自動車のブレーキディスクの表面は、ディスクパッドと直接触れている部分は錆びることもなく銀色に光っています。
ディスクパッドが触れてないところが錆びるのは仕方がないこととはいえ、外周部分の錆がやたらと目立つこともあります。
車検などのさいに、お客様から「こんなに錆びてるんですけど、これって普通なんですか?」などと質問を受けることもあります。
今回はディスクブレーキの基本的な構造や特性に触れつつ、ディスクローターの外周に浮いた錆びに関するお話をしていきます。
先に結論を言うと、正常なケースもありますが、正常ではない場合もあり、その場合の対処法や予防についても述べていきます。
ブレーキディスクの錆が外周だけにできるケース
ディスクパッドが触れていない部分はすぐに錆が浮く
ディスクブレーキはディスクローターをディスクパッドで挟んで制動力を出すという、シンプルな構造ですが、ディスクの表面に発生する錆に関してはいろんなケースがあります。
普段から車を使っているなら、ディスクの表面はピカピカに光っていますが、ディスクパッドが触れることがない部分には、うっすらと錆が浮いています。
ブレーキディスクに錆びやすい材質が使われる理由
自動車のブレーキディスクには「鋳鉄」と呼ばれる材質のものが使われていて、高温になったあとの冷却過程でも歪みが発生しにくく、ディスクパッドとの摩擦係数も比較的安定しています。
ところがこの鋳鉄、錆びやすいという特性もあり、わずか数日感でも車を走らせずにいるだけで、うっすらと錆が浮いてくるほどです。
「ブレーキローターはステンレス製にできないの?」
という質問を受けることもありますが、残念ながらステンレスは自動車のブレーキローターには採用されることはありません。二輪車ではステンレス製もありますが。
車のブレーキローターに鋳鉄が採用される理由は、コスパがいいことと、ブレーキとしての性能も安定していることにあります。
一度だけカーボン製のブレーキローターを手に持ったことがありますが、うちわみたいに片手であおぐことができてびっくりしました。
ディスクの外周に錆ができるケースと対策
【ケースその1】
ディスクローターとディスクパッドは外周部分のギリギリまで触れているわけではなく、ほんの数ミリほどパッドが触れていません。
当然ですがディスクパッドが触れていない部分には錆が浮いてきて、ザラザラで茶色の錆がはっきりと見えるようになります。
この場合は、ディスクブレーキの構造上しかたのないことで、異常ではありませんが、大径でスポークが細いデザインのアルミホイールの場合は目立ってしまいます。
ローター研磨または交換
ディスクブレーキのメンテナンスとしては王道かもしれませんが、ブレーキローターの表面を専用の切削機で研磨することができます。
ただし、あまりも段付き摩耗がすすんでいる場合は、ローターは消耗品と割り切って交換してしまうことが望ましいです。
段付きができているブレーキローターでは、ローター表面が波打ったようにムラになっていて、ディスクパッドと均一に触れていないため、ブレーキング時に効きムラができます。
軽くブレーキを踏んだまま減速していると、ブレーキの効き方が一定の力にならないことがありますが、これはブレーキローターの表面が波打ったようになっていることが原因です。
こんな症状が見られる場合は、ブレーキローターの表面を研磨すると改善されます。
ブレーキローターの外周部分の錆が気になるという、外見からのアプローチでも、結果的にはブレーキのフィーリングが向上することになり、おすすめです。
ただし、ローターを外すという作業をするので、ブレーキまわりの分解点検をするのと同等の作業をするため、整備工場に依頼した場合はそれなりの作業料金がかかります。
【ケースその2】
ディスクパッドが触れているはずのブレーキローターの外側付近が錆びていることがあり、走行中やブレーキング時の異音の原因になることがあります。
これは軽自動車などに採用されている、比較的にコストがかかっていないソリッドタイプのブレーキローターによくある症状です。
ブレーキに関する重大なトラブルではなく、車検に合格できるだけの制動力を出すことはできますが、本来の性能を発揮できる状態ではありません。
意外にも、ローターがこんな状態になっていても車の持ち主さんはなんの違和感も持つことなく「ブレーキ?普通ですよ。」という方がほとんどです。
この場合は、ローター、パッドの交換に併せて、ブレーキキャリパーのオーバーホールもしておくことがおすすめです。
とはいえ、そこまでやるとかなりの出費になってしまいますが。
ブレーキディスク外周に錆ができる原因
↑ 古いディスクパッドとの当たりが悪い状態で
新品のディスクパッドと交換しても
外周部分の錆はそのまま消えないケースもあります。
この場合はディスクローターの研磨より交換がいいですね。
古いローターと新品パッドの相性が悪いケース
ディスクブレーキの場合、ブレーキローターよりもディスクパッドのほうが摩耗していきますので、車検などではディスクパッドだけを交換することが多いです。
とくに日本車の場合は、ディスクパッドだけがしっかりとすり減っているのにブレーキローターは綺麗なまま、という減り方をします。
それに対して、ベンツ、BMW、フォルクスワーゲン、アウディなどのドイツ車で多いのが、ブレーキローター側もかなり摩耗をしていることが多いです。
そのため、メルセデス・ベンツのディーラーでは、車検のメンテナンスではディスクパッドとブレーキローターはセットで交換することが多いです。
ディスクパッドがローター外周の段付きと密着していない
ディスクパッドを新品に交換した場合、ディスクパッド側は平らに整っていますが、ブレーキローターは古いままだと、ローター外周の段付きにパッドの外側が当たってしまうことがあります。
意外にも、ディスクパッドの接地面の面積は、商品によってっ違うことがあり、交換前のパッドよりも少しだけ大きいこともあります。
すると、新品のパッドに交換したことでローターの外周部分とパッドに隙間ができることになり、外周に沿って帯状の錆ができることがあります。
キャリパーの特性の場合もある
ディスクブレーキの構造にもいくつかの種類があり、軽自動車などのコストがかけられないような車種には、浮動タイプのキャリパーが採用されることが多いです。
この浮動タイプのキャリパーは、ピストンに油圧化がかかった際に斜めに力が作用することが多く、ブレーキディスクに帯状の錆や当たりムラができることが多いです。
とくに走行距離が多くなり、ブレーキキャリパーを上下で保持しているスライドピンにガタができると、さらにキャリパーがディスクに正対できなくなります。
そのため、過走行の車では、キャリパーとピストンを分解したオーバーホールだけでなく、スライドピンのガタの確認、交換をすることが望ましいです。
とくにスライドピンの上下で動きの滑らかさに差が出るとよけいにキャリパーが傾いたままでディスクパッドを押すことになり、ディスクパッドの片減りにもなります。
ブレーキパッドが斜めにすり減っているような場合は、
キャリパーのオーバーホールをしたほうがいいかもしれません。
こんな状態だと、ブレーキローターへの当たりも悪くなっています。
凍結防止剤が原因になることもある?
