DIYでスタッドレスタイヤとの入れ替えやタイヤローテーションをしていてホイールナットが緩まなくてて苦労することがあります。
とくにありがちなのが、ホイールナットを規定トルクよりも強く締めてしまっている場合で、最悪の場合、ハブボルトが折れてしまうこともあります。
今回のお話は、冬タイヤとの入れ替えやローテーション、緊急時のスペアタイヤとの入れ替えの際にホイールナットが緩まないときに確認するべきことや、便利な工具などの紹介をしていきます。
とはいえ、「緩まない」にもレベルがあるので、最終的にはハブボルトとホイールナットをセットで交換することになってしまうケースもあります。
無理に力づくで緩めようとするとハブボルトが折れてしまうこともあるので、作業をしながら状況を確認していきましょう。
ちなみに先にネタバラシをしてしまうと、コスパ最強なホイールナットを緩める道具は「鉄パイプ」です(笑)
それから、ホームセンターや100円ショップなどで購入できる「アレ」もめちゃくちゃ便利なので個人的にはおすすめです。
タイヤ交換でナットが緩まないときに確認すること
念のために逆ネジかどうかを確認
↑ トラックの左側タイヤには逆ネジが使われているとも多く、
よくみると「L」のマークがありますね。
乗用タイプの車なら、ほぼ例外なくホイールナットに逆ネジを採用することはありませんが、貨物車ベースの1t車以上の車なら逆ネジになっていることがあるので確認が必要です。
ガソリンスタンドさんでタイヤの脱着をしようとして逆ネジをねじ切ってしまい、ハブボルトの交換をして欲しいという依頼を受けたこともちょくちょくありました。
逆ネジかどうかの確認方法
まず逆ネジとは、反時計回りに回すと締り、時計回りに回すと緩むタイプのボルト・ナットのことをいいます。
水道の栓を回すときを思い出してください。
左に栓を回すと緩んで水が出て、右に栓を回すと締まって水が止まる、これが「正ネジ」です。
ダブルタイヤの貨物車なら要注意
マツダのボンゴは左側のホイールナットやラグナットが逆ネジになっていますが、現在はその他のメーカーの貨物車は正ネジのものがほとんどです。
ただし、2トン以上のダブルタイヤのトラックやダンプは今でも逆ネジになっています。
車のホイールナットに逆ネジが使われているのは車体の左側
車が前進しているとき、左タイヤは左回転をしているため、ブレーキをかけてタイヤの回転を止めると、ホイールナットにも慣性が働いて左回転の回転力が加わります。
正ネジだと緩む方向に働くため、車の左側には逆ネジが働いています。
逆ネジには「L」の印がついている
トラックなど、ハブボルトが太い場合は、ハブボルトに逆ネジを表す「L」のマークがある場合もあります。
ホイールナットが緩まない原因
ホイールナットの締めすぎ
ホイールナットが緩まない原因としてかなり多いのはホイールナットを締めすぎているケースで、トルクレンチを使わなかったり、不慣れな作業者がインパクトレンチで締めているケースです。
この場合、ハブボルト、ホイールナットのどちらも再利用が可能な確率が高く、どの程度のトルクで締まっているのかを確認しながら緩めていくことになります。
前回の作業でボルトやナットを傷めていた
これはインパクトレンチを使用していたことと関係することもありますが、ネジ山にサビやカジリがあるままホイールナットを締め付けると次の作業で緩まなくなっていることがあります。
ていねいに指でナットを回しながら引っかかりがないかをチェックしていれば回避できるトラブルで、いきなりインパクトレンチで締め込んだりするとねじ山がズルズルになっていることもあります。
あまり言いたくないですが、プロのタイヤ屋さんや整備士でも明らかにインパクトレンチの力の加減がおかしい人もいます。いつも同じインパクトレンチを使っているなら音や手応えでわかるはずなんですが・・・。
貫通ナットから出ているボルトが錆びている
ワイドトレッドスペーサーを入れるためなどでやたらと長いハブボルトに交換している場合などは貫通ナットを使用していることが多いです。
