車が水没してしまっても、走行可能な状態にもどることもあります。
たとえば駐車したままで水没した場合などは、タイヤの半分以上の水位に浸かってしまっても問題なく走ることができます。
ところが、水没してしばらくしてから
「あれ?こんなヘンな音、前からしてたっけ・・?」
という原因不明の異音がすると、だんだん心配になってしまうことでしょう。
今回は、車が水没してからなぜ異音がすることがあるのか?
どんな原因で、どうすればいいのかを考えていきます。
ちなみに僕自身も、整備士として水没した車の整備を嫌というほどやった経験があります
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車が水没したあとから異音する原因
海水が原因になるケース
車の水没でよくあるのが、高潮などで海水に浸かってしまうケースです。
塩分は車の金属部分を一気に腐食させ、錆びさせてしまいますので、ベアリングなどの回転するような駆動部分が傷んでしまうと異音の原因になることが多いです。
ハブなどの低い位置にある駆動系からの異音
とくにハブと呼ばれる車の車輪の軸の部分(車軸)は、タイヤの中央付近にあるので浸水しやすく、海水に長時間にわたり浸ってしまうことが多いです。
すると、密閉されたシールという部分から奥のボールベアリングの内部に海水が入り込むと、水が引いたあとでもベアリングの中の塩分は排出されないままになります。
ベアリングには、強度はあるものの錆びやすい金属も多く使われていますので、塩分が入り込んだままになると回転する部分に錆が発生し、これが異音の原因になります。
もしもハブが原因で異音が発生した場合、異音としては走行中にタイヤのあたりから「ゴー」とか「コー」といった、少し固いものが擦れあうような音がします。
ハブベアリングは車軸ですから、四本のタイヤのそれぞれの付け根部分に必ずありますが、全ての部分から同時に異音がするとは限りません。
どの部分のハブから異音がしているのかは整備工場で確認してもらうほうが確実です。
もしもハブベアリングを交換するとなると前側のハブベアリングと後ろ側のハブベアリングで修理費用が全く違いますし、車種によっても違います。
ちなみに、部品の値段はフロント側のベアリングが大きく値段も高くなります。
モーターなどへの塩害
海水に含まれる塩分が車のモーターなどに入り込むと、モーター内部の回転部分が腐食して、モーターが駆動するときにだけ異音が発生することがあります。
海水まじりの水没で多いのがこの電動モーターからの異音です。エアコンのコンデンサーファンや、ラジエーターの冷却用のファンを駆動する「ファンモーター」と呼ばれる部品を交換する必要があります。
ファンモーターは車のフロントバンパーのすぐ後ろ側にあるラジエーターにくっつくようにあるため、走行中に水没すると、浸水していない上側のモーターにも水が入り込んでいることが多いです。
つまり水しぶきとなってエンジンルームなどに飛散していくため、ほぼ全体的にまんべんなく水分が入り込んでしまいます。
また、ラジエーター付近は水が溜まりやすく、少しづつ乾燥していきますが、入り組んだ場所の水分はなかなか乾かないこともあります。
「モーター」と名の付く部品には小さなベアリングが組み込まれていますので、内部に入り込んだ塩分が原因で異音が発生するようになります。
また、モーターの内部には「コイル」と呼ばれる銅線を巻き付けて作った部分がありますが、ここにも水分や塩分がたまりやすくなります。
ただの真水の場合は電気を通しにくいですが、食塩水だとかなり電気を通しやすい性質があります。
そのため、海水が混じった部分での水没では、濡れたままでは電気回路がショートすることになり、モーターが焼き付いたり、ヒューズが飛んでしまったりする原因にもなります。
もしもモーター周りが塩害で損傷を受けた場合、エアコンを入れたり、冷却水の温度が上がって、コンデンサーファンやラジエーターファンが回りだすと、
「ブーン」
という通常のファンの回る音と一緒に「カラカラカラ」といった異音がすることがあります。
