ディスクブレーキを構成する大事なパーツとして、円盤状のブレーキディスクがあります。
整備士たちは「ディスクローター」と呼ぶことが多いのですが、
じつはこのディスクローター、意外とトラブルの原因になることがあります。
とくに多いのがブレーキを踏んだときの「異音」と「振動」です。
その原因となるのがディスクローターの偏摩耗なのですが、
そもそもどうしてブレーキのディスクローターが均等に摩耗しないのかというお話です。
ブレーキキャリパーが原因?
片押しのワンポットキャリパーのデメリット?
↑ 片押しキャリパーは手前のディスクパッドが減りにくい
ブレーキキャリパーには様々なタイプがあります。
まず軽自動車やコンパクトカーに多いのが片押しタイプと言われるキャリパーです。
片押しタイプのキャリパーとは、「片持ち」や「浮動タイプ」「フローティングタイプ」「スライド式」などとも呼ばれています。
このタイプのブレーキキャリパーはコスト的に割安に作れ、なおかつコンパクトにできるのが特徴です。
この片押しタイプのキャリパーは、ディスクパッドがディスクローターに均等に当たらない症状が起きやすいです。
もともと、ピストンが片側にしかないため、ブレーキの効き始めではピストン側のディスクパッドがまずディスクローターに当たり、そのあと外側のディスクパッドがローターにあたります。
そのため、ブレーキパッドの減りはピストン側が早く少し摩耗していくという特性があります。
↑ 余談ですが、ディスクパッドの摩耗限界を知らせる「センサー」はピストン側のディスクパッドにあります。
このセンサーがディスクに当たるとキーキーと嫌な音がする仕組みです。
ブレーキを効かせたときにピストン側と外側のディスクパッドの当たり方にムラがあります。
またタイヤの進行方向側と後ろ側でディスクパッドのすり減り方も違うことが多いです。
そのためブレーキパッドが斜めにすり減るような摩耗の仕方をすることが多いです。
さらに、ディスクローターの内側と外側でブレーキパッドの当たり方が違うこともあります。
これらのことを加味すると、どうやらブレーキパッドの当たり方がディスクローターの摩耗の仕方に大きく影響しているようです。
片押しタイプのディスクブレーキは、浮動型と呼ばれますが、ようするにピストン側が固定されていないため、スライド部分のピンのクリアランスだけ「ガタ」があります。
すると、ピストンはグラグラといろんな角度にほんの少しだけ位置がずれることがあり、これがディスクパッドを均等に押し付けることの妨げになってしまうのです。
ブレーキパッドが均等に減らないとどうなる?
↑ ピストン側のセンサーがすり減りだしても反対側は少し余裕がある
また、外側のブレーキパッドのセットの仕方もキャリパーによって違っていて、ある特定のキャリパーは、とくに外側と内側のブレーキパッドの減り方にバラつきがあります。
ということは、ディスクパッドがディスクローターに押し付けられる強さも内側と外側で違いがあることになります。それは、ディスクローターの表面の温度にも違いが出てしまうことになります。
基本的に、金属は部分的な温度のムラができることでゆがんだり、反ったりすることが起きやすいです。
特に軽自動車で多いのがディスクローターの外周部分だけ錆びてしまっているケースです。
当然ディスクパッドが触っているはずの部分が錆びていると言う事は、ほとんどディスクパッドがその部分に触っていないと言うことです。
という事はディスクローターの一定の面積はほとんど役に立っていないと言うことになります。
さらにこの状態ですとブレーキの効きは甘くなる上に、ブレーキを踏んだときにディスクローターから異音が発生することもあります。
また中速域から高速域の場合、ブレーキを踏んだ瞬間にハンドルが左右にガタガタと振れるような不具合を発生することもあります。
この場合できる事としては、ディスクローターを新品に交換してしまうか、もしくは「ローター研磨」と呼ばれる、ディスクローターの表面を切削することで新品に近い状態に戻すことができます。
急激な温度変化でディスクローターが歪むことも
ディスクローターは、非常に高温になることがありますが、ドラムブレーキと違って外側にむき出しになっていることで、効率よく冷却されています。
一般的な自動車のディスクローターは「鋳鉄」と呼ばれる材質で作られています。
鋳鉄は粘りのある金属で、ブレーキとしてのコントロール性がよく、効き具合も安定していてブレーキ鳴きも少ないのが特徴です。
(※この場合の鋳鉄とは「ねずみ鋳鉄」「普通鋳鉄」を指します。)
