今回はスズキのキャリィトラック(DA63T)のエアコン修理の診断と作業記録です。
エアコンが突然効かなくなり、その後はまったく冷えない状態ということで相談を受けました。
結果的にはマグネットクラッチの交換をして問題解決ですが、そもそもなぜマグネットクラッチがダメになったのかも気になるところです。
以上の3点についてお話していきます。
DA63Tキャリィ|エアコンが効かない|診断の振り返り
↑ 今回のトラブルは定番のリレーではなく診断には少し手間取りました。
「クーラーが昨日から効かない」との相談
お仕事でキャリィトラックを使われているお客様からの相談でエアコンの診断をすることになりました。
前日にいきなりエアコンが効かなくなり、8月の末とはいえ残暑が厳しいなか、「外にいるほうが涼しいくらい」とのこと。
冷房が効かないというのはこの季節は熱中症になる恐れもあり、建築関係のお仕事をする方は軽トラックのなかで休憩するかたも多いです。
代車をお貸しして診断をしようとしますが、「今すぐ調べてくれ」とのこと。
どうやら修理費と車の乗り換えで結論を急ぎたいようだったのでそのまま初期診断をすることになりました。
エアコン修理が高額になると車を乗り換えしてしまうお客様もいます。お仕事に使う車ならなおさらですね。
ACのボタンを押すと光るものの・・
エアコンが冷えないという場合の初期診断は、「全く冷えない」なのか「少し冷える」なのかを確認します。
昨日まで冷えていたのに今は全く冷えない場合はガス不足の可能性は低く、エアコン制御の回路に問題があることが多いです。
エアコンのコンプレッサーを作動させるために送風のツマミを操作してACのボタンもオンにします。
ACボタンが光りますが、マグネットクラッチが作動する「カチン」という音はしていません。
風はでるものの冷房として冷えていないことがわかり、次の段階に入ります。
アイドルアップもきいている
ACのボタンを押すとエンジンの回転が少し上がり、コンプレッサーからの負荷を相殺するためのアイドルアップもできています。
その時点でACのボタンやコントロールパネルに問題はないと仮定し、マグネットクラッチが作動しない原因を調べます。
配線図がないときは「消去法」で診断
お客様からの「今すぐ原因を調べてほしい」という要望にお答えするには、配線図などの資料を取り寄せる時間はありません。
とはいえ、消去法である程度の絞り込みはできるので、よほど複雑な不具合でなければエアコン不調の原因にはいくつかのパターンがあります。
まずはガスが足りていないかの確認
ゲージマニホールドを低圧側に接続、クーラーガスは入っていることが確認できたのでガス不足でクラッチが入らないわけではないようです。
たまにプレッシャスイッチがだめになってクラッチが入らないこともありますが、その場合はそもそもACのボタンも光らないしACボタンを押してもアイドルアップはしません。
「プレッシャースイッチは多分大丈夫。」という前提で別の部分を調べていきます。
お客様がすぐ横に立って凝視しているとちょっと緊張します。
マグネットクラッチリレーが作動しない
ガスは入っている、操作パネルの不良もなさそう、マグネットクラッチリレーは入っていない、ということなのでリレー単体は悪くないと感じました。
クラッチリレーが入らないならアイドルアップするのはおかしい・・・?という予想。
でも電動ファンは入っているから、やっぱアイドルアップはする??
リレー自体は問題なし
リレー単体のチェックができれば結論がでるかもしれないと思い、別のリレーと差し替えてみることに。
はたしてマグネットクラッチが作動する気配もなく、沈黙しています。
リレーがダメなら電源か?
マグネットクラッチリレーが作動しないなら、リレーまで電源が来ていないのかも、と思うようになり、リレーボックスのヒューズをしらべてみます。
20Aのヒューズが飛んでいた
エンジンルーム左側のヒューズボックスの中にはマグネットクラッチリレーや電動ファンリレーと一緒にこれらの電源の上流となるヒューズもあります。
20Aの黄色いヒューズを引き抜いてみるとヒューズは溶断していましたが、よくみるとギリギリの過電流で溶断したような部分的な飛び方でした。
もしかしたらヒューズ自体の疲労なのかも、と淡い期待を寄せながらヒューズを新品に交換してみます。
エアコンスイッチをオンにするとマグネットクラッチも「カチン」と入り、無事にエアコンも冷え始め、近くで見ていたお客様も「おおっエアコンが効きだした!」と大喜びです。
普通、ヒューズは飛ばない
「いやー、ヒューズ1個の交換ってよかった~」と、そのまま車に乗り込んで帰りそうな勢いですが、『ヒューズが飛んだ原因を探さないと意味がない』と説明し、数分間様子をみます。
3分のしないうちに突然マグネットクラッチが切れ、エアコンはもとのように送風だけの状態に戻りました。
僕も内心では(だよね~)と、自分の願望的推測を少し恥じながらも、診断としてはほぼ絞り込めたという感じです。
コイルの電源をカットすると・・
ためしにエアコンコンプレッサーの前側にくっついているマグネットクラッチの結線カプラーを引き抜いた状態で新品のヒューズを再度差し込みエアコンをオンにします。
案の定、ヒューズは・・・飛びません。
マグネットクラッチのカプラーを差し込んでみます。
やや重々しくもコンプレッサーが入りエアコンが効き始め、1分もしないうちにヒューズが飛んでしまいました。
(ありゃ?さらに早いタイミングでヒューズが切れるようになったぞ・・?)
