車のパワーステアリングには大きく分けて「油圧式」と「電動式」の二種類があります。
どちらも機械である限り故障することもありますが、
故障をしたままで放置しておくとどんなデメリットがあるのでしょうか。
また、油圧式と電動式ではそれぞれどんなトラブルが起きるのかについてもお話していきます。
パワステ故障・・そのままで乗るとデメリットばかり
油圧式のパワステのトラブルのケース
油圧式と呼ばれるパワーステアリングは、油圧ポンプとエンジン側のクランクプーリーをベルトでつないでいます。
そのため、パワステがきかないというトラブルは油圧に関する原因が多く
油圧式パワステの二大トラブルとは・・
・パワステポンプのベルトが切れている
・パワステフルードの量が不足している
大きく分けると上記の2つが考えられます。
まず、パワステポンプのベルト切れについては、単純に消耗品としてのベルトの限界を超えてしまった結果、油圧ポンプが駆動されなくなり、パワステがきかなくなるケースが多いです。
この場合は、新しくベルトを付け換えるだけでパワステの機能は元通りになります。
それに対して、パワステの油圧を伝えるためのパワステフルードの量が不足している場合は、パワステの油圧ラインのどこかからフルードが漏れていることが原因となります。
とくに多いのが、パワステのギアボックス本体からのオイル漏れです。
油圧パワーステアリングの仕組みとして、油圧ポンプから吐出されたパワステフルードは、そのままステアリングギアボックスのシリンダーへ送られます。
そこで油圧の力を借りてハンドル操作を軽くできるようアシストしていますが、高圧に送られてくるフルードの油圧がギアボックスから漏れ出すことがあります。
原因はおもにパッキンやシリンダー内の油圧漏れで、ギアボックスのオーバーホールや、まるごとの交換が必要になります。
ただ、オイル漏れが発生するというのは、ある程度の年数や走行距離を走っていないとなかなかおきないことで、オイル漏れの進行も比較的ゆるやかです。
油圧式のパワステには警告灯がない?
車のメーターの中を見ているとハンドルのようなマークの黄色の警告灯がある車種があります。この場合、ハンドルマークの警告灯が付いている場合、ほとんどは電動式のパワステに関する警告灯です。
つまり、油圧タイプの車種にはパワステの警告灯は付いていることはかなり珍しく、基本的には油圧不足になっても警告灯は点灯しません。
発電機とパワステがつながっている場合
エンジンの前側には「補機類」と呼ばれる発電機(オルタネーター)、パワステポンプ、エアコンコンプレッサーとエンジンがベルトでつながっています。
電動式のパワステにはそもそもパワステポンプなどありませんので補機類としても存在しません。
車種によっては、パワステの油圧ポンプと発電機が一本のベルトでつながっていることがあります。
とくに最近の車種の場合、エンジンの全長を短くするため、一本のベルトですべての補機類を回すようにしている車種も増えてきています。
これらの発電機とパワステがベルトでつながっている場合、このベルトが切れたり外れてしまった時点で、パワステと発電機の両方の機能が失われることになります。
すると、バッテリーの警告灯が点灯して、パワステも効かなくなり、間接的にですが、発電機の警告灯のおかげでパワステの異常を知るケースもあります。
整備士としての経験でもよくあることですが、
お客様から電話で「バッテリーの赤いマークが点灯してパワステが効かなくなった!」という問い合わせがあった場合などは、車種やエンジン型式から発電機とパワステを回しているベルトが切れたのかな?
という予想をして、予め新しいベルトを用意しておくこともあります。
油圧漏れをそのまま放置するとどうなる?
油圧式のパワーステアリングに使われているパワステフルードは、オートマチックに使われるATF(オートマチック・トランスミッション・フルード)と成分はかなり近いです。
そのため、パワステフルードが不足しているときは応急処置としてATFを補充することもあります。
漏れ出したパワステフルードが水漏れを誘発する?
