フィアット500は愛らしいデザインと軽快な乗りあじで女性にも人気が高いモデルですが、イタリア車らしく(?)気分屋さんなところもあります。
今回はフィアット500のエアコン不調に関する作業記録と診断での考察をまとめたものです。
結果的にはクーラーガスを補充して無事に冷えるようになったのですが、お客様からいただいた相談内容は以下のようなものでした。
・運転席側の吹き出し口が暖かい
・エアコンを入れるとヘンな音がする
・エアコンの風のニオイが変わった気がする
・数日前は効いていたかも?
エアコンのトラブルとしては「あるある」なケースですが、ちょっと意外なこともありました。
【診断記録】フィアット500のエアコンが冷えない・効かない
↑フィアット500でガス漏れがよく起きるのが低圧側のパイプのカシメ部分。今回は乾いていたのでコンプレッサーオイルもガスも漏れていないようです。
まずはお客様の前で初期ん診断をすることになりました。
フィアットに乗るお客様は、まるで我が子のように愛車を大事にしている方もいますが、この女性のお客様にとっては大事なパートナーのようでした。
コンプレッサーが動いていない
カーエアコンの初期診断ではまず現状を把握するためにエアコンを作動させるところからスタートします。
車のエアコンが冷えないというトラブルでかなり多いのがクーラーガスが不足しているというパターンで、ガスがある程度少なくなるとコンプレッサーが動かなくなります。
たとえ輸入車とはいえどもエアコンの基本的な構造は日本車とまったく同じなので、診断の進め方も同じです。
クーラーガスが不足してクラッチが入らない
↑ ガスの量を確認するにはサービスバルブから圧力を測定するのが手っ取り早かったりします。
エンジンを始動して冷房をよりに温度調節のツマミを操作し、コンプレッサーを動かすためにボタンをオンにします。
風量調節のツマミを押し込むとそのままACボタンをオンにしたことになり、エンジンルームの方で「カチ」というマグネットクラッチが入る音が聞こえてくるはずです。
案の定というか、作動音は聞こえてこないのでエアコンコンプレッサーを直接目視で確認、マグネットクラッチの部分が止まったままであることがわかりました。
「はい、ガス不足ですね。」
と軽いノリで言いたいところですが、そもそもなぜガスが漏れているのかを確認する必要があります。
というよりもクラッチが作動しないからといってガス不足と決めつけることはできず、電装系のトラブルの可能性もあります。
この場合、クーラーサイクル内のガスがどれくらい残っているのかを確認するためにゲージマニホールドを繋いでみます。
低圧、高圧ともにガスの圧力が4キロ以下なのでおそらくガスが不足しているためにガスのプレッシャーセンサーがオンにならずマグネットクラッチに電源が供給されないもようです。
無駄になるのは覚悟でクーラーガスをためしに一本(200グラム)ほど注入してみます。
はたしてマグネットクラッチの部分から作動音がしてコンプレッサーが作動し始めます。
エンジンルームから異音がする
コンプレッサーが作動しはじめたのと同時にコンプレッサー付近から「シュルシュル」という音がし始めました。
ガス不足+オイル不足が原因
お客様がおっしゃるようにエアコンがなんとか冷えていたときにヘンな音がするというのはこのことで、そばにいた御本人も「あ!この音です。なんなんでしょう?」とのこと。
おそらく、ガスがどこかから抜けていくときにコンプレッサーオイルも抜けていて、コンプレッサーの内部から異音が出ているようです。
この状態、ガスだけを補充し続けているとコンプレッサーオイルがどんどん不足していくことになるので、最終的にはコンプレッサーの焼きつきの原因にも発展してしまいます。
コンプレッサーオイルもガスも抜ける場所とは・・?