と思いつつ、エンジンルーム内の温度が上昇すればショートしている部分の電気抵抗もさらに低くなるのでより大きな過電流が流れるのだろうとと考えていました。
ヒューズがゆっくりと飛ぶ原因
20A(アンペア)という大きめの容量のヒューズが飛んでしまうということは、かなり大きめの過電流ということになりますが、少し時間をおいて「ゆっくり切れる」のがミソです。
マグネットクラッチの奥にあるコイルに電源がオンされると電磁石となり、磁力を発生します。
エンジン側とエアコンベルトで繋がっているプーリーと、コンプレッサー側と繋がっているアーマチュアが電磁力でくっつくことでコンプレッサーが作動します。
かなりの磁力を発生させるのでコイルに流れる電流もそれなりに高く、ヒューズも20Aという容量の大きめのものになっています。
コイルの内部でショートが起きている
コイルは銅線をぐるぐると巻いている状態に電流を流すと磁力を発生する仕組みですが、本来とは違う経路で電流が流れると抵抗値も低くなりヒューズが飛んでしまいます。
一体型になっているうえに、マグネットクラッチを外さないと外観を見ることもできませんが、コイルの内部ショートで間違いないという結論になりました。
念のためにエンジンを止めて、手でコンプレッサーのアーマチュアのところを手で回してみましたが、コンプレッサーがロック寸前まで重くなっている感じではなかったのでコイル単体の不良と断定。
あとで反省したのですが、このときにマグネットクラッチのコイルの抵抗値を知っていれば良かったです。
↑ 不良品のコイルの抵抗値
↑ 新品のコイルの抵抗値。抵抗が高いのでヒューズも飛ばないのです。
ここまでのまとめ
マグネットクラッチのコイルが不良でヒューズが飛んでいたことが原因でコンプレッサーが作動していませんでした。
その場で初期診断を行うため、得意の(?)消去法で異常箇所を絞り込んでいったので、診断の手順をあとで振り返ってみるとタイムロスしている部分もありました。
資料なし、手探りのトラブルシュート
ACのボタンを入れると光り、アイドルアップがなされている
↓
圧力スイッチはオンのまま(たぶん)
↓
ガスの量は問題なし(たぶん)
↓
クラッチリレーを隣のリレーと交換してみるが電源入らず
↓
クラッチリレーは問題ない
↓
ヒューズボックスのクラッチへのヒューズが飛んでいる
↓
疲労したような飛び方だったので試しに交換してみる
↓
エアコンが冷えるようになる
↓
数分後にヒューズが飛ぶ
↓
「コイルっぽい・・・?」
↓
コイルの電源カプラーを抜いてみる
↓
ヒューズ飛ばなくなった
↓
コンプレッサーのアーマチュアを手で回してみる
↓
問題なく適度な重みでスムーズに回転する
↓
コンプレッサー内部に大きな負荷や機械ロスはなし
↓
「コイルか~」(ゴール)
時間にして10分に満たない診断でしたが、診断に強い整備士さんたちから突っ込みを受けそうな診断の進め方でしたww
DA63Tはマグネットクラッチ単体交換が可能
スズキのエブリィ、エブリイバン、キャリーは形状が多少違うものの、同じプラットフォームで作られている兄弟車です。
貨物車なのか乗用ワゴンなのか、用途によって装備も違いますし、電装品やそれにともなう部品構成も変わってきます。
エブリイバンやキャリーに関しては貨物ベースなのでエアコンのコンプレッサーの容量も乗用のエブリィワゴンとは違うようで、マグネットクラッチ単体の部品供給があるようです。
「金がないから安くして!」→コンプレッサー交換はなし・・。
お客様からの強い要望で、「必要最低限の費用でエアコンが効くようにしてほしい」ということで、本来ならコンプレッサーとマグネットクラッチが一体化したものを交換します。
コイルが悪いのに、クラッチも交換し、さらにその後ろのコンプレッサーも交換するの?といった質問を受けましたが、コンプレッサー全体の老朽化を考慮すると「ごっそり」と交換します。
もしもディーラーで今回の修理を依頼したなら、かなりの確率で「全部交換」という説明と見積もりが出てくるはずです。
せっかく工賃をかけて交換をしても、のちのちにコンプレッサーが壊れた場合はお客様からのクレームになりかねません。