ナットから突き出したボルトの先端部分はむき出しになっているので錆びていることが多く、そのまま貫通ナットを緩めていくと、ハブ側の錆びたネジ山が原因でナットが緩まなくなることがあります。
やや極端な例を挙げましたが、純正のハブボルトとナットでも、貫通ナットから少しのネジ山が出ているだけでも起こりうるので、袋ナットを使用したいところです。
ちょっとしたことですが、ホイールキャップをしているだけでもハブボルトの先端の腐食に違いが出ることもあります。
ホイールナットの角が痩せている
内側が摩耗してしまったボックスレンチでホイールナットを緩めていると、ナットの角が丸く潰れてしまうケースもあり、本来のトルクをかけづらい状態になってしまいます。
この場合は12角のボックスは絶対に使わないようにして、消耗していない6角のボックスを使って慎重に緩めていく必要があり、無事に緩めることができたらナットを交換する必要があります。
ハブボルトのスプラインが削れている
ハブボルトの付け根の部分はハブの内側から引き抜くようにして圧入されています。
通常はハブボルト側のスプラインとハブ側のスプラインがきっちりと噛み合っていますが、ハブボルトの交換方法に誤りがあると起こりうるトラブルです。
また、オーバートルクでナットを締め付けたときにも同じようにスプラインがズルズルになってしまうことがあります。
こうなってしまうと、ハブボルトだけでなくハブ側も交換することになるケースもあり、かなり高額で時間のかかる修理になってしまいます。
ちなみに、ハブも交換することになってしまうと、数万円単位の出費となってしまいます。
ホイールナットが緩まないときの対処法
まずは、これまで紹介してきたハブボルトの状態を確認して、その場にある工具や整備環境ではどうにもならない場合は整備工場に車を持ち込むようにしましょう。
とくに、ホイールナットが緩んだままやハブボルトが折れた状態では車を走行させることは非常に危険で、周りの人や車にも被害を与えてしまうことになりかねません。
この場合は無理をせず、安全第一でお願いします。
ハブボルトの限界トルクを超えないこと
ホイールナットの締め付けトルクについて車種別の一覧表を別の記事で作成しています。
【関連記事】国産 普通車のホイールナット締め付けトルク一覧表
まずは作業をする車の本来の締め付けトルクを確認し、その車のホイールナットやハブボルトの強度を考えてみます。
たとえば、日本車の普通車であれば、10kgf・mから11kgf・mくらいの締め付けトルクを指定しています。
つまりボルトもナットもこれくらいの強度に十分に耐えられるような材質や太さを考慮して作られていることになります。
これはあくまでも僕の整備士としての経験上の感覚ですが、規定トルクの1.5倍くらいのトルクで締め付けてもねじ山が潰れることもハブボルトが破断することもないと感じています。
逆を言えば、10kgf・mの締め付けトルクに対して2倍以上のトルクで締めてしまっている場合は、ホイールナットは緩むことなくハブボルトをねじ切ってしまうでしょう。(あくまでも僕の感覚ですが)
過剰なトルクで緩めようとしない
長い鉄パイプなどの継手があれば、車載のレンチでも大きなトルクでホイールナットを緩めることができます。
ただし、長い継手を使うほどにハブボルトの限界に近い感覚が分かりづらくなり、つい力を入れすぎてボルトを折ってしまうことになります。
さきほど触れましたが、通常の締め付けトルクの1.5倍くらの力を加えても緩まない場合は、それ以上の力で緩めようとするとハブボルトが折れてしまうリスクが高くなります。
折れてしまってからでは車を走らせることもできなくなり、レッカーサービスを呼ぶ羽目にもなるので、「これ以上はヤバい」と感じたら作業を中断しましょう。
ボルトが折れる寸前の感覚というのは、何度も経験しないとわかりにくのですが、ボルトがねじれて反発する感覚が突然弱く感じるポイントがあり、ボルトが破断する瞬間なのです。
レンチに少しづつ力をかけるやり方
