今回はスバルの水平対向エンジンならではのオイル漏れ修理についてのお話です。
・水平対向エンジンの定番のオイル漏れとは?
・水平対向エンジンのオイル漏れ修理の費用や時間は?
こんなお話を整備士としての経験からお話をしていきます。
ちなみに僕自身も水平対向エンジンの車を二台乗り継いできました。
水平対向エンジンでよくあるオイル漏れと原因
タペットカバーパッキン(ヘッドカバーパッキン)からのオイル漏れ
水平対向エンジンは、文字通りシリンダーブロックが180度開いたレイアウトを取っているので、一般的な並列型エンジンなら上部にあるはずのタペットカバー(シリンダーヘッドカバー)が90度傾いた状態になっています。
つまり、タペットカバーの下側にはつねにエンジンオイルが溜まった状態になっています。
エンジンオイルがパッキンを劣化させる?
タペットカバーパッキンはゴムでできているので、時間の経過とともに硬化していきますが、エンジオイルに常に触れている部分はその硬化が早いと感じています。
できればエンジンを止めているときはパッキンの周辺にはエンジンオイルが付着していない状態が望ましいのですが、水平対向エンジンの特性上、どうしてもエンジンオイルが偏ったままになってしまいます。
劣化したエンジンオイルがオイル漏れを早める?
タペットカバーパッキンの下側にはつねに内側からエンジンオイルが浸っていて、不純物が混ざり劣化したエンジンオイルがタペットカバーパッキンのゴムの劣化を早めてしまう傾向にあります。
また、水平対向エンジン以外のエンジンにも言えることですが、エンジンオイルが劣化すると「ブローバイガス」と呼ばれる、シリンダーから吹き抜ける燃焼ガスが多くなっていきます。
そのため、シリンダーヘッド内部の内圧があがり、タペットカバーパッキンに負担をかけてしまい、結果的にはオイル漏れが起きやすく、シール性能が落ちた部分から次々とオイル漏れを起こしはじめます。
エキゾーストマニホールドとの距離も一因
水平対向エンジンの場合、シリンダーヘッドのすぐ下側にエキゾーストマニホールドを配置せざるを得ないので、遮熱板はあっても熱がもろにシリンダヘッド下側に浴びせられます。
そのうえ、エンジンルームのちょうど中間くらいの深さにあるので、走行中でも停車中でも熱がこもりやすく、シリンダーヘッド周辺は高温のままになりやすくなります。
パッキンなどのゴム製の部品は熱で劣化しやすいので、高速道路などをメインに走行するよりも街乗りなどがメインで使用するユーザーさんのほうがオイル漏れが発生しやすい傾向にあります。
EJ20型水平対向エンジンのオイル漏れあるある
レガシィ、フォレスター、インプレッサ、エクシーガの主流エンジン
スバルオリジナルの乗用車にはすべて水平対向エンジンが搭載されていて、その中でもエンジン排気量が2000ccのモデルがもっとも売れ筋で、それらに搭載されていたのが「EJ20型」と呼ばれるエンジンです。
タペットカバーパッキンはオイル漏れの定番
そのため、EJ20型エンジンのオイル漏れ修理もたくさん経験してきましたし、上述したタペットカバーパッキンからのオイル漏れ修理は定番中の定番と言えます。
DOHCのほうがオイル漏れしやすい?
同じEJ20型水平対向エンジンでもDOHC(ツインカム)とSOHC(シングルカム)の二種類のエンジンがあり、スポーツモデルなどにはツインカムのエンジンが搭載されています。
ツインカム仕様のエンジンの場合、シリンダーヘッドには2本のカムシャフトがあるため、ヘッドの形状も大きく、よりシリンダヘッドがエキゾーストマニホールドに近くなっています。
結果的にツインカムのほうがタペットカバーパッキン下側からのオイル漏れも起きやすい傾向にあります。
さらにツインカムエンジンの場合、ターボ車とノンターボ車でもオイル漏れの起きやすさや部位にも違いがあり、ターボモデルに乗っているユーザーさんを悩ませている定番トラブルでもあります。
EJ20型でもターボ車とノンターボでオイル漏れも違う?