とはいえ、修理費用が倍以上になるので、故障リスクと費用が反比例することを説明して選択肢を提示していい場合もあります。近い将来に車を乗り換えようと考えているお客様にフルコースの修理しか説明しないのは不親切に思います。
ごっそりと交換してしまうほうが整備士としても心配のタネが減るので確実なほうを取りたくはなりますが。
コンプレッサーを切り離さなくてもOK
エアコンコンプレッサーの前面にあるマグネットクラッチを交換しようとすると、エンジンルームのどのあたりにコンプレッサーがあるのかで交換作業も違ってきます。
高圧と低圧のそれぞれのパイプの取り回しの関係でコンプレッサーの取り付けステーを外しただけでは十分な作業スペースが確保できないケースもあります。
その場合はクーラーガスを抜いてしまい、コンプレッサーとパイプを切り離すことになり、お客様に負担いただく修理費用も上がってしまうことになります。
車をリフトアップして下からアプローチ
DA63Tのキャリーの場合はコンプレッサーとパイプが繋がったままでエンジンの下側にダラリと吊り下げるようにできるので、マグネットクラッチがすんなりと交換できました。
簡単な手順を述べると
①エアコンベルトを外す
②コンプレッサーのアジャストボルトを外す
③リフトアップしてアンダーカバーを外す
④コンプレッサー下側のボルトを2本外す
⑤コンプレッサーを下にぶら下げるように引き出す
この状態にできればマグネットクラッチの中央にあるボルトも緩めることができ、アーマチュア、プーリー、コイルと順番に外していくことができます。
ただしコイルとローターを外すには、掴むと広げるタイプのストレートタイプのスナップリングプライヤーが必要になります。
アーマチュアとのクリアランス調整
「マグネットクラッチを発注します」という感じで発注書に書き込めば、ほとんどのメーカーの場合は、こんな内容の部品が届きます。
・ローター(プーリー)
・コイル
・アーマチュア
・付属のシムなど
なかにはコイルだけでも部品として設定されている場合もありますが、ローターとコイルとアーマチュアはどれか1つだけ交換するというケースは少ないです。
つまり、「どうせ交換するなら普通はセットで交換するよね」といった内容のものが抱き合わせになっています。
ここで大事になってくるのが「シム」と呼ばれる小さな調整用のワッシャーのような部品です。
このシムを何枚入れるかでアーマチュアとローターとのクリアランス(すき間)を調整することができます。
0.5mmほどが適切なクリアランスですが、広すぎても狭すぎても不具合が出てしまいます。
キャリィトラックのマグネットクラッチ交換費用
マグネットクラッチ3点セット(純正品) | 税込みで約20,000円 |
交換作業料(整備工場によって違います) | 8,000円~12,000円 |
ただ、コンプレッサーを外すことになった場合では10,000円以上の修理費用の圧縮ができることになりました。
コイル不良になった原因は?
高温にさらされると壊れやすいかも
今回のエアコン不調の直接の原因は、マグネットクラッチ内のコイル内部のショートでした。
交換したあとのコイルを観察してみると、表面が熱で焼けただれたようになっていて、その熱はエンジンルームに自然に発生するだけのものなのか、わかりません。
アーマチュアとローターが擦れて高温になった?
↑ 左側のアーマチュアと右側のローターが接触して削れたようになっています。
新しいマグネットクラッチを組み込むときにローターとアーマチュアのクリアランスが狭いと感じていました。
結果的に不適切なクリアランスのために、ローターとの当たり面が接触することで高温になり、コイルにも温度が入り、壊れやすくなったのかもしれないと考えています。
つまり、途中でクリアランスの調整をしておけば、コイルがいきなりダメにならなかったのかも、と考えています。
今度は別の部分が壊れるんだろうな・・・。
次はコンプレッサーがいつ壊れるのかと内心はドキドキしながらも修理は完了、無事にクーラーも冷えるようになり納車となりました。
ということで今回のお話はこれにておしまいです。
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