どれくらいのトルクでホイールナットが締まっているのかを確認しながら緩めていくには、レンチに力を加えるときに「じんわり」と力を入れていく必要があります。
そのためには、レンチにのしかかるようなやり方だと、体重がかかりすぎることがあり、そのままハブボルトを折ってしまいかねません。
また、ハブボルトが折れた瞬間にレンチごと体の体勢がくずれることになるので怪我をする可能性があります。
そこで、安全かつ確実にレンチに力を少しづつかけるにはレンチの柄のほうをナットの右側にくるようにセットし、腰をすえてレンチを上に持ち上げるようにします。
体重を使って下に力を加えるのではなく、下半身と腕の力を使って、持ち上げるようにレンチを回すということです。
ただ、車載工具のレンチでは短すぎて力がなかなか入らず、大人の男性の体力でもかなり苦戦してしまうかもしれません。
ホイールナットを緩める工具
鉄パイプ
工具ではありませんが、コスパ最強のタイヤを緩めるためのアイテムといえば「鉄パイプ」です。
車に備え付けられている、たよりない車載レンチでもこれがあれば長いリーチのレンチに早変わりです。
長いほどテコの原理がきくので体力的にはラクになりますが、長すぎると大きなトルクがかかりすぎてしまい、あっさりとハブボルトを折ってしまうことにもなります。
↑ 腰を下ろして全身で上に持ち上げるようにして緩めると力の加減もわかりやすいです。体重をかけるやり方だと、ボルトが折れた瞬間に怪我をすることもあります。
適度な長さという意味では50センチくらいの鉄パイプがオススメで、10kgf・mのトルクなら50センチの端っこに20kgf・mの力を加えればいいという計算ができます。
50センチの鉄パイプを継手に使えば、30kgf・mの力で15kgf・mのトルクをかけて緩めることができ、それ以上の力ではハブボルトが折れる確率が高くなります。
ゴムハンマー
じつは意外や意外、ゴムハンマーがあるとホイールナットを緩めるのがかなり楽になります。
ホームセンターなら400円ほどで購入できる、できるだけ頭の部分が大きくて重たいゴムハンマーほど使いやすく、継手の鉄パイプがなくても車載工具のレンチでなんとかなります。
使い方は、ゴムハンマーを利き手に持ち、反対の手で車載レンチを立てるようにしてホイールナットにセットし、付け根の部分を抑えておきます。
あとはゴムハンマーの柄の部分を短く持ちコンパクトに「ゴツンゴツン」という感じでレンチの端の部分を叩きます。
↑ できれば軍手やグローブで手を保護するほうがより安全ですね。
ためしにホンダのフィットのホイールナットを規定トルクの108N·mで締め込んだあとでやってみましたが、あっさりとホイールナットを緩めることができました。
ただし、このゴムハンマーで「手動インパクトレンチ作戦」をするのは向かないケースもあり、引っ掛かりの浅いキーナットは叩くよりも継手を使ってゆっくり力を入れるやり方が安全です。
クロスレンチ
クロスレンチのメリットは、両手の力を180度反対の位置から均等に力を加えることでホイールナットに斜めのトルクがかからないことです。
つまりナットの面の部分とクロスレンチが正対して力を加えることでナットの角を傷めてしまわないのです。
そのうえ、簡易的な車載レンチよりも両手でしっかりと回すことで力が入りやすく多少オーバートルクで締まっているホイールナットでも緩めることができます。
とはいえ、クロスレンチのちょっとイケてないところは、意外とかさばるので車の中に乗せたままだとけっこう邪魔で収納しにくいのが難点です。
僕が自分自身の愛車にも載せているクロスレンチは、2本に分解したあとで鞘に納めるように1本にすることができるタイプのものです。
↑ KDR スパーダ(SPADA) RWW1721S 9.5角×17×19×21mm
もう10年以上も愛用していて、自宅でのタイヤローテーションや友達の車の救援要請でも使っている、コンパクトでも頼れる相棒です。
↑ このレンチの便利なところは、差し込む部分を長めにしてテコが効くようにすることができることで、120N·mくらいの締め付けトルクの外車ならこれで緩めることができました。