デメリットは他の材質よりも柔らかいので、ディスクパッドの種類によっては表面が荒れやすいことです。
また、急激な温度変化で歪みやすいという特徴もあります。
急激な温度変化が起きやすいのは、一般車両で多いのが雨天時などでディスクローターに水分が付着する場合です。
たとえば、ブレーキを多用して、そこそこブレーキディスクの周辺が高温になっているときに、水たまりの中を通過した場合、高温になっているディスクローターに水がかかってしまいます。
高温になっている鋳鉄製のディスクローターを急激に、しかもムラになるような冷やし方をすることで、ディスクローターが部分的に急激な熱収縮をしてしまいます。
こういった、「部分的な熱収縮」が繰り返されることで、ディスクローターの表面は少しづつ歪んでいくのです。
↑ 目視で見ると平たく見えるローターも実際は表面が波打っている
とくに上述のような水たまりで急激にローターが冷やされる場合などは非常にディスクローターによくないことです。
余談ですが、僕の経験したなかで、こんな話があります。
とあるガソリンスタンドの店長さんが、毎朝自分の車を洗車機にかけていました。
その方の車は、とにかくブレーキを踏んだ時の効きムラがすごく、ディスクローターを新品に交換してもすぐに同じような症状になってしまいます。
原因は、朝に出勤してすぐのブレーキが高温になったままの状態で、車を洗車機にかけていたことです。
大量の水がブレーキにもかかってしまうことで、ディスクローターの歪みを急激に進行させていたのでしょう。
偏摩耗したディスクローターが起こす症状
トラブルはディスク側が多い?
ディスクブレーキを構成している主要なパーツといえば「ディスク」と「パッド」です。
シンプルであるがゆえにトラブルの原因も、この二つのどちらかであることが多いです。
とくにディスクローターはディスクパッドよりも柔らかいので、変形したり歪んだりすることが多いので、ブレーキの効きムラやハンドルへの振動などの原因になります。
ブレーキのキックバックとは
ディスクブレーキの不具合でけっこう多いのがキックバックと呼ばれる症状です。
ブレーキペダルを踏み込んでいくと、ディスクローターの表面の歪みがディスクパッドを押し戻すことがあります。つまりディスクローターの表面に緩やかな「山」と「谷」があるわけです。
すると、同じ強さでブレーキペダルと踏んでいるのに、ブレーキペダルに「グッグッグッ」みたいな感じの反動を感じることがあります。
このような足に返ってくるような症状をキックバックといいます。
他にもABSが作動した時も、細かい振動のようなキックバックがありますが、これは故障ではありません。
高速域でのブレーキングでハンドルがブレる
ディスクローターのトラブルは主にフロント側に起きることが多いです。やはりブレーキのメインはフロント側(前側)ですので、そのぶん負担もフロント側に偏りがちです。
しかもフロントブレーキのすぐ近くにはステアリング機構がありますので、ブレーキの不具合がハンドル操作に影響することもあります。
低速域ではあまり顕著な症状は感じられませんが、高速道路などで強めのブレーキを踏むと、ディスクローターの表面にできた凹凸やゆがみが原因でハンドル悪影響をおよぼすこともあるのです。
とくに多いのが、ブレーキングをした瞬間、ハンドルが左右に「ガタガタ」と揺れる症状です。
高速域でブレーキを強めに踏むとかなり顕著に表れるので、
「あれ、ホイールバランスかな?」
と感じることもありますが、ホイールバランスの場合はブレーキは関係なく、特定の速度域だけでタイヤが振動するようなケースがほとんどです。
最後に・・・
ディスクローターの不具合は意外と多いのですが、車検でも詳しく点検することもあまりありません。車検では制動力(ブレーキの効きの強さ)と左右の差がなければ合格します。
ただ、日本車ではあまりピンとこないかもしれませんが、ディスクローターをディスクパッドとセットで交換することはよくあることです。
とくにドイツ車のベンツやBMWなどは正規ディーラーで車検を受けると、わりと普通にディスクローターとパッドをセットで交換されることもあります。
かなりお金はかかってしまいますが、ブレーキのフィーリングが非常によくなって返ってくるようです。
ブレーキを踏んで違和感を感じたら、整備工場に相談してみて、走行距離が伸びている車両ならブレーキ周りのリフレッシュをしてみるのもいいでしょう。
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