オイル漏れとエアコンの効きって関係あるの?
たまにお客様からこんな質問をいただくことがありますが、エアコンには専用のオイルが使われていることをまずはご説明します。
そのうえでエアコンのオイルが漏れている状態ではエアコンガスも漏れてしまっているということをお話すると納得いただけます。
今回はエンジンオイルの漏れではなく、エアコンのオイル漏れと、その後エアコンはどうなってしまうのかというお話です。
オイル漏れが原因でエアコンが効かない理由
カーエアコンだけではありませんが、エアコンの仕組みは家庭用も車も基本的には同じです。
冷媒となるフロンガスをコンプレッサーと呼ばれる部分でギュッと圧縮することで冷たい風を作るきっかけ(気化熱)を作っています。
そのコンプレッサーの中にはコンプレッサーオイルが入っていて、機械的な摩擦による内部の摩耗を抑えたり、圧縮ロスの低下を防いでいます。
では、コンプレッサーオイルが漏れることでエアコンが効かなくなる原因とはどういうことでしょうか。
じつは、オイル漏れではなく、コンプレッサーオイルと一緒に漏れ出したフロンガスの量が少なくなっていることが本当の原因なのです。
つまり、コンプレッサーオイルが足りないのではなくフロンガスが足りないことが原因で、コンプレッサーがいくら仕事をしても「気化熱」という冷房が効く状態を作れないのです。
コンプレッサーオイルが漏れるとどうなる?
それでは、コンプレッサーオイルが漏れていてもなにも問題はないのか?といえば、もちろんそんなことはありません。
少量が漏れているくらいではコンプレッサーが潤滑不良で焼き付いたりすることはありませんが、長期間にわたりオイルが漏れ続けると、いずれはコンプレッサー内部の焼付きや異音の原因になります。
とくに恐ろしいのは、完全にコンプレッサー内部が焼き付いた状態になることで、エアコンのスイッチをいれたとたん、エアコンベルトが滑り、大きな異音がすることがあります。
「コンプレッサーがロックした」などと整備士は言いますが、ホントに「がっちり」と動かなくなってしまうケースもあります。
原因は、エンジンの力でエアコンコンプレッサーは駆動されていますが、潤滑するためのオイルが不足している状態では、コンプレッサー内部が破損してしまいます。
コンプレッサー内部が焼き付いてしまうと、エンジンとコンプレッサーをつないでいるエアコンベルトが強制的に破損したままのコンプレッサーを駆動しようとします。
エンジン側のクランクプーリーがエアコンベルトを回し、エアコンベルトがコンプレッサーを強い力で回そうとするのでエアコンベルトが滑り大きな異音がします。
このとき、エアコンベルトにかかる負担は非常に大きく、ものすごく大きな異音とともに、ベルトが焼ける焦げ臭いニオイがします。
エアコンのオイルはどこから漏れる?
コンプレッサー本体からのオイル漏れ
エアコンのコンプレッサーはかなり頑丈に組まれていますが、非常に強い力を受けてフロンガスを圧縮しています。
すると回転部分の軸受にガタができたり、コンプレッサーのボディー全体にガタができることで密閉性が保たれなくなりオイル漏れが発生します。
コンデンサーからのオイル漏れ
コンプレッサーオイルが漏れ始める原因としてよくあるのが、コンデンサーと呼ばれる部分からの漏れです。
コンデンサーはバンパーのすぐ真後ろ付近にあり、走行風を受けることで圧縮されたフロンガスを冷却する役割を果たしています。
ところが、コンデンサーは車体の前側の低い位置にあり、走行中に小石などがぶつかり、コンデンサーに傷をつけることがあります。
その場合コンデンサーの下側に近い部分だと、コンプレッサーオイルも溜まっているため、傷がついた部分からオイル漏れをすることがあります。
また、非常に多いのが交通事故などでバンパー付近に大きな損傷受けるとコンデンサーに傷がつくことがあります。
そのため事故の後遺症で損傷を受けた部分からエアコンのオイルとともにフロンガスが漏れ始めることもあります。
もちろん追突事故が原因でガス漏れが発生することもよくありますが、飛び石などでコンデンサーにキズが入ると、そこからエアコンのガスが漏れ始めることもよくあります。
ホースとパイプのカシメ部分からのオイル漏れ
車の場合、エンジンの振動がつねにあるので、エアコンのコンプレッサーから伸びている配管の途中で、ホースになっています。
表面はゴムで、内部は丈夫な繊維などで何重構造にもなっていますが、このホースそのものの強度は問題ないです。
ところが、ゴムホースとパイプのつなぎ目になる部分を加締め機で加工している部分からガス漏れをすることがよくあります。
つまり、パイプ側にゴムホースを差し込んで、加締め機でギュッと圧着させてあるだけなので、何年もの使用により、ゴムホース側の劣化で隙間ができてしまうのです。
残念ながら、こうなったらその配管まわりを一式で交換するしかガス漏れを止めることはできません。
整備士はガス漏れをオイル漏れで探す?