差込角12.7mm/長めのラチェットレンチ
↑ トネ(TONE) 伸縮ラチェットハンドル(ホールドタイプ) RH4EH 差込角12.7mm(1/2″)
Amazonのレビューでも高い評価ですが、僕も使ってみて大満足でした。
ラチェットレンチの中でも長めのグリップになっているものがあれば、キーナットなどのインパクトレンチが使えない場合でも非常に便利です。
僕が仕事で愛用しているのが、グリップの部分の長さを変えられるタイプのもので、普段は短くしてツールキャビネットに仕舞っています。
短くして使えば早回しにも便利ですし、ホイールナットや外車のラグボルトが強力に締まっているときはグリップを長くして使っています。
↑ 長く伸ばした状態にして使用すれば固く締まっていたボルトやナットでもあっさりと緩めることができます。
とくに重宝するのが、外車によく使われているラグボルトのキーボルトを緩めるときで、インパクトレントを使うことができないので、この長いラチェットレンチを使って緩めています。
強いトルクで締まっているキーナットやキーボルトにはインパクトレンチを使えませんのでこれがあると助かってます。
電動インパクトレンチ
↑ マキタ(makita) 充電式インパクトレンチ 18V バッテリ・充電器・ケース別売 TW300DZ
ランドクルーザーなどのSUVや外車など、もともとホイールナットやラグボルトの締め付けトルクが高く設定されています。
とくにボルトの太さが14mmのものは、140N・mほどのトルクで締まっていることが多く、人力でこれを緩めるのはかなりの重労働です。
↑ Amazonレビューで高評価を得ているマキタ(makita) 充電式インパクトレンチ TW300DZ
電動インパクトレンチのなかでも差込角が12.7の本格的なモデルなら手動でやっていた作業がバカバカしくなるくらい緩め作業が楽になります。
140N·mで締まっている外車のラグナットもオートストップ機能をキャンセルして使えば秒で緩めることができます。電動なので自宅で使えるのも素晴らしい。
ひたすらホイールナットを緩めていくだけでも、一台分のホイールナットやラグナットを緩めるだけでも疲れます。一度インパクトレンチを使うともとに戻れなくなります。
冬タイヤとの入れ替えをするときなどに、電動インパクトレンチがあると作業性が大幅に向上し、作業時間も非常に短縮できます。
最後に
今回は、緊急時のタイヤ入れ替えをするときや、DIYでのタイヤ入れ替えなどでホイールナットを緩めるときなどで、ホイールナットを緩めるのに苦労したことのある方に向けたお話でした。
「もっと楽にホイールナットを緩める方法はないの?」
と困っている方の、なにかしらのヒントや非常時に備えておくための便利アイテムも紹介しました。
とはいえ、ホイールナットが単なる締まりすぎた状態ではなく、ネジ山が傷んでいたり前回のタイヤ交換などでオーバートルクで締めすぎている可能性もあります。
とにかく力を入れ続ければなんとかなると、ムキになってやってしまうとハブボルトを折ってしまうことにもなりかねません。
どの程度のトルクをかけても問題ないかどうかは、僕の感覚では、そのボルトナットの規定締め付けトルクの1.5倍くらいまでが限界だと考えています。
まずはその車の規定トルクを確認したうえで、「これ以上トルクをかけるのはヤバい」というハブボルトの限界を意識することが非常に大事です。
緩めるのも大事だけど締めるのも大事
無事にホイールナットを緩めることができたら、次は安全に締め付けをすることも大事です。
本来はトルクレンチを使用して正規のトルクで締め付けるのが大前提ですが、緊急時に車載工具だけで対応せざるをえないケースもあります。
それはまた別の記事で書いていますので、参考にしていただければ幸いです。
【関連記事】ホイールナットの締め方|トルクレンチを使わずに確実に締める方法
【関連記事】国産 普通車のホイールナット締め付けトルク一覧表
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