車検ではさまざまな点検をしていきますが、その中でも重要となってくるのがブレーキの点検です。
車の「走る」「曲がる」「止まる」のなかでもとくに大事なことは、止まることですよね。
今回は、車検ではどんなブレーキのメンテナンスをしているのか、
また、ブレーキの検査ってどんな内容なのか、
そして、ブレーキに関することで「車検に落ちる」ってどういうことなのかをお話していきます。
車検でのブレーキメンテナンスは整備工場でも違ってくる
年間に何百台と車検を担当する僕にとって、ブレーキの点検やメンテナンスは毎日当たり前にやっている業務です。
車のブレーキは意外とシンプルというか、それほど進化するのが早くないので、メンテナンスの内容もあまり変わってきていません。
基本的にはブレーキフルードの抜き替えくらい?
まず車検で基本的なメンテナンスといえば「ブレーキフルードの抜き替え」です。
これはディーラーでも町工場でもカー用品店でも必ずといっていいほど見積書にも入ってきますし、
「車検なんでブレーキフルードはぜひ」
なんて、よくわからないけど力説されることも多いでしょう。
別の記事でも書かせてもらったのですが、ブレーキフルードは当たり前に交換してますね。
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ですが、それ以外のブレーキへのメンテナンスって、結構やることがないというか、整備工場でも違うのです。
基本的にはタイヤを外してブレーキの消耗を確認しますが、これは法定点検なので必ずやらないといけません。
あとはサイドブレーキの引きしろが、後ろ側のドラムブレーキで決まるので、調整するくらいですね。
ですが、そのあとにするメンテナンスは結構消極的な整備工場も多いですね。
ブレーキのオーバーホールは車検ではやらないかも
オーバーホールという言葉は車検なんかの見積もりでも出てくると思います。
ブレーキの場合のオーバーホールは、簡単に言いますと二種類あります。
まずディスクブレーキの場合だと、キャリパーという部分を車から外して内部の分解をし、シールというゴムの部品を交換します。
もちろん内部の目視での点検や清掃もしっかりやります。
この作業をすることで、ブレーキキャリパーの動きが悪くなることを防ぐことができます。つまり「予防的な整備」と言えます。
小型車や軽自動車では今でも後ろ側のブレーキに採用されているのがドラムブレーキです。
ドラムブレーキはディスクブレーキよりも構造は複雑ですが、メンテナンスといえば、ブレーキフルードの油圧を受けているホイールシリンダーという部分のオーバーホールくらいでしょうか。
ですが、この作業もやらないとすぐさまブレーキがきかなくなるわけではないので、前側のキャリパーオーバーホールと同じく「予防的な整備」と言えます。
結局は、ブレーキの構成部品の精度や耐久性がものすごく上がってきているおかげで、メンテナンスはあまりやらなくても問題ないのです。
とくに年間走行が10,000㎞未満のファミリーカーなんかだと、ブレーキフルードだけ交換しておしまい、というプランを選択する方がほとんどです。
メンテナンスも大事だけど、なるべく車検にかかる費用を抑えたいという要望が多く、僕たち整備士も安全性を気にしつつそれにお応えする感じです。
車検でのブレーキ検査ってなにをするの?