エアコンのガスが漏れるというトラブルは自動車の場合は珍しいことではありません。
エアコンのコンプレッサーはエンジンから動力を取り出しているため、エンジンのすぐちかくに配置されています。
エンジンの振動もコンプレッサーに伝わり、車体側に入る配管は振動を吸収するためにパイプとゴムホースが合わさったようなものが使われています。
とくにガス漏れで多いのがパイプとゴムホースをカシメて繋いでいる部分が振動の影響でガス漏れを起こすパターンです。
エンジンの振動が同じ部分にストレスをかけることで、だいたい同じ車種なら同じような部分からガス漏れを起こします。
オイルが漏れていることでコンプレッサーの内部から異音が出ていると仮定するなら、ガスが漏れている部分にはコンプレッサーオイルが付着している可能性が高いです。
ガス漏れの場所を探すにはかえって都合がいいのですが、ざんねんながらこのフィアットに関しては目立った場所からのオイル漏れは確認できません。
エバポレーターからの漏れがあやしい
コンプレッサーオイルがガスと一緒に抜ける部分はある程度限られてきます。
・コンプレッサー本体
・コンデンサーの下側付近
・ゴムホースのカシメ部分
・エバポレーター本体
クーラーガスはフロン(R134a)が使われていましたが、ガスよりも比重が高いコンプレッサーオイルは、クーラーのサイクル内の下側にたまりやすいです。
車をリフトアップしアンダーカバーをはずしてコンプレッサー周辺などを目視で確認していきますが、どこも乾いていてコンプレッサーオイルが漏れたあとは確認できませんでした。
ということは、やはり室内の奥まった部分からのガスとオイルの漏れという可能性が高くなります。
吹き出し口からヘンなニオイがする
お客様からのエアコン吹き出し口からヘンな匂いがするという相談もいただいていました。
化学薬品のような匂いの正体
エバポレーターから漏れたコンプレッサーオイルとフロンガスがブロアモーターから吹き出し口に送られてくることで独特の薬品のようなニオイがします。
それもクーラーを作動させていたときにニオイがきつくなるということで、温度調整のツマミを冷房よりにすることでエバポレーターを経由する風が増えるからなのでしょう。
逆を言えば、暖房よりにツマミを動かして送風させるとエバポレーターを経由する風は少なくなるのでニオイは変化します。
暖房のヒーターコアから冷却水が漏れているときは暖房に入れているときだけ鼻をつくようなニオイがするようになります。
フィアット500|エアコンの効きが悪いわけではない
クーラーのサイクルのなかでも冷えに大きく影響する、コンプレッサー、エキスパンションバルブなどが問題ないかを確認するには、実際にガスを補充してみるのが手っ取り早いです。
「イタリア車のクーラーの効きってどうなんだろう?」
と内心は思っていましたが、クーラーガスをしっかりと補充してあげるとかなりよく冷えることがわかりました。
走行距離は6万キロ。壊れるのは早い?
エアコンのトラブルとしては日本車のほうが故障する確率は低いと感じていますが、輸入車は冷房がよく効く印象です。
ただ、フィアットだけに限らずですが輸入車の中にはエアコンのトラブルが多い車種もあります。
日本の渋滞ノロノロ走行が原因?
イタリアでは狭い路地をクルクルと走り抜けるような車の運転が多いようですが、渋滞にハマったなかでのノロノロ運転は日本のほうが酷いのではないでしょうか。
エアコンのガス漏れの原因としてよくあるのが、エンジンからの振動によるホースのかしめ部分のヘタリによるもの。
アイドリングからの発進や低速走行を繰り返す渋滞ではブルブルとエンジンの振動が多いほどガス漏れのトラブルが増えると感じました。
とくに今回のフィアット500のエンジンは「ツインエア」と呼ばれる2気筒エンジンを搭載していて、エンジンの振動はかなり大きなモデルです。
高速走行が多いユーザーなら起きにくいような、振動によるエンジンマウントの劣化や、今回のようなクーラーガス漏れのリスクもかなり違ってくるでしょう。
運転席側だけ冷えが悪い
右側の吹き出しが冷えなかった・・?
センターの吹き出し口からはかなり冷たい風が出るようになったのですが、運転席の右側、つまり一番窓側の吹き出し口からは温風にちかい風しか出てきません。
これはどの車でも多少の温度差はあり、クーラーユニットからもっとも遠い運転席の吹き出し口は冷房の冷気がダクトを通過してロスしてしまうのが原因です。
とはいえ、このフィアット500の場合はその温度差があまりにも大きく、そこだけ暖房が出ているかのような違いがありました。
これまたフィアットのオーナー様のおっしゃるとおりで、最初は→の吹き出し口だけが冷えなくなったと思ったようでした。
エンジンをかけてアイドリングさせながらしばらく放置していると、吹き出し口の温度も同じくらいになってきましたが、ガスが不足しているときの温度差はかなり顕著でした。
運転席は「元・助手席」
イタリア本国では左ハンドルのフィアット500ですが、右ハンドル仕様ではベースとなる左ハンドルのレイアウトがかなり残っています。
運転席の正面の奥あたりに外気を導入するダクトがあるためなのか運転席側のエアコンの冷えが悪いのかもしれません。
エアコンフィルター交換の作業性がよくない
↑ エアコンフィルターの交換用のフタのすぐ横にステアリングシャフトが・・!チマチマとコンビネーションレンチで緩める羽目に(泣)
左ハンドル仕様の名残なのか、もともと助手席だった右側にハンドルが移されたことでステアリングシャフトがエアコンフィルターの交換を難しくしています。
エバポレーター周辺にガス漏れの痕跡
今回は「すぐに冷えるようにして欲しい」というご依頼のもとガスを補充していったん車をお返しすることとなりました。
本来は約500グラム前後のフロンガスを注入するのでガス漏れを想定して許容範囲で530グラムほどを注入、しっかりと冷えることが確認できました。
とはいえ、急激に冷えなくなったというお話だったのでガス漏れの場所が気になるところです。
大きな修理が待っているもよう
エアコンフィルターを取り外してスマホを差し込んでの撮影の結果、エバポレーターにコンプレッサーオイルが滲んだあとが確認できました。
どうやらダッシュボードをすべて外してのなかなかのヘビーな作業が必要ということですが、その車にどれくらいのコストをかけるのかは持ち主さんが決めること。
残念な結果をお知らせしたうえで「冷えるのでこれで旅行に行ってきます♪」ということでした。
コメント