カーエアコンに使用されるフロンガスは、配管などから漏れても、その痕跡は見つけられません。
そこで、ガス漏れ検知器を使ってガス漏れの箇所を探すこもありますが、もっともシンプルなガス漏れの発見の方法が、コンプレッサーオイルの付着で確認するやり方です。
コンプレッサーオイルは、フロンガスと一緒にエアコンのサイクルのなかをぐるぐると循環しています。
そのため、ガス漏れが多い場所からはコンプレッサーオイルも一緒に漏れていることが多く、そこに付着したままのコンプレッサーオイルを見つけるとガス漏れ診断の大きなヒントになるのです。
ただし、配管の継ぎ目からの僅かなガス漏れや比較的に高い位置にある低圧パイプなどからのガス漏れはオイルが付着していないので、ガス漏れ箇所として発見できないこともあります。
言い換えれば、コンプレッサーオイルが付着するようなガス漏れは、かなりひどい漏れ方をしているといえます。
エアコンのコンプレッサーが動かない原因
↑これは焼き付き寸前の状態のエアコンコンプレッサーですが、ものすごい異音がしていました。しばらくするとコンプレッサーが動かなくなり、エアコンもまったく効かなくなってしまいました。
フロンガスの量が減ると保護機能が働く
エアコンのフロンガスの量は多すぎても少なすぎても冷房の効きが悪くなるので、正常な状態なら、その車種に合った規定量のフロンガスが封入されています。
もしも、エアコンガスが極端に少ない状態で、コンプレッサーが作動すると、コンプレッサー内部が壊れる原因になります。
そこで、車のエアコンの場合、「圧力センサー」とか「圧力スイッチ」と呼ばれる、フロンガスの量を簡易的に判断するための仕組みがあります。
フロンガスが、なんらかのガス漏れをおこし、封入されている量が一定の基準を下回ると、圧力スイッチ内の回路を押しもどすことができなくなります。
すると、圧力スイッチに入った電源が、そこで遮断されたままになるため、エアコンの制御をしているコンピューターが「ガス量の不足」と判断します。
エアコンのコンプレッサーの動きを直接制御しているのが、マグネットクラッチと呼ばれる、コンプレッサーの前側にあるプーリー内の部品です。
これはどの車にも備わっている保護機能で、エアコンのガスが一定量少なくなってしまうと、そもそもコンプレッサーに電源が来なくなるようになっているのです。
エアコン不調の診断セオリー
整備士は、お客様から「エアコンの効きが悪い」と診断を依頼されると、まずは運転席からエアコン操作をして、マグネットクラッチがきちんと作動しているかを確認します。
もしもマグネットクラッチへの電源がきていない場合は「カチン」という作動音はせず、エンジンルームから直接見ても、マグネットクラッチは止まったままになっています。
この時点で、冷房が効かないのはコンプレッサーが動いていないから、という判断ができます。
つぎに、なぜコンプレッサーが動かないのかという、そもそもの原因を探すことになります。
僕の場合、エアコンガスを封入する低圧ポートのキャップを外し、マイナスドライバーで「ツンツン」とつつくことでガスが入っているのか簡易的に確認することもあります。
(この時点で結論が出ることも多々ありますが・・・)
正しいやりかたとしては、ゲージマニホールドと呼ばれる、エアコンのガスの圧力を測定する道具を車に接続して、エアコンのサイクル内のガスの量を簡易的に判断します。
ほとんどの場合、この時点でエアコンのガスの量が足りていないことがわかり、ユーザーさんには、高額なエアコンガス漏れ修理の診断、もしくはガスを補充してとりあえずその場をしのぐかの判断をあおぐことになります。
コンプレッサーオイルの漏れが確認された場合
車がある程度古くなってくると、エアコンの配管の途中のつなぎ目など、複数の箇所から少しづつガス漏れをしていることが多いです。
この場合は、コンプレッサーオイルも流出していないことが多く、たんなるガス不足ということになるので、ガス補充をすることでとりあえずエアコンが効くようになります。
ところが、上述したように、コンプレッサー本体や、コンデンサー、配管の加締め部分の継ぎ手から、コンプレッサーオイルが漏れている場合は、かなりのガス漏れがそこから起きていることになります。
コンプレッサーを保護するためにも、漏れたコンプレッサーオイルもガスと一緒に補充する必要があります。
そもそもの修理としては、ガス漏れをしている部分の部品交換なのですが、コスト的な理由や、「とりあえず今すぐエアコンが効くようにしてほしい」というお客様からの依頼が多く、結果的には応急処置としてフロンガスとコンプレッサーオイルの補充だけをするケースが多いです。
