整備士を長くやっていると不動車を引き取りに出張することがあります。
そのまま廃車にするケースが多いのですが、いろんな事情で不動車を復活させたいと依頼されることもあります。
その車に深い思い入れがあったり、経済的な理由や、駐車場の管理者からの撤去依頼などなど様々です。
不動車になってしまった車を復活させるのはかなり大変なケースもあり、まずは復活させられるのかを判断することも大事です。
また、復活させられたとしても、その後の整備が難しいケースもあり、車検を取得するために膨大な費用がかかる場合もあります。
今回は
以上の2点についてお話をしていきます。
車は不動車になると復活は難しい?
不動車になって経過した年数が重要
いきなり結論が出てしまいましたが、不動車を復活させる難しさは、不動車になってしまってから、どれくらいの時間、どんな状態で放置させていたかで違ってきます。
屋外で2年以上は厳しい
僕の経験上では、2年以上屋外に放置されていた場合、復活させたあとの「後遺症」がしばらく残っています。
とくにエンジン本体や、オルタネーター(発電機)、エアコンのコンプレッサーなどの回転する部分からの異音がひどいです。
回転部分からの異音がひどい
実際に経験した事例でお話すると、商用の軽バンを2年ぶりに復活させたことがありましたが、オルタネーターとクランクのプーリーが真っ赤に錆びていました。
プーリーとは、補機類のベルトを駆動するためのベルトが触れている部分のことで、ここが錆びていることで、新品のベルトが何度もダメになりました。
とはいえ、ユーザーからの依頼内容は「なるべくお金をかけないように復活したい」とのことだったので、オルタネーターやクランクプーリを交換すると予算オーバーになります。
サンドペーパーなどでゴシゴシと念入りにプーリーの錆を落としていきながら、ようやくベルトが削れて細くなってしまうことがなくなりました。
整備士の本音を言えば、不動車の復活って、
割にあわない仕事なんですよね・・・。
旧車みたいな、レストアを兼ねた復活に数百万円という費用がかかるのも妥当なのかもしれません。
不動車になってすぐなら復活しやすい
「不動車」とひとことで言っても、ただ単にバッテリーが上がっているだけの状態もあります。
バッテリーは3ヶ月ほどで上がる
車のタイプや年式でも違ってきますし、バッテリーの大きさなどでも違ってきます。
軽自動車なら2ヶ月から3ヶ月、コンパクトカーやミドルクラスの車なら3ヶ月以上経過するとバッテリーが上がっていることが多いです。
余談ですが、30系のプリウスも3ヶ月くらいで補機バッテリーが上がっていましたね。
ただし、バッテリーがどれくらいで上がってしまうのかは、周りの気温との関係も大きく、真冬だとバッテリーあがりもかなり早く起きてしまいます。
バッテリーが上がってしまっただけの状態なら、不動車としてはもっとも初期の段階なので、新品のバッテリーと交換するだけで問題なく使えることが多いです。
走行させることで調子もよくなる
車のコンディションを維持するには、現役の車として常に使ってあげることです。
不動車だった車も、走行させることでエンジンも調子がよくなり、ブレーキローターのサビも自然に取れていき、静かになります。
できれば慣らし運転をするつもりで、いきなり高負荷な走行はさせず、暖機運転も長くとることが望ましいです。
低年式車は不動車になりやすい?
たとえば、不動車になってしまってから1年経過した車が2台あったとします。
①3年落ちの高年式車
②15年落ちの低年式車
これはもう言わずもがな、復活させる難易度も費用も大きく違ってくることは想像に難くないですよね。
高年式車の場合は、セキュリティがロックされていて、バッテリーを繋いだ途端にセキュリティーアラームが鳴り響いて恥ずかしい思いをしたこともありました(笑)
コンピューターがいきなり不調に?