↑ 同じ水平対向エンジンでも、ターボ仕様の場合エンジンルームぎりぎりのスペースで収められていることもあり、排熱性が悪くタービンが発生する熱がタペットカバー周辺にこもってしまいます。
スバルの水平対向エンジンの場合、シングルのターボチャージャーを取り付けるときはターボはエンジンの右側に装着されています。
ところが、この大きくて高温になるターボが大きな熱源となってしまうことで、タペットカバーパッキンからのオイル漏れも、右側から発生することが非常に多く、ターボ車の場合は右側のタペットカバーパッキンの交換だけをすることも多いです。
それに対してターボがついていないモデルの場合、ヘッド周りのオイル漏れも左右で同じくらいの頻度になることが多く、ターボモデルよりもオイル漏れも起きにくいので、車検などでもオイル漏れ修理で検査に合格しないことも少ないほどです。
シングルターボとツインターボのオイル漏れの違い
インプレッサ、フォレスターのオイル漏れ
スバルのラインナップの中でも2000ccクラスのフォレスター、インプレッサ、レガシィのターボモデルが人気がありましたが、当時は同じEJ20型エンジンでもでもターボの仕様が違っていました。
つまりツインターボとシングルターボのエンジンがあり、初代インプレッサやフォレスターのターボモデルにはシングルターボが、採用されていました。
そのため、これらの車種に関してはタペット周りのオイル漏れはターボがある右側に集中し、左バンクのタペット周辺はすっきりとしていて熱もこもりにくい空間がありました。
結果的に、左バンクのタペットカバーは、修理しやすいにもかかわらずオイル漏れは起きにくいという皮肉なことになっています。
BG系、BH系レガシィはツインターボ仕様
それに対し、タペットカバーパッキンを傷める熱源となるターボが左右のバンクに配置されているレガシィに関しては左右のタペットカバーからオイル漏れをすることが多く、その分ユーザーさんの修理の負担は大きくなっていました。
とくにBH系の中でも初代のレガシィB4などはそのスタイリングや走りの良さで新しくスバルファンになるオーナーさんも多かったのですが、オイル漏れの修理で「こんなにお金がかかるとは・・」と絶句した方もおられました。
レガシィのツインターボ仕様に乗っているオーナーさんは、かなりこだわりを持っている方が多く、高額なオイル漏れ修理にもかかわらず積極的に修理をすることが多かったです。とはいえ、修理の見積もりを見て厳しい顔になることも確かでした。
EJ15・EJ16・EJ18・EJ22なども同じく
スバルの水平対向エンジンなら同じ結果に・・
EJ系の水平対向エンジンなら、排気量が違ってもタペットカバーパッキンからのオイル漏れは遅かれ早かれ起きます。
ただし、ノンターボでシングルカムのEJ15・EJ16・EJ18・EJ22などに関しては、タペットカバーのオイル漏れはかなり緩やかに進行していきます。
クランクシャフトのオイルシールからのオイル漏れ
↑ タイミングベルトのカバーを外した状態。
こうして上から見てみるとクランクシャフトのすぐ下にエキゾーストマニホールドが配置されています。
つまりそれだけ排気の熱をもろに受けてしまうということでもあり、シールなどのゴム部品の耐久性に影響が出てしまうレイアウトと言えます。
エンジン前面の下側付近にオイルがにじむ
クランクシャフトとは、エンジンの中心部分を貫くように通った、まさに水平対向エンジンの心臓のような部品です。
エンジンの前面にはクランクプーリーがあり、そのプーリーを外しタイミングベルトを保護するカバーを取り外していくことでタイミングベルトを見ることができます。
この状態にすることでクランクシャフトの前側からのエンジンオイル漏れなのかどうかの確認ができるようになります。
タイミングベルト交換時にオイル漏れを発見することも
スバルの水平対向エンジンのエンジンオイル漏れの定番として、フロント・クランクシャフトのオイルシールからの漏れもよくあります。
とはいえ、よほどエンジンオイルの管理が悪いケースを除けば、走行距離にして8万キロ以上ぐらいにならなければオイルが漏れてくることはありません。
ただし、ひとたびオイル漏れになったときは、タイミングベルトを外し、クランクスプロケットも外すことになるので、わずか1,000円たらずのオイルシールを交換するためにかなりの修理費用が発生します。
前期型ではパワステオイルの漏れもわりとあった
今回の「エンジンからのオイル漏れ」というテーマからは外れてしまいますが、スバルの水平対向エンジン搭載の車種のなかでも油圧のパワーステアリングを採用していた車種のなかにはパワステのオイル漏れもありました。
パワステポンプからのオイル漏れではなく、ポンプの上部にセットされたリザーブタンクとポンプ本体とのつなぎ目のゴム製のリングの劣化が原因でした。
パワステオイルのリザーブタンクが移設されて解決
初期のインプレッサやフォレスターなどでは定番だったパワステタンクからのオイル漏れも、ポンプ上部のリザーブタンクを右ヘッドライトの後ろ側に移したことで解決しました。
水平対向エンジンのオイル漏れ修理は大変?