そのままで車を使用しようとすると、モーターがショートしたりすることで突然作動しなくなることもあります。
泥水や汚水が原因になるケース
河川の氾濫などで泥水や汚水で水位が上昇し車が水没した場合は、エンジンルームの補器類と呼ばれる部分に砂や泥などが入り込みます。
補器類とは、発電機(オルタネーター)、エアコンコンプレッサー、油圧式パワーステアリングのポンプなどが挙げられます。
これらの補器類はエンジンの回転力をベルトを介して取り出し、それぞれの動力として利用しています。
そのため回転している部分にはプーリーと呼ばれる滑車のような部分と、その軸の部分には滑らかな回転をさせるためのベアリングが組み込まれています。
これらの回転する部分に砂や泥など異物が噛みこむことでエンジンをかけていると異音が発生することになります。
その中でもとくにやっかいなのが、オルタネーターです。
オルタネーターは発電機ですが、構造があるていどモーターとも近いので、コイル、アーマチュア、ダイオード、ベアリングなど、他の補器類よりも構造が複雑なため、その中にまで泥水などが入るような水没の場合だと、最悪の場合はオルタネーターを丸ごと交換することにもなります。
とくにエンジンがかかった状態で水没をしてしまうと、オルタネーターの内部には高圧な電流が流れているため、オルタネーターの内部がショートしてしまうことおもあります。
水没直後にできる応急処置とは
これは車だけではなく、家のエアコンでもいえることですが、水害にあった場合はできるだけ分解して水分を乾燥させる必要があります。
ただし、たんなる雨水や川の水の氾濫などの真水での水没と、海水を含んだ河口ちかくや海際での水没では処置の仕方が違ってきます。
雨水など真水への水没の場合
塩分を含んでいない場合の水没では、車のボンネットを開けるなどして天日で乾燥させることである程度の処置にはなります。
ただし、バッテリーの端子を外しておいて、電装品がショートしないようにしておく必要はあります。
また、土砂災害などの泥水を含んだ水没の場合は、水道水などでなるべく泥をきれいに洗い流してから天日で乾燥させるといいでしょう。
海水など塩分を含んだ地域での水没の場合
塩分を含んだ水没の場合は、より丁寧に真水でいろんな部分を洗い流しておく必要があります。もちろん水洗いをするまえにバッテリーの端子は外しておきましょう。
上述したように、車軸のハブベアリングや電動ファンモーターに塩分が残ったままになると、回転する部分のベアリングなどが腐食したり、固着したりすることになります。
理想を言えば少し温度の高いぬるま湯などで、塩分を溶かしながら洗い流すのがいいのですが、常温の水道水や真水でもいいです。
できるだけ水圧を利用してモーターや発電機、足回りの回転部分のハブなどに入り込んだ塩分を追い出すように流しておきましょう。
それでも、完全な塩分の除去は難しく、水没して数か月後などに不具合や異音が発生することもあります。
車の水没後の異音の修理費用
ハブベアリングの交換費用
ハブベアリングを交換するには「油圧プレス」という部品を圧入する工具が必要になります。
そのため、ガソリンスタンドや軽作業だけを受けているメンテナンスショップではこれらの作業をすることができません。
基本的にはディーラーか本格的な整備をしている整備工場に依頼することになります。
なお、ここでの参考としての修理費は部品代、作業料金の合計で税別とします。
もちろん各整備工場でのレバーレート(時間工賃)も違いますし、作業頻度での得意、不得意でも作業工賃が違ってきます。
■軽自動車、コンパクトカーの場合
フロントハブベアリング交換
片側につき15,000円~25,000円ほど
リアハブベアリング交換
片側につき10,000円~20,000円ほど
※前輪駆動車の一般的な車種として
■普通車のセダン、ステーションワゴンなど
フロントハブベアリング交換
片側につき25,000円~45,000円ほど
リアハブベアリング交換
片側につき15,000円~30,000円ほど
■SUVなどの大型乗用車
