エンジンは車にとって重要な部分ですが、その寿命はどれくらいでしょうか。
僕の整備工場でも、エンジンの調子が悪くなると
「もうこの車、寿命でしょうか?」
といった質問をされるユーザーさんもかなりいます。
とくに、走行距離が9万キロから10万キロになるあたりでこういった質問や相談をうけることが多いです。
今回は、エンジン単体にとっての9万キロという走行距離がどれくらいの傷み具合なのかについてお話していきます。
車のエンジン不調は9万キロ走行で起きやすい?
オイル交換をサボってきたエンジンの末路
まず、エンジンの傷み具合について考えるときにはずせないのが、それまでのメンテナンスの状況です。
とくに9万キロという走行距離では、オイル交換を定期的にしてきたのかどうかで、エンジンの状態はまるで違います。
人に例えると、
三十歳半ばの働き盛りと、体力的にかなり厳しい六十歳
それくらいの違いが出ています。
エンジンオイルを定期的にしてきたエンジンは、9万キロくらいなら「まだまだ働き盛り」だと、整備士の僕は考えています。
ところが、実際には車検などで車の点検をしていて
「ああ・・もったいない・・・」
とつぶやきたくなるような状態のエンジンも少なくありません。
エンジンのメンテナンスにどうしても欠かせないエンジンオイルの交換ですが、その寿命を延ばすのも縮めるのもエンジンオイルの状態に関係してきます。
<h4>一度もエンジンオイル交換をしたことがない!</h4>
実際に僕が整備士として経験したお話ですが、新車から初めての車検、つまり三年落ちの車の車検をしたとき、走行距離がわずか4万キロオーバーくらいの軽自動車が入庫しました。
エンジンオイルの量をレベルゲージで確認すると、レベルゲージの先端に少し付着するくらいの量で、レベルゲージの周辺にはドロドロのスラッジがベットリと。
車の周辺のどこを探してもエンジンオイル交換の履歴を表すステッカーなどがありません。
お客様ご本人に確認してみると
「オイル交換?そんなのしないとダメなんですか?」
という不思議そうなお返事でした。
どうやら三年間、四万キロ以上ものあいだ、エンジンオイルの交換を一度もしていないようでした。
そのときのエンジンの状態というと、エンジンがアイドリング状態でも「カチャカチャ」とやたらメカノイズの大きな状態でした。
エンジンルームには埃が積もっていて、誰も触ったことのないのが見て取れ、なにかが焦げたような臭いがしています。
おそらくエンジン内部は劣化したエンジンオイルが少量残っている状態のために、カムシャフトやクランクシャフトなどの、大きな力が加わる部分が異常摩耗しているのだとおもいます。
本来なら、エンジン内部がこんな状態になっているのは、まともなエンジンオイル交換のサイクルをまもっていれば、20万キロくらい走行していてもならないくらいです。
エンジンオイル交換の頻度がいかにエンジンの状態を維持するかが身に染みてわかったできごとでした。
ここで今回のお話のテーマである「9万キロ走行のエンジンの状態」に戻しましょう。
オイル交換を適切にしてきたエンジンの場合、9万キロくらいの走行距離だとまだまだ現役バリバリの状態だといえます。
オイルメンテ以外にも重要な要素
エンジンの寿命に関わる要素として、もう一つ大事なことがあり、それは次のようなことが関係してきます。
ざっと挙げただけでもエンジンに悪影響をあたえてしまう要素はたくさんあります。
当然ですが上述した条件が複数該当する場合などは、さらにエンジンの寿命を縮めてしまいます。
つまり、エンジンにどれくらいの負荷をかけてきたかどうか、言い換えるとどれくらいエンジンをいじめてきたのかでエンジンの状態はかなり変わってきます。
オーバーヒートをさせてしまったというのはさすがに論外ですが運転手の乗り方、扱い方でエンジンはもちろん、その他の重要な部分の傷み具合は違ってきます。
エンジン内部、走行0キロと9万キロの違い