エンジンレイアウト以外は普通
水平対向エンジンは特殊なエンジン、みたいなことを言うお客様もいますが、V型エンジンと基本的に変わりません。
ただし、整備性が悪い部分もあり、今回のテーマであるオイル漏れの修理に関しては「まぁまぁやりづらい」という感じです。
スバル系ディーラーの整備士なら作業の工程が頭に入っているのでそれほどは気にしていないでしょう。
タペットカバーパッキンは少しやりづらい
右側のバンクはエアクリーナーのダクト回りを外していくことが多く、左側のバンクならウォッシャータンクやバッテリーを動かすこともあります。
スバルのEJ系のエンジンはけっこう整備してきましたが、慣れてくればタペットカバーの脱着も普通の車という感じになってきます。
タイミングベルトの脱着とクランクやカムのシール交換
スバル系のディーラーでEJ系の水平対向エンジンのタイミングベルトの交換の見積もりをもらうと、その交換工賃に驚くかもしれません。
クランクシャフトのオイルシールの交換
オイル漏れ修理をするときもタイミングベルトを外すことがあるので、かなりの時間がかかることになり、かかった時間に比例して修理費用も上がっていきます。
水平対向エンジンのオイル漏れの修理費用はいくら?
タペットカバーパッキンの交換費用
2000ccのDOHCは作業工賃も高め?
同じスバルの水平対向エンジンでもEJ20型のツインカム(DOHC)のほうがタペットカバーが大きく、エンジンルームから取り出すのが大変だったりします。(とくにターボ車はよく漏れる)
まるで知恵の輪のようにしながら、大きなアルミ製のタペットカバーをくぐらすので作業工賃は多めにいただきたいところです。
※左右のバンクで作業工賃を変えてくる整備工場もあり
・工賃 片側につき 8,000円~12,000円
・部品代金 6,000円ほど
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・作業費用合計(片側につき) 14000円~18,000円ほど
※左右のバンクで作業工賃を変えてくる整備工場もあり
・工賃 片側につき 4,000円~8,000円
・部品代金 5,000円ほど
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・作業費用合計(片側につき) 9,000円~13,000円ほど
フロントクランクシャフトのオイルシール交換
ディーラーに依頼した場合
僕の感じていいるイメージでもあるのですが、スバル系のディーラーは水平対向エンジンのタイミングベルト交換やそれにともなう作業の工賃をけっこう高く設定している感じです。
※タイミングベルトの交換はすでに終わらせている場合
・シール交換工賃 25,000円~35,000円
・オイルシール 400円ほど
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・作業費用合計 25,400円~35,400円ほど
・交換工賃 30,000円~45,000円
・部品代金 40,000円~50,000円
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・作業費用合計 70,000円~95,000円ほど
ただし、これらはお客様から実際にお見せいただいたスバル系ディーラーの見積書を参考にした僕の経験ですので、この限りではありません。
あくまでも参考程度にしていただき、実際に自身の車を持ち込んでの見積もりを取ることをお勧めします。
水平対向エンジンのオイル漏れを防ぐには?
今回はタペットカバーパッキンとフロントクランクオイルシールのについての記述でしたが、水平対向エンジンのオイル漏れをでも遅らせるためのお話を少し。
オイル交換頻度がオイル漏れを左右する
水平対向エンジンといえど、ごく普通のレシプロエンジンなので、エンジンオイルの漏れを遅らせるには、エンジンオイル交換が重要になってきます。
いかにシール類を傷めないように、劣化したエンジンオイルを早い段階でエンジンから排出してしまうかでタペットカバーのパッキンの硬化も違うと思います。
僕自身も愛車インプレッサに乗っていたときは3,000㎞~4,000kmくらいでオイル交換していました。
年間走行で20,000kmくらいは走っていたので、走行ペースは早いほうでしたが、それでも頻繁にオイル交換はやっていました。
おかげでフロントのクランクシャフトのオイルシールや、四つあるカムシャフトのオイルシールからのオイル漏れは、160,000㎞ほど乗りましたがほぼありませんでした。
部分合成オイルがよかったのかも?