基本的にゴム類はエンジンオイルやオートマチックフルード、パワステフルードなどの油脂類が付着すると劣化してしまいます。
たとえば、冷却水が流れているゴムホースにパワステフルードが付着し、そのまま長期間も放置していると、ゴムホースがブヨブヨに劣化してしまい、水漏れの原因となります。
パワステフルードが漏れた状態で放置していると、周辺のゴム部品にパワステフルードが付着してゴムを傷めてしまうことがあります。
水回りに使われるホースは耐油タイプではないので、とくに気を付ける必要があります。
マウントのゴムの劣化を早めてしまう?
油圧ラインから漏れたパワステフルードはゴム部品を劣化させますが、エンジンやトランスミッションと車体をつないでいる「マウント」と呼ばれるゴム部品も劣化させます。
とくにエンジンマウントは、エンジンのやや下側付近に配置されていることが多く、パワステの油圧ポンプや高圧パイプのすぐ下側にエンジンマウントがある場合は要注意です。
もしも漏れたパワステフルードがエンジンマウントに流れ落ちていけば、マウントのゴム部分がちぎれてしまうトラブルの原因になります。
マウントがちぎれてしまうと、エンジンの振動を吸収することができなくなり、エンジンの揺れや振動、オートマチックの変速ショックもダイレクトに運転席に伝わってしまいます。
ダストブーツなども劣化しやすい
ラック・アンド・ピニオンと呼ばれるタイプのパワステギアボックスが主流ですが、左右に動くシリンダを保護するためにギアボックス両サイドに「ラックブーツ」とよばれるゴムのパーツがあります。
このラックブーツは蛇腹のようになっていて、ハンドル操作をするたびに左右に伸びたり縮んだりしていますが、パワステギアボックスの内部からパワステフルードが漏れると、このラックブーツが裂けやすくなります。
ちなみに、これらのブーツ類が裂けた状態では車検に合格できないうえに、シリンダー内部に水分やゴミが入り込んでしまうことになります。
この他にもゴムでできたダストブーツと呼ばれるゴム部品もパワステフルードの漏れた場所によっては劣化が早まってしまうので注意が必要です。
エンジンオイルの漏れの場合も言えることですが、オイル漏れをそのまま放置したことで、二次災害的に別の部品がダメになってしまうことがよくあります。
最終的には油圧ポンプの焼付きに
油圧式のパワステの場合、油圧ポンプをエンジンやモーターのちから出回転させて油圧を発生させています。
もしもオイル漏れを起こしていてパワステフルードが不足した状態になると、リザーブタンクに入っているフルードの規定値よりも少なくなった時点で油圧ポンプにフルードが送られなくなります。
すると、フルードではなく空気がポンプの内部に入ってしまい、油圧ポンプからの油圧が出力できず、激しい異音とともにパワステが効かなくなってしまいます。
さらに慢性的にこのような状態で車を走行させていると、最終的にはパワステの油圧ポンプが焼き付きをおこしてしまい、オイル漏れの修理だけではすまなくなってしまいます。
電動式のパワステのトラブルのケース
電動式は油圧式とは故障の原因が違ってくる
電動のパワーステアリングは文字通り電気の力でハンドルを軽くできるような仕組みになっています。
油圧式の場合はエンジンの力を借りていますが、電動式のパワステの場合はモーターの力でドライバーをアシストしています。
そのため、油圧式と電動式では制御の方法もかなり違うため故障の原因も違ってきます。
電子的なトラブルが多いのが電動パワステ
電動式の場合は、モーターの動きを制御するために舵角センサーと呼ばれる運転手のハンドル操作を感知するセンサーがついています。
また、車の速度に合わせてハンドル操作を重くしたりするため、オートマチックの制御に必要な車速センサーと連動していることもあります。
さらに、これらの情報を受けて総合的にモーターアシストを制御する専用のコンピューターがついています。
とくにハンドル操作に関しては安全に関わる重要な部分ですので、パワステのモーターが勝手に作動してハンドルが回りだしたとか、ハンドル操作ができなくなったなどのトラブルを避けるような安全機構(フェイルセーフ)も組み込まれています。
電動パワステの警告灯が点灯したら注意
もしも運転中にこれらの電動パワステの制御に関連するなにかのトラブルが発生した場合、運転手に異常を知らせるために、メーターの中に警告灯も設けられています。
これが電動パワーステアリング専用の警告灯で、すでに異常な状態から復帰できている状態でも過去の異常を知らせるために点灯したままになることもあります。
パワステ警告灯が点灯したままで放置するとどうなる?
