車のタイヤは前側と後ろ側では摩耗スピードや減り方が違います。
フロントタイヤはハンドル操作もしますし、リアタイヤは後ろタイヤっぽい減り方をします。
そのままの状態で走行し続けているとタイヤの寿命は短くなってしまいますし、経済的でもありません。
今回は整備士としての立場から、タイヤのローテーションの必要性やそのタイミングについてのお話です。
とくに軽自動車やコンパクトカーに乗っている方には読んでほしいです。
タイヤローテーションの必要性とは
前輪駆動車(FF車)には必須の作業
前輪駆動車とは通称「FF」とも呼ばれる、前側のタイヤをエンジンやモーターの力で駆動する方式の車をいいます。
現在、国産車の中でも、軽自動車やコンパクトカークラスの車だと、軽トラックや軽箱バン以外の、ほとんどの車がこの前輪駆動車です。
もちろん、今人気があるハイトワゴンとかスライドドアのタントとかスペーシアとかNBoxとかも前輪駆動車です。
前輪駆動車と呼ばれるくらいですから、とうぜん前側の二本のタイヤだけで車が進めるように駆動力を路面に伝えているので、アクセルを踏むたびに前輪タイヤの摩耗が進んでいることになります。
前輪駆動車のタイヤへの負担が大きい理由はほかにもあり、それが、「前後のバランスの悪さ」に大きく関係してきます。
前輪駆動車は頭でっかち?
前輪駆動車は、車の前側にエンジンやミッション(オートマチック)などの、大きくて重いパーツが集まっています。
例えば、1000㎏の車だと、前輪側が650㎏で後ろ側が350kgくらいの前後に重量比です。
そのため、まったく同じサイズのタイヤでも、前輪タイヤと後輪タイヤではタイヤへの負担がかなり違い、止まっている状態ではこれくらいの比率ですが、実際に走行していると、ブレーキを踏んだときなどは、さらに前輪側に荷重がかかることになります。
もちろん、低速の状態でハンドルを据え切りしたときなども、前側が重い前輪駆動車の場合、パワーステアリングの力を借りながら、強引にグリグリとハンドルを切るので、これもタイヤへの負担になります。
つまり、前輪に重量物が集中する前輪駆動車は、
・重い前輪側に駆動力をかけるので効率よく駆動力をかけられるが前輪タイヤの摩耗が早い
・ブレーキング時の前輪への荷重移動が大きくタイヤへの負担が大きい
・低速時でのハンドルの据え切りをすることでタイヤが偏摩耗する
・コーナリング時の前輪の外側タイヤには偏った負担がかかる
これらの前輪タイヤへの負担が考えられるのです。
残念なタイヤの履きつぶし方とは
これは前輪駆動車だけに限ったことではありませんが、車検などで整備工場に入庫した車を点検していると、前輪タイヤと後輪タイヤが違う銘柄になっていることがあります。
つまり、いつかのタイミングで、タイヤを前輪だけの二本を交換しているのですが、言うまでもなく、タイヤのローテーションをせずにいると、ハンドル操作が多い街乗り仕様の車などはタイヤの外側だけがツルツルになってしまっているのです。
すると、近所のガソリンスタンドなどで、「前側のタイヤがもう限界ですよ」みたいに言われてしまい、仕方なく二本だけタイヤ交換をしちゃったというパターンです。
結局、こんな感じでタイヤを二本づつ交換するやり方をすると、古いタイヤを二本残すことになります。
タイヤはゴム製品ですので、時間の経過とともにすこしづつタイヤ全体が硬くなってしまい、本来のグリップ力や静粛性は失われています。
言い換えれば、タイヤは少しでも早く履きつぶすほうが、本来の性能のまま使うことができるのです。
タイヤのローテーションをせずに、偏摩耗をしてしまったタイヤだけ交換すると、交換しなかったほうのタイヤはどんどん古くなっていくので、性能が落ちたタイヤを「まだ使えるから」という理由で使うことになります。
タイヤのローテーションを定期的にしてあげると、タイヤが二本だけダメになることはなく、四本ともきれいに使い切った状態からタイヤを四本同時に交換するパターンにすることができるのです。
タイヤ空気圧の管理も超重要
前輪側にタイヤが偏摩耗してします原因はハンドル操作だけが原因ではなく、タイヤの空気圧が低いままだと、余計に偏摩耗が加速します。
しかも、ほとんどの車の場合、前側が重い構造なので、「ハンドル操作が多い」「空気圧が低い」「前側が重い」という悪条件が重なるのです。
つまり、タイヤのローテーションは大事ですが、それ以上にタイヤの空気圧のこまめな管理はもっと大事です。
後輪駆動車(FR車)のホイールアライメントは特殊?