それでは、ごく平均的な年間走行距離で、使用条件やメンテナンスも常識的なエンジンの場合、9万キロ走行だとどうなっているのでしょうか。
エンジン内部はほぼ問題なし
エンジン本体を構成する重要な部品といえば、エンジンブロック、シリンダーヘッドです。
エンジンを分割するとすれば、「腰下」などと呼ばれるシリンダーブロックが重量にして7割以上、上半分にあたるシリンダーヘッドが3割くらいになります。
さらにその内部や周辺に組み込まれている、ピストン、カムシャフトやクランクシャフトなどがあり、こまごまとしたパーツもあります。
とくに回転部分に相当するカムシャフトやクランクシャフトはエンジンの心臓部分になり、エンジンオイルで潤滑されています。
これらのパーツは非常に精密に、かつ上部に作られているので、エンジンオイルの管理やエンジンへの過度な負荷をさければ、9万キロくらいの走行ならほぼ問題なく機能しています。
シールなどのゴム部品からのオイル漏れ
エンジンオイルの管理をしっかりとやっていても9万キロくらいの走行距離になると、エンジン周辺からオイル漏れが発生することが多くなります。
オイル漏れの原因の殆どはエンジンの回転部分であるクランクシャフトのオイルシールからだったり、シリンダーヘッドのパッキンからなどの、ゴム部品の劣化によるものです。
オイル漏れの修理としては比較的に軽い作業なので、まだまだその車に乗りたいと考えている場合は早めに修理するほうがいいでしょう。
オイル漏れを放置していると、漏れたオイルが周りのゴム部品や樹脂のパーツを傷めてしまうことがあり、二次災害的に水漏れや異音の原因になってしまうことがあります。
補機類からの異音や不具合
10万キロ走行に近くなるということは、これまで整備することのなかった部分が不具合を起こすようになります。
すべての車がそうなるわけではありませんが、おもに回転部分に関係するパーツから異音やガタができることがあります。
たとえば、オルタネーター(発電機)からうなり音や甲高いモーターのような異音が発生することがあります。
また、エアコンのコンプレッサーやパワステのオイルポンプ、足回りではタイヤの付け根付近にあるハブベアリングから走行中に異音がすることも考えられます。
軽自動車の9万キロはおじいちゃん?
軽自動車は重い!
車のエンジンなら、どの車種でも耐久性は同じくらいでは?と思うかもしれませんが、整備士として様々な車の整備をしてくると、それは大きな間違いだと思い知らされます。
とくにエンジンとしての寿命が短いと感じるのが軽自動車です。
軽自動車のエンジンの排気量はご存知のように約660ccですが、自動車のなかでは最も排気量が小さな車にもかかわらず、車体重量は小型車と変わらない車種も多いです。
たとえば、1000ccクラスのマーチやヴィッツの車両重量が970kgほどですが、軽自動車のワゴンRの車両重量が800kgを超えるモデルがほとんどです。
ましてや軽ハイトワゴンのNBOXなら1000kgをゆうに超えていて、小型車よりも重いことになります。
660ccなのに高負荷を強いられるエンジン
上述したように、軽自動車はエンジンの排気量に対して、負担する重量が大きいことがわかります。
ですが、道路を走ればまわりの車と速度を合わせて走行しているため、660ccのエンジンはつねに高回転で高負荷をかけ続けていることになります。
たとえば、時速50kmで走行する場合、軽自動車ならエンジン回転を2500回転以上にキープしていますが、3000ccクラスの車なら2000回転以下でも余裕で走行できてしまいます。
非力な660ccのエンジンで周りの車と同等に走らなければならないため、そもそもトランスミッションのギア比は高回転よりに設計されています。
つねに頑張り続けている660ccのエンジンと、能力の三分の一も出していない大排気量のエンジン、どちらがエンジンとして短命なのか想像できますね。