まとめ
エアコンのガスが特定の部分から短期間に漏れ出すと、一緒にエアコンのコンプレッサーオイルも漏れていることが多いです。
この場合、ガスの量が不足することで保護機能が働き、コンプレッサーは作動しなくなりエアコンの冷房は全く効かなくなります。
また、慢性的にこの状態のままでエアコンガス補充だけを行うと、コンプレッサーオイルが不足することで、コンプレッサーが焼き付く原因になります。
本来の修理としてはガス漏れをしている部分の部品交換と、その際に、抜け出たであろうコンプレッサーオイルの量を判断してガスとともに補充して上げる必要があります。
もしも、コンプレッサーが焼き付いている場合は、コンプレッサー内部から出た金属片などがエアコンのサイクル内部に循環してしまうことがあります。
この状態にまでなってしまうと、ただたんにコンプレッサーの交換だけでは済まなくなってしまいます。
ほとんどの場合は、エアコンのほぼすべての配管まわりや、主な構成部品を交換することになります。
コンプレッサー、コンデンサー、リキッドタンク、エバポレーター、エキスパンションバルブなどなど、軽自動車やコンパクトカークラスでも、ざっと20万円前後の修理になります。
もしもミニバンや大型のステーションワゴンのような「ツインエアコン」を採用している車種の場合は30万円以上の修理になるかもしれません。
エアコンの高額修理がきっかけで車の乗り換えに発展するケースもかなり多く、「エアコンが壊れ始めるころが乗り換えのタイミング」とお客様に説明する営業マンもいるくらいです。
この部分に関しては直接エアコンの修理もする整備士の僕も同じ意見です。
もしもエアコン周りからの激しい異音などで高額修理を提案されたなら、一度は車の買取査定をしてみてもいいでしょう。
海外ではエアコンが効かなくてもバリバリと現役で走っている車もありますし、日本とは気候の条件が違えば、エアコンの効きと車の価値とはあまり関係ない地域もあります。
海外への輸出に強い買取業者が参加するオークション代行サービスのユーカーパックがおすすめです。
【関連記事】オークション代行サービスとは?メリットやデメリットは?
最大8000社が参加するので、「エアコン不調」と査定士に判断されても高価買取になることもあります。
間違ってもディーラーさんに下取りに出したりしないようにしましょう。
ほとんどの場合は「エアコンが効かない車は廃車扱い」としか判断してくれませんので。
迷ったらまずはかんたん査定をして見ることをおすすめします。
コメント
MH23Sで
ガスの量は問題なく、A/CスイッチONでプシュー音がして、マグネットクラッチも回転しているのですが、エアコンの効きがよくありません。
どこを見たらよいでしょうか?
M様
コメントをありがとうございます。
>ガスの量は問題なく、
>A/CスイッチONでプシュー音がして、
>マグネットクラッチも回転しているのですが、
>エアコンの効きがよくありません。
↑ 僕ならこの状態でまずすることは、ゲージマニホールドを接続して
高圧側と低圧側のガス圧を確認します。
ガスの入れすぎや、コンデンサーファンの作動不良などで
高圧が異常に上がりすぎて保護回路が働いているかもしれませんね。
ときどきマグネットクラッチが切れたりしていないでしょうか?
それでも問題ないようでしたら、低圧側の圧力が高い状態かどうか確認してみてください。
4キロを超えるようでしたらエキスパンションバルブが開きすぎかもしれません。
HE22Sラパンです。
ACオンでエアコン吹き出し口からプシュー音
マグネットクラッチが入ってからは
エアコンコンプレッサーあたりから
ジー音が続きます。
ACを切るとジー音は止まります。
MT様
>ACオンでエアコン吹き出し口からプシュー音
↑ この部分に関しては経験がなく、なんとも言えません。
エバポレーターに付いているエキスパンションバルブかもしれません。
ためしに、エアコンフィルターを外した状態で
音を確認してみてください。
>マグネットクラッチが入ってからは
>エアコンコンプレッサーあたりから
>ジー音が続きます。
>ACを切るとジー音は止まります。
↑ これは、おそらくコンプレッサーの内部からの異音です。
この場合の原因として、HE22Sのラパンならガス漏れで、
コンプレッサーオイルも漏れて減っていることによる
コンプレッサーの潤滑不足ではないでしょうか。