前輪駆動車はタイヤのローテーションが非常に重要というお話をしてきましたが、それでは後輪駆動車はしなくてもいいの?というお話になります。
しかし、実際はそうでもなくて、たしかに後輪駆動車は「前後の重量比」という意味では前輪駆動車よりもバランスがいいですが、それでもハンドル操作による前輪タイヤへの負担はかなりあります。
また、後輪駆動車の後輪側はホイールアライメントの関係で、少し独特なタイヤの摩耗をすることが多いです。
後輪駆動車の場合、後ろ側にタイヤを駆動する関係で、濡れた路面などで駆動力をかけると、車体が簡単にスピンしてしまうようになっています。
その主な原因は
・後輪駆動車は駆動する後輪が比較的に軽い
・コーナリング中は後輪と路面の接地が不安定になりやすい
・ブレーキング時はさらに後輪への荷重が抜けてしまう
ほかにも複雑な要素がありますが、ざっくり言えばこれらの要素が大きく関係し、もしも滑りやすい路面状況で、ハンドル操作をしながらアクセルを踏み込むと、車体がスピンしやすくなり、危険なのです。
この状態を緩和するため、後輪駆動車の後輪のホイールアライメント(サイドスリップ)は、かなり「トーイン」な状態にチューニングしてあります。
トーインとは、簡単に言えば、タイヤがまっすぐ転がっていても、左右のタイヤは内側に向かっている状態をいいます。
余談ですが、ジムカーナなどの競技用にチューンしてある後輪駆動車の場合、この再度スリップを「トーアウト」にするという、かなり後輪が滑りやすい状態にすることもあります。
で、この後輪タイヤを安定させるためにサイドスリップをトーインにすることで、タイヤの外側が摩耗しやすくなっていて、さらにキャンバー角という、路面とタイヤが正対する角度を寝かせた状態にしていることで、後輪駆動車のタイヤは独特の摩耗の仕方をするのです。
ただし、ハイパワーなスポーツカーや高級車は前輪駆動のタイプが多いのですが、前後のタイヤのサイズが違うこともあるので、タイヤのローテーションをすることができない車種もあります。
結局、すべての車にローテーションは必要
結論から言うと、前輪駆動車でも後輪駆動車でも、タイヤの前後のローテーションは基本的に必要なメンテナンスといえます。
つまり前輪駆動車も後輪駆動車も、それから四輪駆動車もそれぞれのタイヤの役割があり、同じ位置のままでタイヤを使用し続けると、タイヤの寿命が短くなったり、段付き摩耗の原因になってしまいます。
また、まったく同じ車種でも街乗りがメインだったり、高速道路や遠距離の走行がメインだったりで、車の使用条件が違います。
そのため、タイヤの傷み具合や摩耗スピードも違うので、ローテーションをどのタイミングでするのかも違うケースがあります。
タイヤローテーションの時期やタイミングは?
