今回はスズキのMH34S型ワゴンRで起きたトラブルについての記録です。
エンジンを始動してすぐに走行中に異音が発生しはじめ、さらに燃費が非常に悪くなったとのことでした。
トラブルの原因をたどりながらスズキのエネチャージ搭載車の仕組みやメンテナンスについて考えさせられました。
また、今回のトラブルはワゴンRだけでなく、同じ仕組みを使っている他のモデルでもまったくおなじことがおきます。
2012年以降に発売された、アルト、ラパン、ハスラー、スペーシア、スイフトなどがこれにあたります。
さらに同じエンジンを搭載し「Sエネチャージ」に進化したモデルでもおなじ症状が起きるでしょう。
MH34S型スズキ・ワゴンRで走行中に異音発生
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原因はオルタネーターベルトの滑りですが、
原因をたどると意外な理由もわかってきます。
エンジン始動後からキュルキュルと異音
朝、走り出すなりエンジンルームから「キュルキュル」という異音が発生し、アクセルを踏み込むと「キューーーー」という音に変化するとのこと。
これは典型的な補機ベルトが滑るときの症状で、「キュルキュル」や「キュー」という表現をするユーザーさんがほとんどです。
ところが今回の症状は加速中だけでなく減速をしているときにもベルトが滑る音がしているとのことでした。
減速中にも異音がする
補機ベルトが緩んだ状態ではアクセルを踏み込んだときにだけ異音がして、アクセルを離したときはほぼ異音がしないはずです。
エネチャージは回生ブレーキの一種
過去にも同じようなエンジンブレーキを効かせている状態でベルトが滑って異音がする症例を経験していたのですが、副作用として燃費も非常に悪くなったとのことでした。
スズキのエネチャージではオルタネーターのベルトが滑ると回生ブレーキが十分に機能しなくなることはなんとなくわかっていましたが、そこまで燃費に影響するとは思っていませんでした。
正直に言うと「エネチャージってわりとハイブリッドカーらしいこともできるのね・・・。」と考えていました。
ワゴンRハイブリッドの燃費が悪くなるトラブル
「エネチャージ」の仕組みに関係していた
スズキの「エネチャージ」は、アクセルを完全にオフにした状態ではタイヤがエンジンを回し、エンジンが発電機を回してエネルギーを回収します。
エネチャージの場合はブレーキ中や減速中に発電機を駆動させることで室内に搭載されているリチウムイオンバッテリーに電気を貯めておくことができます。
加速時には発電機の動きを制限して、助手席下にあるリチウムイオンバッテリーにためておいた電気でまかなっています。
かなり重要な部品なのが、オルタネーターについているベルトで、このベルトには通常のエンジンよりも大きな負荷がかかっています。
とくに減速中は強い発電を行っているため、ベルトに強いトルクがかかり、ベルトの張りが緩かったり摩耗していると動力が伝わりません。
僕が意外に感じたのが、アクセルペダルを踏み込んだときの発電機としての負荷にちかいほど、回生ブレーキとしての負荷もベルトにかかっていることでした。
オルタネーターベルトの滑りが回生ブレーキに支障をきたす
↑ オルタネーターベルトとの接地面積はかなり広いにもかかわらずベルトの滑りが発生し異音が出る。それも減速中に・・・。
オルタネーターが回生ブレーキとして機能するためには大きな負荷がオルターネーターベルトにかかることになり、ベルトの張りが緩いとベルトが滑ってしまいます。
これまでの整備士としての経験では「これくらいの張り調整で十分でしょ。」と思っていたオルタネーターベルトのテンションではベルトの滑りが発生していました。
とはいえ、エネチャージに採用されているベルトは2000ccクラスのエンジンに採用されるような幅の広いものです。
回生ブレーキの機能が制限されてエネルギーロスに
ユーザーさんのお話では、アクセルを踏み込んだときのベルト滑りの音がかなり大きく、「まわりの車からジロジロ見られて恥ずかしかった」というレベルです。
エネチャージモデルに採用されるベルトは「6PK1231」
たんなる発電機として機能させるなら軽自動車クラスの場合は4PKほどのリブがあればいかなる状況でもベルトの張りが適正であればベルトが滑ることはありません。
ところが、スズキのエネチャージと呼ばれるハイブリッドシステムでは6PKという、リブが6本もあるベルトでもベルトの幅がかなり多いものでもベルトの滑りが発生します。
かなり強めのテンションでベルトを張る必要がある
↑ サービスボルトを使ってのベルト調整。
最初から付けておいてほしいくらい。
わりと大きな電力を発電させるため、これまでのように小さな発電機やウォーターポンプを回しているようなベルトではありません。
定期点検や車検ではオルタネーターベルトの張りはつねに強めに調整しておく必要があり、リブベルトなのでリブの部分が摩耗しているようなら交換が必要です。
エネチャージのベルト交換はいつする?
一般的な補機ベルト、エアコンベルトやオルターネーターベルトに関しては車種によって交換時期が違います。
細いベルトで複数の補機類を回すようなエンジンではベルトが傷むのも早く、5万キロほどで交換が必要になります。
スズキのエネチャージ搭載のエンジンは軽自動車では「R06」と呼ばれる型式のエンジンです。
このエンジンに関してはベルトの張りを定期的に調整して滑りを発生させなければ8万キロくらいは問題なく使用できます。
ただし、5年以上経過すると冬場にエンジンを始動すると「キュルキュル」とベルトから鳴きが発生することがあります。
まとめ
今回はスズキの「エネチャージ」を採用しているワゴンRの異音と燃費についてのお話でした。
エネチャージはオルタネーターベルトを使って回生ブレーキとモーター駆動の両方を機能させています。
正回転と逆回転の両方向にかなり負荷のかかる仕組みであるため、ベルトが伸びてきたらすぐに張り調整しないとベルトが滑ります。
ベルト滑りが発生したままで使用してしまうとベルトが磨耗してしまい、交換時期が早まってしまいます。
さらに室内にあるリチウムイオンバッテリーが充電されないことで、エンジンルームにあるバッテリーへの負担が増え、寿命が短くなるおそれもあります。
整備士として気をつけなければいけないのは「エネチャージのベルトは強めに張るべし」ということ。
今回はワゴンRスティングレーのターボモデルなのでSエネチャージにはなっていませんがSエネチャージになるとモーターの駆動力も加わることになります。
ユーザーさん側としては「キュルキュルと音がし始めたらすぐに張りの調整を依頼する」ということです。
とはいえ、ベルトの価格もそれほど高額ではありませんし、交換の作業自体も難しくないので定期的に交換するのがいいのかもしれません。
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