年式が低い車の場合は、たとえ走行距離が少なかったとしても、エンジンの調子が悪くなることもよくあります。
たとえば、コンピューター制御の車でも、ECU(メインコンピューター)が不調の原因になることもあります。
エンジンの制御や電動パワーステアリング、車種によってはオートエアコンの制御までやっているコンピューターは非常に効果な電子部品です。
軽自動車でも5万円くらい、ミドルクラスや電子制御ディーゼルエンジンなら10万円くらいするのがECUの恐ろしいところです。
ECUは電子部品なので高温多湿を嫌いますが、長期間に放置されていた車の場合、室内が湿気や直射日光で電子部品には不適切な環境になっています。
年式が古い車になるほど、なんの前触れもなく電子部品の故障に見舞われることがあり、エンジンをかけないままで放置すると、調子が悪くなります。
ローターリーエンジンの復活はオーバーホールありき・・?
かつてはマツダのアイデンティティだったロータリーエンジンですが、RX-7を一週間ほど預かっていたらエンジンがかからなくなってしまったことがありました。
エンジンをほんの3ヶ月くらいかけていない状態でも、再始動が困難でディーラーやチューニングショップに運び込まれるハメになります。
もともとロータリーエンジンは圧縮比がレシプロエンジンよりも低く、エンジンを始動させるのも難しいエンジンです。
また、圧縮を保つための重要なパーツ「アペックスシール」も、不動車になってからのエンジン始動には大きなネックになります。
とにかく神経質で扱いが難しいというのがロータリーエンジンへの僕の印象です。
キャブレターの車は大変・・・。
キャブレター(気化器)は、霧吹きの原理を使った機械的でシンプルな構造の燃料を供給する仕組みです。
シンプルであるがゆえにエンジンの細かい制御はできず、新車のときから調子が悪い車種もあります。
年式で言えば、平成10年の排ガス基準が厳しくなる以前のモデルです。
逆を言えば、平成10年(1998年)以降に制作された車は、排ガス規制をパスするために電子制御化されているので燃料の制御も安定しています。
とにかく、キャブレターを採用しているような車は、今では間違いなく旧車という扱いになりますし、「復活」というよりも「レストア」というイメージです。
簡単に復活させることは難しく、おそらくキャブレターはオーバーホールが必要になるでしょう。
不動車の整備の注意点
部品の供給体制はホントに大事
まず、不動車を復活させようとするまえに、その車の部品が手に入るのかどうかを確認することをお勧めします。
車のコンディションを保つには定期的なメンテナンスはもちろん、部品が安定して供給されているかどうかが重要です。
エンジン本体を構成したり、エンジンの制御に欠かせないような電子部品が手に入らないとなると、エンジンを始動させるのも難しくなります。
部品流用という手段もあるが・・
車種によっては、兄弟車のパーツを流用したり、電子部品メーカーに壊れた部品を送って修理してもらうこともできます。
例えば、トヨタのマークⅡという車なら、兄弟車のチェイサーやクレスタの部品を手に入れて適合できるように加工するなど。
日本車なら整備マニュアルやパーツの品番の互換性などを調べることもできやすいですが、輸入車となると、かなりマニアックな知識が必要になってきます。
まずはエンジンルームを目視でチェック
復活させるにあたって、まずは車の状態を簡単に把握しておく必要があります。
不動車になってしまってからどれくらいの期間が経過しているかで、車の傷み具合が違ってきますが、あまりにも損傷が大きい場合はプロに相談することをおすすめします。
ここでは、復活できる可能性が高い、不動車になってから一年未満くらいの車の場合のお話をしていきます。
今まで何度も不動車を見に行ったことがありますが、エンジンルームを見た瞬間「やめたほうがいいです」とユーザーさんに言ったこともあります。
エンジンオイルの量
とりあえずエンジンオイルの量が問題なく入っているかどうかのチェックで構いません。
エンジンオイルの交換は、本格的に復活させることが決まってからでいいでしょう。
冷却水の量
リザーブタンクの中に冷却水が入っているか、またラジエーターキャップを外してみてラジエーターの中を覗いてみて冷却水が入っているかをチェックしておきます。
もしもラジエーター本体に冷却水が入っていない場合は、水漏れをしている可能性が高く、車体の下回りに液体が溢れてないかをチェックします。
ブレーキフルードの量
ブレーキフルードが漏れてなくなることはあまりありませんが、念の為にブレーキフルードの量もチェックします。
MAXのレベルから少し減っている場合は、ディスクパッドが摩耗した分だけ液面が下がっていることがほとんどですので問題はありません。
エンジンルームに小動物が・・?