電動式のパワステの場合、故障の原因が電気的なことが多く、センサーが壊れていたり、モーター本体が動かなくなったりします。
電気的なトラブルの特徴は、物理的になにかがすり減ったとか外れたわけではなく、故障していた次の日に車に乗り込むと何事もなかったようにパワステがきくこともあります。
そのため、不具合が起きたり、もとに戻ったりすることもありユーザーもそのままの状態で乗り続けることも多々あります。
ただ、不具合が起きる頻度が上がってきたりしながらも、いつかは故障したままになってしまうことがほとんどです。
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パワステの故障は車検に合格できない
油圧式も電動式も関係なくアウト
車検に合格できないということは、『保安基準に適合しない』という解釈になり、つまりは『安全な状態ではない』ということになります。
もともとパワーステアリングが装備されていない車の場合は、もちろんその状態で車検に合格するので、『重ステでもべつに問題ないのでは?』と思われるかもしれません。
ですが、保安基準では「その車に備わっているものは機能しなければならない」という考えがあって、パワステ付きの車両の場合はパワステ機能が正常である必要があるのです。
現在ではパワステが付いていることはすべての車の大前提になっていますし、タイヤのサイズも太くなっていますのでパワステが効かないと、とてもじゃないが据え切りなんてできません。
油圧式でも電動式でもパワステの故障は修理しないと車検に合格しないわけで、結果的には車検を受けるときに高額なパワステの修理もセットになるケースもあります。
とくに電動パワステのモーターが壊れたときなどは、その修理費に目をむくお客様も多く、「走行距離もそれなりに多くなったし、買い替えしようかな」と考えるユーザーさんもいます。
まとめ
パワステが壊れたままで放置した場合
■油圧式のパワステの場合
・漏れ出したパワステフルードがエンジンルーム内の別のゴムパーツを傷める
・水回りのゴムホースは耐油タイプではないので水漏れが発生する
・エンジンマウントやミッションマウントの劣化が早まることがある
・フルード不足のままでハンドルを切ると異音がする
・パワステフルードが不足することでパワステポンプが焼き付く
・パワステベルトが切れている場合、発電不足などが発生する車種がある
■油圧式、電動式の両方に共通すること
・ハンドルが重いことで車の操作性が大きく低下する
・運転手に体力的な負担が増える
・車検に合格しない
・高額修理に発展することがある
上記の内容を見て気づいた方も多いとおもいますが、どちらかといえば油圧式のパワステの故障のほうがそのまま放置して乗るとデメリットが多いです。
電動式だから放置してもいいというわけではありませんが、車検という不可避なイベントがある限り、修理は早めにしておくことをおすすめします。
また、走行距離がかなり多い、いわゆる過走行車の場合は、パワステ以外の部分にも目を向けてみましょう。
たとえば、
・オイル漏れや水漏れも発生している
・タイヤの溝がかなりツルツル
・エアコンの効きがよくない
・タイミングベルトなどの高額整備がひかえている
などなど、ざっと挙げてもいろんな高額修理が迫っていることもありますし、
・年度末で自動車税の納付が近い
・車検が近い
などの、期限が決まっていて避けられない出費もあります。
他の記事でも紹介していますが、警告灯や不具合が発生している車の場合、車を買取業者に査定してもらうと、かなり安い金額を提示されてしまいます。
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間違ってもディーラーの下取りに出してしまわないようにしましょう。
「廃車扱いなんで・・・買い取り額は1万円ですね・・・」
と、少しでも高く買い取ろうとする姿勢もないことがほとんどですから。
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