一般的なタイヤローテーションのタイミング
タイヤのローテーションは5000㎞ごとに行うことが推奨されています。
【外部リンク】ブリジストン:タイヤローテーション
ただし、これは一般的なローテーションのタイミングであって、すべてのケースに当てはまるとは限りません。
その判断基準には、
・年間走行距離
・運転者のタイプ
・車の使用用途
などの要素を加味してもいいと考えています。
年間走行距離で判断する
たとえば、年間の走行距離が20,000㎞も走行する場合でも、あまりタイヤに負担をかけないような定速走行が多い場合だと、5000㎞くらいの走行では、それほど前後のタイヤの摩耗に大きな差がでないことがあります。
とくにプロの宅配業者やタクシーの場合だと、いたずらに車に負担をかけないような運転をする場合は、その分タイヤにも負担をかけていません。
僕自身もタクシーの整備をすることがありますが、タイヤのすり減り具合を見るとその運転手さんがどんな運転をしているかわかるときがあります。
もちろんベテランの運転手さんは自分専用の車を大事にしますので、タイヤもきれいな摩り減り方になります。
運転手のタイプで判断する
さきほどのプロドライバーのお話とは対極に、一般ドライバーさんのなかには、かなり雑な運転をする方もいます。
これまたタイヤの摩耗のしかたを見るとわかるときがあり、こんな場合はタイヤのローテーションはきっちりと5000㎞ごとに実施するほうがいいでしょう。
もちろんですが、タイヤのローテーションと空気圧の調整は必ずセットでするべきで、車種によっては、前後のタイヤのサイズは同じでも、指定するタイヤの空気圧が違うこともあります。
車の使用用途で判断する
車の使用用途とは、言い換えれば、車にどれくらいの負担をかける走行条件かといえます。
たとえば、牛乳配達に使っている軽自動車だとすると、かなりの重量となる牛乳をどっさりと乗せて、短い距離を走ったり止まったりを繰り返しています。
当然ですが、ブレーキを踏む頻度も多く、住宅街に入り込んだ場所を何度もグルグルと走行することで、ハンドルの据え切りが多くなります。
当然、こんな使用条件の車の前輪タイヤは極端にショルダー部分が片べりしています。
また、トラックやワンボックスタイプの車のなかには、限界ぎりぎりまでの重量物を常に積載していることもあります。
この場合はリアタイヤへの負担がかなり大きく、タイヤの偏摩耗になることもあるので、タイヤローテーションは早めにするほうがいいです。
具体的には、目視でタイヤを観察することが望ましいのですが、タイヤの空気圧を高めにキープしながら3000㎞~5000㎞未満のタイミングでローテーションをするといいでしょう。
タイヤローテーションはどこでする?
軽自動車も含めた乗用車の場合
国産の乗用車なら、ガソリンスタンドやカー用品店など、手軽に依頼できるお店に依頼でもいいでしょう。
基本的にタイヤのローテーションには高い整備スキルなどは必要ありませんので、予約が必要とか料金が高めなディーラーよりもおすすめです。
「ひと味違う」タイヤローテーションとは?
タイヤのローテーションを依頼されていざタイヤを外そうとすると、なにか違和感を感じることがあります。
タイヤのショルダー部分が片方だけやたらすり減っていることがあり、「おかしいな?」と感じてタイヤの空気圧を点検してみるとパンクしていた、なんてこともありました。
また、片側だけ前側のタイヤが偏摩耗しているので、ロアアームを見てみるとわりと最近に、脱輪や事故をしたように見受けられるというケース。
お客様に聞いてみると、「そうそう、ウチの嫁がね、車を脱輪してJAFに救出してもらったよ」みたいなこともあります。
こんな状態ではタイヤのローテーションよりもホイールアライメントのチェックを先にして、異状を見つけるほうが大事なこともあります。
これらのような、プラスアルファのなにかを期待するなら、ガソリンスタンドよりも、足回りにうるさいタイヤショップやホイールアライメントテスターを持っているようなチューニングショップに依頼するのもいいかもしれません。
まとめ
たかがタイヤローテーション、されどタイヤローテーション
タイヤを前後で入れ替えるだけがタイヤローテーションの基本です。
たすき掛けのように左右と前後を入れ替えてみたり、空気圧を前後で調整することでちょっとしたチューニングのようにしてみたりすることもできます。
間違いなく言えることは、タイヤに気を配ることは、安全と節約に直結していると言えます。
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