余談ですが、僕が普段から軽自動車のお客様に普通車よりも早めのエンジンオイル交換をおすすめしている理由こそ、このエンジン負荷の違いなのです。
スパークプラグのメーカーも『プラグ交換は普通車は20,000kmごと、軽自動車は15,000ごと』と推奨していますね。
これまでいろんな車の整備をしてきて、やはりエンジンの寿命が短いのは軽自動車ですが、軽自動車のエンジンにとっての9万キロは人間でいえば60歳は超えているかも、と思うこともあります。
ただし、それまでのメンテナンスや扱い方(負荷のかけ方)で、働き盛りのエンジンのままで維持されているケースもあります。
ディーゼルエンジンの9万キロとは
高い圧縮比と耐久性の関係
最近は小排気量のターボモデルも増えてきましたが、ディーゼルエンジンは比較的に排気量が大きい車種が多いです。
もともとディーゼルエンジンは同等の排気量のガソリンエンジンにくらべてかなりパワー不足になりがちで、それを補うためにガソリン車よりも排気量が大きなエンジンを搭載することが多いです。
もともとディーゼルエンジンは圧縮比がガソリンエンジンよりも高く、ガソリンエンジンが11前後、ディーゼルエンジンが17~18ほどです。
そのため、ディーゼルエンジンは高い圧縮にも耐えられるようにピストンなどの可動部やもちろん、エンジンブロックやヘッド周りも肉厚で頑丈に設計されています。
さらに、ディーゼルエンジンはとの特性上、高回転にできないので低回転域でトルクを発生させるタイプよりに設計されます。
低回転で走行させるメリット
低回転域でもトルクを発生させることができるディーゼルエンジンはトランスミッションのギア比もそれに合わせた味付けになっています。
さきほとお話した軽自動車の、『小排気量でつねに高回転、高負荷』とは対象的に、ディーゼルエンジンだと『大きめの排気量で低回転域でつねに走行している』ということになります。
整備士をしていて「やっぱディーゼルエンジンは壊れないなぁ」と感じているのは僕だけではないはずです。
ちなみに、軽自動車にディーゼルエンジンを搭載するモデルは存在しません。
エンジンとして「重い」「非力」「コスト高」となり、小排気量な小型車とは相性が悪いのです。
ディーゼルエンジンでも保証期間は同じ
ディーゼルエンジンの耐久性がかなり高いと言う事はお分かりいただけたと思います。
ただし耐久性があるからとにかくお得なエンジンとは限りません。
なぜなら走行距離にして90,000キロほど走行した場合、メーカーの保証期間は5年または100,000キロなので、残り10,000キロほどでエンジンの保証も切れてしまうことになります。
また、エンジン本体は非常に頑丈に作られていたとしても、エアコンやパワーステアリングその他コンピューターやウォーターポンプなどなど、他のガソリンエンジンと共通の部分もたくさんあります。
仮にエンジンそのものが300,000キロほど走れるようなディーゼルエンジンだったとしても、他の補機類が50,000キロまたは100,000キロ位のスパンで壊れていく事は、ガソリンエンジンと変わりません。
総合的な車の維持費や修理費は、車全体の状態が問題なく機能してこそです。
まとめ
今回は、整備士目線で自動車のエンジンは九万キロ走行したらどれくらい傷んでいるのかというテーマでお話しました。
結局のところ、エンジンの排気量や搭載する車体の重量、ディーゼルエンジンとガソリンエンジンなど、いろんな要素があるため、一概に九万キロの状態について述べることはできません。
ただ、つねにエンジンに負荷をかけている軽自動車はエンジンの寿命も短命になることは確かです。
もしもマイカーを二台所有していて、どちらの車をさきに買い替えしようかとなったときには、走行距離だけでなく、今回のお話を参考にしていただけると幸いです。
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