーキが効いている』わけで、上述したブレーキを離していくとグググとなるケースに近いといえます。
ただ、オートマチックのクリープ現象でペダルを離していくと異音がする場合は、ブレーキペダルを離せば鳴らなくなるのに対し、引きずりが原因の場合はブレーキペダルを離しても鳴ります。
なおかつ、ブレーキに引きずりが発生している場合は車が発進するときはガクガクと不自然でぎこちない進み方をするケースもあります。
左右のタイヤ・ホイールをよく観察してみると、引きずりが出ているほうのホイールだけブレーキダストがべったりと付着していたこともありました。
サイドブレーキの戻し忘れでも異音が出る
足踏み式のサイドブレーキでよくあるのが、サイドブレーキを引いたままで発進してしまうパターンで、サイドブレーキが効いたままの後輪付近からグググと異音が出ることがあります。
この場合、より強くサイドブレーキを効かせていたときのほうがグググ音が強く出る傾向にあり、ほとんどサイドブレーキを効かせていない場合はそのまま走行してしまうこともあります。
後ろのドラムブレーキ内部のトラブル
軽自動車やコンパクトカーでは後ろのブレーキにドラムブレーキを採用していることが多く、ドラムブレーキ内部に問題があると引きずりが発生することがあります。
僕の経験上でもっとも多かったのが、ブレーキを効かせるための油圧ピストンからブレーキフルードが漏れ出し、ブレーシューに付着してしまい摩擦材が異常摩耗するケースです。
ほとんどの場合は車検で点検することでそこまでひどい液漏れが放置されることはありませんが、過走行やサイドブレーキの戻し忘れによるフェード現象などでピストンのゴム部品が劣化します。
ほかにも、商用バンなどの後輪駆動車のドラムブレーキではリアデフのギアオイルがドラム内部に漏れ出してブレーキシューに付着してしまったケースもありました。
いずれにしてもドラムブレーキに引きずりが発生しても、ほとんどは後輪ブレーキであることから、運転手は気が付かないまま走行してしまうこともあります。
車検や法定点検はブレーキのトラブルの早期発見には有効ですね。
グググ音の原因はスティックスリップ現象?
スティックスリップ現象とは
スティックスリップ現象とは、接触している2つの物体の間に生ずる摩擦が原因で、「すべり」と「付着」が交互におきることで断続的な動きとそれにともなう音を発生させている状態をいいます。
接触する二物体が滑るとき,連続的ななめらかな滑りにならず,滑りと固着が交互に起きる間欠運動.摩擦系に弾性ばねを含むと,接線力の増加に伴うばねの変位の増加が弾性エネルギーを増加させ,限界に達するとエネルギーの解放としてみかけの滑り速度より大きな滑りが生じる.やがてそれらの相対速度が0になると固着する.これが繰返される.材料の組合せや,静摩擦と動摩擦との差,摩擦-速度特性が負,二面間の潤滑状態,滑り速度,摩擦系の質量,ばね定数,固有振動数,減衰性などが影響因子となる.
一般社団法人日本機械学会HPより
グググとゴゴゴの違いは摩擦係数と材質の違い
今回のテーマである、ブレーキからのゴゴゴ音やグググ音ですが、どちらもブレーキに発生している摩擦が低い周波数であるときに発生することが多いです。
またグググという音とゴゴゴという音の違いはブレーキディスクやブレーキパッド、ドラムブレーキとブレーキライニングの触れ合う材質が違っても音の質が違ってきます。
そのため同じようなグググという音の発生する原因でもまったく違うブレーキの方式であることもあり、ディスクブレーキとドラムブレーキというまったく違う構造なのにそっくりな異音になることもあります。
摩擦係数が変化すると異音も変化する
スティックスリップ現象も物体に加わる力と触れ合っている物体との摩擦によって断続的な音の発生パターンも変化します。
上述したように洗車をした直後にだけブレーキを踏むとグググ音が出る場合などもブレーキディスク表面に水分が付着することで摩擦係数が変化することで、普段とは違う異音が発生するのです。
最後に
ブレーキを踏んだタイミングで発生する「グググ音」のなかには、車の機能上で発生してしまうものもあり、異音とは言えないものもあります。
整備士としてお客様からブレーキに関する異音の相談を受けるときに、まずはその異音を再現して直接確認できるかどうかが重要ですが、ブレーキの異音は「鳴らないときは鳴らない」というたぐいのものもあります。
とはいえ、なにかしらのトラブルのシグナルであることもあるので、直接目視で確認できないような部分に関してはディーラーや整備工場で点検をしてもらうことが大事です。
その際に、「どんな音が」「どんなときに」「どのあたりから」などのなるべく具体的な異音の発生条件や音質を教えてもらえると異音の原因を推測しやすくなります。
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