四輪駆動車などのハブベアリングの交換は車種により交換の費用にかなりの開きがあります。
上記の普通車たちの倍以上の費用が必要になることも珍しくありませんが、2,000㏄クラスのSUVなら普通車クラスの1・5倍ほどの修理費用になるでしょう。
例)エクストレイル、ムラーノ、RAV4、ハリアー、クルーガー、パジェロイオ、デリカ
など
■ベンツ、BMW、VW(フォルクスワーゲン)
比較的に、日本でもよく乗られる外車としてはドイツ車勢ですが、日本車の二倍から三倍の費用は確実ですが、車種によっては十倍近い部品代を請求されることもあります。
ファンモーターなどの交換費用
ファンモーターから異音が発生した場合は、作動不能になる一歩手前の状態ですので、すぐに交換する必要があります。
ファンモーターは、ファンとモーターがセットになった状態でしか部品が供給されていないケースもあります。その場合はファンも交換するので3,000円ほど部品代が高くなることがあります。
基本的には軽自動車からミドルクラスまでファンモーターそのものの部品価格はあまり変わりません。
ただし、ラジエーターを一緒に脱着するケースもあり、
交換をする作業点数がかなり違ってくるので、作業料金で大きく修理費が違ってくるでしょう。
電動ファンモーター(単体) 12,000円ほど
ファンとモーターがセット 15,000円ほど
交換作業料
6,000円~20,000円
発電機の交換費用
オルタネーターは、軽自動車クラスでも新品だと80,000円ちかくします。
ミドルクラスの車だと100,000円くらいの部品代はごく普通に必要になります。
また、オルタネーターが車のどの位置に搭載されているのかも重要で、非常に作業性の悪い場所にある場合は、交換作業料もかなり高額になるでしょう。
軽自動車でもドライブシャフトを抜かないとオルタネーターが外れないような車種もありました。
かならずしも「軽自動車は安い、普通車や高級車は高い」ということではありません。
むしろ、狭いスペースにいろんな部品を押し込むようにして組み込んでいる軽自動車やコンパクトカー、ワンボックスカーなどの方が作業は大変なことが多いです。
部品代
70,000円~110,000円
交換作業料
6,000円~20,000円
ほとんどの水没には車両保険が適用される
車両保険で車を修理する場合は、車を持ち込んだ整備工場と保険会社のやり取りが必要になってきます。
保険会社は、車両保険として水没車の修理を進める場合、「一回の修理で完全に終わらせてほしい」といった要望が多いです。
なぜなら、修理をした後日にまた別の場所で水没が原因であろう不具合が出た場合、あとの事務処理がかなり大変になることが多いからです。
そのため、水没に関する修理費の見積もりを整備工場から受け取った場合、「この一回の修理で完全に水没する前の状態に原状復帰できるかどうか」ということを念を押してきます。
そこで整備工場としては、怪しい部分はすべて見積もりの中に入れてしまうことで、後日に再修理にならないように万全な(過剰な?)見積もりを作成する必要があるのです。
車の持ち主さんは、整備工場に対しては気になる部分は遠慮なくしっかりと伝えることで、しっかりと原状復帰できるような修理見積を作成してもらう必要があります。
最後に
今回は、車が水没してあとに起きる異音のなかでも、かなりメジャーなトラブルをピックアップしてみました。
異音の原因はもちろんこれらだけとは限りません。
ブレーキの異音やクラッチ異音もありますし、ベルトの張りを調整しているテンショナープーリーのベアリングなども異音の原因になることもあります。
ただ、異音の原因となりうる部分の中でも特に修理費がかかるトップ3に挙げられるトラブルです。
いったん水没した車にはつねに後遺症というリスクがが付きまとうことにもなりますので、根気よく修理をしていく覚悟も必要かもしれません。
【外部リンク】水没車は修理する?売却する?水没車の修理目安についてご紹介
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