朝、いつもとブレーキの効きがぜんぜん違うからびっくりした!
こんな相談をお客様から受けたことが何度かあります。
ただ、「ブレーキが効かない」というだけではその原因は違ってきます。
もしかすると、状況によってはブレーキの不具合ではないケースもあるのです。
寒い日の朝や雨降りの日などでは、ブレーキのフィーリングの違うことがあります。
自動車教習所でも少しブレーキングに関する講習もありますが、
車のブレーキには、構造によって特徴や特性が違うので注意する必要があります。
寒い日にブレーキが効かない理由
ブレーキ周辺の温度と効きの関係
寒い日の朝に車に乗り込んで、最初のブレーキングのときに、驚くほどブレーキが効かなくて、おもわず「あっぶつかる!!」と怖い思いをしたことがある方もいることでしょう。
車検などの点検の際にお客様からブレーキに関する質問や、「しっかり調べておいて欲しい」とご依頼を受けることもあります。
ここで重要な要素が「寒い」ということになってきますが、寒いときにはブレーキが効きにくくなる原因があります。
ブレーキにも暖気が必要かも
まず、車のブレーキはどうやって効くのでしょうか。
当たり前すぎて、一瞬「ん?」と考えてしまいますが、ブレーキは摩擦の力で止まる力を出しています。
これは自動車だけでなく自転車もバイクも航空機ですらもタイヤで地面を走行しているなら摩擦の力でタイヤを止めようとすることで制動力が出ます。
車の場合では、前輪のブレーキはほぼすべての車はディスクブレーキになっていて、タイヤと一緒に回転しているブレーキディスクをブレーキパッドが両側から挟み込むことでタイヤとセットで回転しているブレーキディスクを止めることができます。
このとき、ディスクとパッドの間には摩擦がおき、その抵抗値が高いほどブレーキは強く効くことになります。
ところが、ブレーキディスクの温度が低い状態では十分な摩擦抵抗が発生せず、運転手は、
いつもと同じ力でブレーキペダルを踏んでるのにブレーキが効かない・・?
と感じるのです。
じつはブレーキには適正な温度があり、ブレーキディスクの温度が低すぎても高すぎてもブレーキの効きが変わってしまうのです。
気温が低いとブレーキが効きにくい理由
ディスクブレーキはタイヤのすぐ内側にあり、ほとんどむき出しになっていることで放熱性に優れた構造になっています。
ブレーキ周辺の温度が高くなりすぎると「フェード現象」とよばれるブレーキパッドの表面が炭化することがあり、それを防ぐためにブレーキディスクは走行風が当たることでディスク表面が冷えやすいようになっています。
ところが、外気温が低い場合は走行中にブレーキディスクが冷却され過ぎてしまうことにもなり、ディスク表面の温度が下がりすぎることで十分な制動力が発揮されないこともあるのです。
この場合、もっとも簡単な解決法はブレーキを軽く効かせながら走行することで、ディスク表面の温度も上昇するので、ブレーキの効きも本来に回復します。
レースの世界ではブレーキの暖気は常識
サーキット走行をする前に一周ほど車体を蛇行させたりしながら走行しているシーンがありますが、あれはブレーキの表面を十分に温めるためなのです。
もしもいきなりレースを始めると、高温域でしか制動力を発揮できないスポーツパッドではブレーキがほとんど効かず、非常に危険です。
一般的な自家用車の場合はそこまで極端なブレーキの設定はなされていませんが、それでも外気温がかなり低い場合、ディスクローターの表面温度が下がったままではブレーキの効き具合がかなり違ってきます。
寒い日の朝は最初のブレーキに要注意
ブレーキ周辺の温度とブレーキの効き具合の変化は上述したとおりですが、じつはもう一つブレーキの効きを変化させてしまう要因があります。
それが、エンジンが十分に暖気できていない状態での「ファーストアイドル」という、暖気中だけになるエンジンの回転が少し高い状態です。
オートマチック車の場合、エンジンの回転が高いとドライブレンジに入れただけで「クリープ現象」がはたらいてアクセルを踏まなくても車はスルスルと前に進みます。
このとき、エンジンの回転が通常の回転よりも高い場合はそのぶんクリープも強くはたらくため、暖気が完了するまでは強めにブレーキを踏んでいないといけません。
いいかえれば、エンジンが冷えているときはクリープ現象が強く作用し、ブレーキまわりが冷えているためにブレーキの効きが悪いということになります。
とくに軽自動車の場合はファーストアイドルが高く設定されていることもあるので、普段はエンジンの回転が850rpm(毎分850回転)なのに対して、ファーストアイドルが1200rpmくらいまで上昇していることがあります。