不動車の引き取りや整備をしていてわりとあるのが、ネズミなどの小動物の死骸がエンジンのなかに残っていることです。
そのままエンジンを始動させてしまうと、エンジンを破損させてしまったり、異臭が発生することもあるので、ペンライトなどを使って軽くチェックしておきましょう。
とくにベルトが回転するような部分に異物が引っかかっていないか見ておきましょう。
バッテリーは交換が大前提
不動車になる原因の一番が、バッテリーの自然放電によるバッテリー不良です。
鉛を使った車のバッテリーの場合は、エンジンを始動させて発電機を駆動することでバッテリーの充電が行われます。
カーバッテリーは上がらせると短命になる
この充電が一定期間されないままだと、バッテリーの寿命はいっきに縮んでしまい、バッテリーを充電しても受け付けない状態になっています。
つまり、放置していたことでバッテリーが上がってしまった場合、バッテリーは寿命を迎えていることがほとんどで、新品と交換するしか選択肢はありません。
エンジン始動の際はブースターケーブルも必要
長期間止まったままのエンジンがすぐに始動できる確率は低く、せっかく新しいバッテリーを用意しても、始動に手間取ってしまえばバッテリーが上がってしまいます。
それを防ぐためにも別の車から電源を取るためのブースターケーブルを用意しておきましょう。
古いガソリンは早く使い切る
新しいガソリンで満タンにするやり方
樹脂製のタンクで、ガソリンの残量が少ない場合は、その上から新しいガソリンでタンクを満タンにすれば問題ないケースもあります。
ようするに古いガソリンの比率を低くしてしまえば普通に走行できてしまい、自然にガソリンの入れ替えができるというわけです。あまり神経質になる必要はないかもしれません。
その際に必要なのが携行ガソリンタンクで、ホームセンターや工具屋さんでも購入することができます。
ガソリン携行缶があると便利
ガソリンをそのまま買って持ち運べる携行タンクは、災害時やアウトドアなどでも活用できるので持っておくと便利です。
できれば全量抜きかえが望ましい
ガソリンそのものが劣化して使えなくなることはあまりありませんが、水分と混ざっていたりその他の不純物が入り込んでいることがあります。
古いガソリンが大量に入っている場合、タンクの下側に分離した水分が沈んでいることがあります。
ガソリンタンクの下側にガソリンを抜き取るためのドレンボルトがついている場合は、車をリフトアップするか、その場でジャッキアップして抜いてしまうといいでしょう。
ただし、樹脂製のガソリンタンクや、ドレンボルトがないタイプのガソリンタンクもあるので、その場合はタンクを降ろしてしまう必要があります。
とはいえ、現実的には燃料タンクを降ろしてしまうという作業は整備工場に依頼するしかありません。
金属製の燃料タンクの場合は要注意
樹脂製の燃料タンクも増えてきていますが、平成20年以前くらいの車なら金属製の燃料タンクが多いでしょう。
長期間放置された車の場合、燃料タンクの内部に入り込んだ水分が原因でタンクの内側がサビていることがあります。
すると、剥がれ落ちたサビがガソリンの中に落ち込んでいき、燃料ポンプのフィルターを詰まらせてしまうことがあります。
この状態になると、いくらガソリンを入れ替えて燃料ポンプのフィルターを交換してもまたすぐに詰まってしまい、結果的にガソリンタンクを交換することになります。
エンジンオイルは交換がのぞましい
酸化したエンジンオイルは抜いてしまう
エンジンオイルはエンジンに注入され、エンジン内部で撹拌(かくはん)されることで急激に酸化が進んでいきます。
たとえば、エンジンオイル交換をしてから200キロしか走行していないエンジンオイルでも、一年以上経過しているなら抜きかえが望ましいです。
また、ガソリンが燃える過程で水分が生成されますが、エンジンオイルの中にも燃焼の過程で生成された水分がエンジンオイルに混入していきます。
酸化と水分の混入、古いエンジンオイルをそのまま使うのはエンジンにダメージを与えてしまいます。