これは僕の独断と偏見かもしれませんでしたが、エンジンオイルには10W-40の粘度の部分合成のものを使っていました。
100%化学合成オイルはシール類などを傷めるという、
先輩からの都市伝説のようなアドバイスを気にしていましたw
クーリング走行を意識する
クールダウンはターボエンジンにはとくに有効
エンジンを止めてからエンジン回りの温度がぐんぐん上昇することもあります。
とくに高負荷、高回転の運転をした直後では、エンジン全体に蓄積した熱量が大きく、エンジンを止めるのでウォーターポンプも止まり、水温が局部的に上がり続けます。
目的地に着く数分前にはなるべく負荷をかけない運転をすることで走行風を利用して冷却水温度とエンジンオイルの油温を下げておきましょう。
一度、ターボタイマーの故障で一晩中エンジンをかけっぱなしにするという大失態をやらかしたことがありましたが、その時はふた月前に交換したはずのタペットカバーからすぐにオイル漏れを起こしていました。
エンジン周辺の温度がいかにシール類を傷めてしまうのかうかがえますね。
最後に
水平対向エンジンは、V型エンジンよりは熱がこもりにくい利点がありますが、整備性はあまりよくありません。
そのため、オイル漏れの修理をするとなると、ほかの並列型のエンジンよりも修理費も時間もかかるため、「修理費が高くつくエンジン」という印象になってしまいます。
とくにシリンダーヘッドが二つあるので、並列エンジンでは一つのタペットカバーが左右にあり、修理費が倍どころか三倍以上に感じてしまうイメージです。
ふだんの走行でも長時間エンジンを高温にさせてしまわないことを意識するだけでも、シールやパッキンへの負担は違ってきます。
またエンジンオイル交換をこまめにすることでもブローバイガスの圧を低くすることができ、タペットカバー内部の内圧を低くするメリットがあります。
それだけでもエンジンオイル漏れの確率を下げることができるのです。
【関連記事】スバル水平対向エンジンの「燃費が悪く維持費も高い」は間違い?
コメント
1年前までBP9に乗っていました(後期たしかE型)
10万キロ丁度で車検整備代(ヘッドライト自動レベル故障・マフラーエア漏れ等々)をどうするかで結局乗り換えたのですが
エンジン自体はほぼ全くオイル漏れはしていなくて整備士さんが珍しいと言ってました笑(若干滲んでいる箇所があり乗り続けたら漏れてたかも?)
ホントに良い車でした
聞く話によるとやはり修理はお高いようですね…
乗り換えた車(BS9 D型)は中古・3万キロで前オーナーの状況が分からないのと旅行とかでオイル交換は4月,7月,9月と変えています(3千キロ間隔)
冬に向けて9月にはフラッシングと0W-30の純正プレミアムオイル?のプレイアードを入れています
次回は3月くらいにエンジンオイル、FRデフオイル、(CVTF?)の予定です
普通の方よりは少しいたわりすぎでしょうか?笑
1ヶ月500km程度、夏たまに遠乗り(往復300~800km)な感じです
街乗り3、郊外7、高速0が多いのですが、交換頻度はもう少し伸ばしても良いですかね??
サボカジさんのお考えをお聞かせ願います!
タカハシ様
コメントをありがとうございます。
BP9にお乗りだったとのこと、いい車ですよね。
いつも僕に付いてくれているお客様のなかにBP系のSTIバージョン(?)にお乗りのやんちゃなおじさまがおられます。
BPにモデルチェンジして、高速道路での快適性がさらによくなったように感じます。
スバルの4WDは高速走行でもワインディングでもすごく素直なハンドリングですよね。
僕もWRXでいろんな場所へドライブに行きました。
また、現在お乗りのBS9でも油脂類のメンテナンスをしっかりとされているようで、
>街乗り3、郊外7、高速0が多いのですが、
>交換頻度はもう少し伸ばしても良いですかね??
このペースでメンテナンスをしていけば、オイル漏れなどのトラブルを遅らせるのではないでしょうか。
オイル交換の頻度ですが、どれくらいの期間その車に乗りたいのかがわかりませんが、
10万㎞くらいをお考えなら、オイル交換のサイクルはもうすこし伸ばしてもいいのかもしれません。
その場合であれば4,000㎞~5,000㎞の間くらいでしょうか。
ただ、月間走行距離があまりにも少ない期間があれば、「距離」よりも「期間」で判断して早めに交換するのもいいのではないでしょうか。
返信ありがとうございます!
BPのSTI仕様!
STIバッチつけたBPはたまに見かけますね
直進安定性は素晴らしいですよね
水平対向エンジン以外で高速を走った経験があまりないので何とも言えませんが笑
ハンドリングも直感通りに切れるのでホント良い印象しかないです
この先、エンジン積んだ車がどうなっていくのか分かりませんが、10万キロくらいまでは一緒に走りたいなぁと考えています。
4-5000kmで考えておきます!
冬場はほぼ遠乗りしないので(遠乗りの冬に出先で事故とか考えると…)
それでも4-6ヶ月くらいでは少なくとも変えると思うので、そんな感じで今の愛車と付き合って行こうと思います!