アイドリングの回転数がこれだけ違うと、クリープだけでかなりのスピードが出ますし、それを止めるためのブレーキの踏力もかなり違ってきます。
つまり、寒い日の朝のブレーキの効きがとくに悪いと感じる原因は、
この2つの要因が重なっていることが原因かもしれません。
雨ふりでブレーキが効かない現象とは
水溜りを通過するときは要注意
ブレーキは物と物の擦れ合うときに発生する摩擦力で制動力を発生させていますが、ブレーキディスクの表面に水分が付着することで摩擦係数が下がってしまうことが原因です。
この場合は、軽くブレーキを効かせながら走行することで水分だけが付着している場合ならすぐに蒸発させることができるので制動力も通常にもどります。
ドラムブレーキは放熱性も排水性も悪い
現在の車の場合、ドラムブレーキをフロントブレーキに採用しているモデルはありません。
ただし、コンパクトカーや軽自動車の場合だと、リアブレーキにドラムブレーキを採用していることは今でも主流といえます。
ドラムブレーキの場合、まるでお椀のような形をしたドラムがタイヤと一緒に回転していて、内部にはブレーキライニングと呼ばれる部分がドラムの内側と擦れて摩擦力を出しています。
つまり、摩擦をしている部分がディスクブレーキのように外側にむき出しになっていないぶん放熱性も悪く、深い水溜りなどに浸かってしまった場合では、ドラムの内部に入った水分が排出されにく構造なのです。
そのため、ディスクブレーキよりも浸水した場合のリカバリーが遅いということにもなり、雨の日の走行では、ブレーキの効きにバラつきが生じやすいといえます。
とくに台風やゲリラ豪雨のときなどの降水量が非常に多いときなどは、路面のところどころに通常の水溜りよりも水深の深いスポットができていることがあります。
もしもそこを通過してしまった直後などは、急制動をしようとしても普段よりも遥かにブレーキが効かないと感じることもあるでしょう。
また、ドラムブレーキの内部に入り込んでしまったのが海水や汚水などの場合は、浸水した後で分解点検を受けることをおススメします。
とくに塩水がドラムブレーキの内部に入り込んでしまったままで放置するとブレーキシューやホイールシリンダーといった、ドラムブレーキを構成する重要な部品が塩害により正常に作動しなくなる恐れがあります。
【まとめ】ブレーキが効かない原因はさまざま
今回は寒い日や雨降りの日にブレーキが効かないケースについてのお話でした。
一言でブレーキが効かないといっても、さまざまな理由があります。
冷間時はブレーキの効きが違う
寒い日の場合は気温が低いことでブレーキ周辺の温度が低く、エンジンが暖気モードになっているために回転が高いままになっています。
そのため、ブレーキの効きが通常よりも悪く、そのうえクリープが強く車が進もうとする力が強くなっています。
真冬の朝に車に乗り込んだすぐは、乗りなれた車であっても本来のブレーキフィーリングではないことを意識しておきましょう。
濡れた路面ではブレーキディスクも濡れてしまう
どんなブレーキでも、物と物が擦れ合う摩擦力で制動力が発揮されます。
ブレーキディスクの表面に大量の水分が付着するとディスクパッドとディスクローターとの摩擦係数が下がってしまい、本来の制動力がでなくなります。
多少の水分なら、高速に回転するディスクの遠心力や、ローター表面の熱で揮発するので大きな影響をうけることはありません。
ドライビングポジションも関係するかも
ブレーキングをするときに、シートとブレーキペダルの距離が適切でないとしっかりとペダルを踏み込むことができません。
このシートポジションは前側にしすぎるとドライバーは圧迫感を感じてしまいますが、後ろにしすぎるとブレーキペダルから離れてしまうことになります。
たくさんのお客様の車を点検していると、やたらとシートが後ろ側になっている方も多いですが、ホントにこんなポジションでしっかりとブレーキペダルを踏み込めるんだろうかと思ってしまいます。
オートマチックやパワーステアリングのおかげで、けっこうゆったりした座り方をしていても普通に運転できてしまいますが、とっさの緊急ブレーキや、普段よりもブレーキの効きが違うときにも制動距離の差が出ることもあるのです。
基本すぎることですが、「緊急ブレーキでもしっかりペダルを踏み込めるかな?」といったことを意識してドライビングポジションも見直してみてはいかがでしょう。
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