タイヤの空気圧は高めにしておく
放置したままの車だと、タイヤは4本ともにペチャンコにつぶれてしまっているはずです。
しかも、タイヤが劣化していることで亀裂などが入っていて空気を充填してもパンクしている可能性もあります。
タイヤの空気圧は高めに入れておいて、空気が抜けているかもしれないと考えておきましょう。
空気圧をこまめにチェック
復活して走行できるようになった場合でも、タイヤの空気圧はこまめにチェックする必要があります。
できれば4本のタイヤの空気圧の変化も記録しておいて、一本だけ別のタイヤより空気圧が下がっている場合は亀裂からエア漏れをしている可能性があります。
また、タイヤのエアチェックや空気充填がいつでもできるように、車のシガーソケットを電源にするエアポンプを車に載せておくのもいいでしょう。
試運転は慎重に
ブレーキの効きが最重要な項目
無事にエンジンを始動することができて、タイヤの空気圧も問題ないという状態になったら、車を試運転することになります。
長い間ブレーキを作動させていなかったことで、ディスクブレーキのディスクローターは真っ赤に錆びついていて、本来の制動力は発揮できません。
また、マスターバックと呼ばれるブレーキの力を増幅させてくれる部分が壊れていて、負圧を保持できないことがあります。
チェックのやり方は、ブレーキペダルを踏み込んだままでエンジンを始動させたときに、踏み込んだブレーキペダルが奥に入り込んでいく感覚があるかどうかを確認しておきます。
サイドブレーキが固着していることも
ほとんどの車はサイドブレーキは後輪にありますが、サイドブレーキを引いたままで長期間放置されていると、サイドブレーキが張り付いたままになることがあります。
サイドブレーキを解除したら、まずはゆっくりと車を動かしながら車体の後ろ側から引っ張られるような感覚がないか、異音がしないかを確認しておきましょう。
もしも後ろ側のタイヤがずるずると引きずられるような感じなら、サイドブレーキが解除されていない可能性があります。
この状態になるとブレーキの分解点検が必要になり、プロに相談することをおすすめします。
走行中の異音や振動もチェック
ブレーキ周りのチェックが問題なく終われば、周囲の安全を確認しながらその場で車を走らせてみます。
車の重要な機能である「走る」「曲がる」「止まる」が問題なく操作できるかどうかを意識しながら徐々に慣らし運転をしましょう。
基本的な走行チェックが終わっても、エンジンを止めず、ボンネットを開けた状態でしばらくエンジンや周辺を観察し、異音や異臭がしないか確認しましょう。
まとめ
今回は不動車になってしまった車を復活するための流れを簡単にご説明しました。
・不動車になってからの時間が長いほど復活は難しい
・屋外放置で2年以上経っていたら復活しても後遺症がかなり残る
・低年式車は不動車になりやすい
・部品が手に入らないような車の復活はやめたほうがいい
・兄弟車が存在する車種なら部品の流用をすることができる
・本格的に復活させる前にエンジンルームを簡単にチェック
・エンジンオイル、冷却水、ブレーキフルードなど油脂類のチェック
・バッテリーは新品に交換が前提。ブースターケーブルも用意
・ガソリンは樹脂製の燃料タンクなら補充でもOK
・金属製の燃料タンクは内部が錆びて燃料ポンプの詰まりの可能性
・可能であればガソリンは抜きかえが望ましい
・エンジンオイルは酸化しているのですぐに交換する
・タイヤの空気圧は高めにしておき、携行用のエアポンプがあるといい
・エンジンが始動できてもいきなり走らせずブレーキの機能を確認
・サイドブレーキが固着していることもあるので発進は慎重に
・走行中の異音などにも気をつけてチェックする
不動車の復活の難易度は年式の古さと不動車になってからどれくらいの期間が経過したかで大きく変わってきます。
自分で判断が難しいときは、整備工場などプロに相談するといいでしょう。
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