ブレーキへの検査は大きく分けてふたつ、「目視による点検」と「検査機器での測定」です。
かなり重要な目視などでの点検と検査
まずは車を軽く試運転しますが、その時に異音や振動などがないかをチェックします。
ディスクブレーキのローターという円盤のようなものがありますが、これが熱で歪んでいると、ブレーキを踏んだ時に制動力が均等にならないので、ブレーキペダルに違和感を感じる時があります。
ベテランの整備士ならその段階でブレーキのトラブルを予測してみつけるときもあります。
次にサイドブレーキの引きしろを確認して異常がないか、調整が必要かなどをチェックしています。
あとはタイヤホイールを外してブレーキを目視でチェックしていきます。確認しづらいときは部分的に分解もしていきます。
ここで大事なのが、目視でのチェックなのですが、ブレーキフルードが漏れ出しているところはないか、
ブレーキホースやブレーキパイプなどの配管類に損傷や取り回しがおかしなところがないかなども見ていきます。
経験豊富な整備士になるほど、過去の経験も加味しながら、車種や使用用途などでのトラブルの傾向から探っていきます。
たとえば、ブレーキパッドの左右の減り具合が均等でないときは「あれ?片側が固着してる?」といった具合です。
よくあるのが後ろのドラムブレーキの内部が焼けているケースです。
これは別の記事で書いてますが、サイドブレーキを引いたままで走ってしまったケースだと、ブレーキの近くで焦げた臭いがしたり、ブレーキの削れカスが異常に多かったりするので気が付きます。
もちろん状態に応じて整備の見積もりや報告もしていきます。
検査機器でブレーキの制動力を検査
検査ラインというエリアが民間車検場の中にも必ずあります。
陸運支局や軽自動車協会にユーザー車検で持ち込むときにももちろん検査ラインで測定しています。
同じようにディーラーや町工場でも、陸運局からの指定を受けている指定工場では国に代わってこの検査をやらないといけません。
この検査ラインでブレーキのテストもしていきます。
ざっくりと説明すると、ブレーキの力、「制動力」を主に測定していきます。
ほかにもブレーキペダルを離している状態できちんとブレーキが解除できているかの「引きずり試験」や、左右のブレーキの効き具合の差をテストしています。
最後にサイドブレーキがちゃんと作動しているのかのテストをして終わりです。
ちなみにですが、サイドブレーキって、車の総重量の20%の力が出ないと車検には合格できません。
総重量とは「最も重い状態」ともいえますが、5人乗りの車なら、人が5人乗った状態での重量をいいます。(一人当たりを「55㎏」で換算します)
車検でブレーキの検査に落ちるとは?
今回はユーザー車検でのお話ではなく、ディーラーや陸運局指定工場での車検についてフォーカスしています。
ブレーキに関することで車検に合格しないこととは、主に「ブレーキの性能が十分でない」ということになります。
簡単に制動力の合格ラインを説明すると、
「制動力の合計が車体総重量の50%以上の力が出ないといけない」
ということになります。
たとえば、総重量が1,000kgの車だと、前輪と後輪のブレーキの力の合計が500㎏以上ないと合格しないことになります。
車検でよくあるブレーキのトラブル
検査ラインという車の状態を測定する検査機器で、どうしてもブレーキの力(制動力)が足りないときがあります。
目視でも見つけられないこともありますので、こんなこともまれにあります。
もう一度ピットにてブレーキを調べてみると、ブレーキの内部でピストンがさび付いていてブレーキがきかなかったりしたこともあります。
車検の時のブレーキのトラブルでもっとも多いのはこういった、比較的に古い車のブレーキ周りの老朽化が多いです。
また、ブレーキ自体はしっかりと制動力が出ていても左右で全く違う数値が出てしまうとこれもダメです。
これもたいていはブレーキの固着などのトラブルが多いです。
サイドブレーキがきかない!というトラブル
これも古い車にあることなのですが、「駐車ブレーキ」いわゆるサイドブレーキが合格ラインの数値に足りないこともあります。
かなり多いのは、サイドブレーキの専用のワイヤーがさび付いていたり、内部で切れていたりというトラブルです。
サイドブレーキの場合は走行中に使うことはないので、左右差があっても車検には問題ないです。
極端な話ですと、片側のサイドブレーキが完全に動かない状態でも、もう片方で総重量の20%の制動力が出れば問題ないのです。たいていは足りませんけど。
まとめ
ブレーキ周りで車検に合格しない状態というのは非常に危険な状態だといえます。
意外かもしれませんが、ユーザー車検では合格できても、指定工場での分解点検をともなう車検では合格しないなんてこともあります。
分解して初めて判明する、ピストン周りからのブレーキフルードの漏れや、ディスクパッドやブレーキライニングの消耗。これらはタイヤを外したりドラムを外してしか確認できないことです。
担当する整備士から「危険ですので車検に合格できません」などと言われた場合はそのまま修理の依頼をすることになります。
ユーザー車検のようにその瞬間だけ正常にブレーキが作動した状態なら車検に合格できた場合のほうが、結果的に安くすむわけです。
ですが、「得した」なんて喜んでいる場合ではありませんよね。
車検ではブレーキの点検が非常に大事ですので、ぜひ整備工場に任せてくださいね。
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