積雪地帯では降雪がある季節になると、山間部や橋の上など路面が凍結する場所に、凍結防止剤を散布します。
凍結防止剤の成分は塩化カルシウムなどの塩分が主成分であるため、車の足回りやブレーキ周りを錆びさせてしまいます。
とくにブレーキローターには錆びやすい鋳鉄が使われているため、ほかのパーツよりもはるかに早く錆による腐食が進んでいきます。
外周部分だけ腐食が進んでしまう
凍結防止剤が頻繁に散布される地域や海風にさらされるような場所では、ブレーキローターの外側のディスクパッドに触れない部分だけが腐食することがあります。
ディスクパッドが両サイドから挟んでいる部分は高熱になり、表面に付着した塩分も飛ばされていきます。
ところが塩分が付着したままになる外周部分はそのままローターを腐食させ続け、ローターの厚みが変わってしまうほどです。
一度こんな状態になってしまうと、ローターが腐食して薄くなった外周近くには帯状の錆が浮いたままになります。
ディスクパッドが触れている部分でも、その部分はローターの厚みが薄くなってしまっているので、錆が消えることもなく、つねに錆が浮いたままになります。
少し意外かもしれませんが、ディスクパッドが接触している面積が狭まっていてもそれなりの制動力も出せて、車検にも合格できることが多いです。
外周部分に帯状の錆ができるデメリット
帯状の錆ができてしまうと、そのブレーキキャリパーが本来出せる制動力を発揮することができなくなります。
強く踏み込めばそれなりに効いてしまう
運転手はそれと気づかずに普段よりも強めの踏力でブレーキペダルを踏み込むことで、低下したブレーキ性能を無意識に補っています。
ですが、その車の制動力を最大限に発揮したい緊急ブレーキなどではその差が出てしまいます。
ABSが作動するようなフルブレーキングをすることは、日常での運転では経験することはなく、ほとんどのユーザーさんはブレーキ性能の低下には気づかないでしょう。
ブレーキ周辺の異音の原因になる
ブレーキペダルを踏んでいない状態でもブレーキディスクから異音が出ることがあります。
とくに壁際やガードレール際を走っていると、音の反射でよく聞こえるのですが、
「シャッシャッシャッシャッ」
とか
「シャラシャラシャラ」
といった、
なにかが擦れるような異音がします。
まとめると・・
・ブレーキディスクの外周はディスクパッドが触れている部分でも錆びることがある
・外周部分に帯状の錆ができても制動力が大幅に落ちないことも多い
・救急ブレーキのときには制動力に差ができてしまうことがある
・錆が発生したままで放置すると異音の原因になることがある
ブレーキディスク外周の錆対策
凍結防止剤は早めに洗浄するのがおすすめ
ブレーキキャリパー周辺の動きを悪くしたり、ブレーキローターの腐食を進めてしまう原因となるのが路面凍結防止剤や融雪剤です。
可能な限り、高圧洗浄機などを使ってできるだけ早く洗い流すことが望ましいですが、ボイラー付きのお湯がでる洗浄機ならさらに洗い流しやすくなります。
できるばその都度洗浄することがいいので、家庭では水道水をホースを使って洗い流すだけでもかなり違ってきます。
ただし、走行直後のブレーキに水をかけないように!
ブレーキローターが急激な熱収縮のために歪んでしまいますので。
段付き摩耗がひどい場合は研磨より交換
輸入車ではローター交換はあたりまえ?
先述したように、ドイツ車ではブレーキパッドの交換ではセットでローターの交換が当たり前のように行われています。
確かに、車検などでブレーキの点検をしていると、ディスクパッドの摩耗とおなじくらいローターの摩耗もかなりひどいことがあります。
おそらく、ディスクパッドの材質をやや硬めのものを多く配合することで、ブレーキのフィーリングを向上させているのではないでしょうか。
ブレーキローターの研磨には使用限度となる目安があり、2ミリ以上の段付き摩耗があれば、研磨よりもローターの交換が望ましいです。
まとめ
ブレーキディスクの外周に錆が発生する原因
①浮動タイプのキャリパーの特性
②新しいディスクパッドと古いローターの当たりが悪い
③凍結防止剤の影響で外周の腐食が短期間で進んだ場合
④キャリパーのスライド部分にガタが発生しディスクパッドの当たりムラがある
この他にもさまざまな原因が考えられますが、とくに多いのがこれらの理由です。
予防策としては、
・ブレーキローターの研磨や交換
・ブレーキキャリパーの定期的なオーバーホール
・凍結防止剤を高圧洗浄機などで洗い流す
などの対策がおすすめです。
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