真夏になると、エアコンが効かないという相談が増えてきます。
ユーザーさんにとっては、
「とにかく暑いからすぐ修理してよ」
という切実でストレートな要望なのですが、整備工場側ではなかなかすぐにご期待に添えないこともあり、
修理費用の見積もり額に目を剥くことになるかもしれません。
今回は、ホンダのフィットやモビリオスパイクでよくあるエアコン修理の経験談ですが、
これは他のメーカーや車種でもよく起きるトラブルです。
コンパクトカークラスや軽自動車にお乗りのかたなら、
「明日は我が身」なエアコン修理の定番修理です。
ホンダ車でもフィットのエアコン故障は多い?
フィットのエアコンがぬるいトラブルの定番
初代フィットとして2001年から2007年に登場モデルのGD1/2/3/4は、コンパクトカーとしての基本性能やデザインなどが受け、かなりのヒットとなりました。
そのぶん、たくさんのユーザーさんがいろんな走行条件で使用するわけで、不具合にもパターンというか、傾向があります。
ことエアコンに関しては、このGD系フィットの場合は、大きくわけて2つのトラブルが多かったです。
ただし、フィットだけが弱いというわけではなく、エアコンが効かないというトラブルでは非常に多い2つです。
マグネットクラッチリレーの不良
マグネットクラッチとは、エアコンのコンプレッサーの前側にある、コンプレッサー内部とエアコンベルトからの力を繋いだり切断するための部品です。
エアコンベルトはつねにエンジンルームで回転しつづけていますが、エアコンコンプレッサーの内部ではエアコンを作動させるまでは止まったままになっています。
車内のエアコンの操作パネルで送風のつまみとをオンにし、「AC」のボタンを押すことで、マグネットクラッチに電源が入り、そこで初めてコンプレッサー内部とベルトが同時に回転する仕組みです。
フィットによくあるトラブルとして、マグネットクラッチに電源を供給している「マグネットクラッチリレー」という小さな部品が壊れることがあります。
リレーとは、大電流を流すような部品へのスイッチの役割をする部品です。
ACボタンを押す
↓
小さなスイッチがオンになる
↓
マグネットクラッチリレーに電源が入る
↓
リレー内部のもう一方の接点がオンになる
↓
リレーからマグネットクラッチへ大電流が流れる
↓
マグネットクラッチのコイルが電磁石になる
↓
エアコンベルトとコンプレッサーがつながる
こんな感じでコンプレッサーが作動するようになっています。
つまり、リレーが壊れているとマグネットクラッチへの電源が供給されず、エアコンのコンプレッサーはまったく動かないことになります。
これではエアコンは一切効きませんので、ユーザーさんは
「エアコンを入れてもぬるい風しか出ない!」
となるわけで、真夏の整備工場での定番トラブル、『エアコンがぬるい風しかでない』のパターンとなります。
とくにフィットの場合だと、エアコン修理の経験が多い整備士なら
「ぬるい風?コンプレッサー動いてるかな?動いてないな。リレーかな・・?」
という感じで、頭のなかのフローチャートの流れでいきなりリレーを疑うことも多いです。
また、リレーの故障は軽い衝撃を与えることで一時的にリレーが作動することも多いので、確認のためにリレーをドライバーの柄の部分で「コンコン」と叩いてみることもします。
すると「カチン」とマグネットクラッチが作動しはじめ、エアコンの低圧側の配管が冷え始めるので、「はいはい、リレーね」といきなり診断が完了することもあります。
この場合は、リレーを交換することで問題解決となり、ホンダ系のディーラーならこのリレー、在庫していることもあるはずです。
コンプレッサー内部の故障もわりと多い
ここで誤解していただきたくないのは、フィットのエアコンコンプレッサーの交換が多いということは、フィットのコンプレッサーに欠陥があるわけではないということ。
かなり売れた車種なので、そもそもの台数が多いわけで、母数が大きいぶん、整備士も関わる機会が多いのです。
とはいえ、やはりコンプレッサーのトラブルはフィット系には多いようにも感じます。
コンプレッサー内部の破損
走行距離が増えてきたり、年式が古くなるとエアコンのコンプレッサーにもトラブルが起きやすくなります。
とくに多いのがコンプレッサー内部にあるベーンと呼ばれるフロンガスを圧縮するためのプレート状のパーツが動かなくなるトラブルです。
こうなると、そもそもフロンガスを圧縮しなくなるので冷媒は動かず、冷房としては一切効きません。
しかも、コンプレッサー内部から出てきた金属の削れカスがエアコンの配管内に流れだし、コンプレッサーの交換だけではすまなくなることもあります。
この場合、コンプレッサーの交換に加え、フィルター、途中の配管の交換や内部の清掃なども必要になり、かなりの高額な修理になってしまいます。
モビリオスパイク(GK1)で起きたエアコン修理の意外な落とし穴
フィットとモビリオは兄弟車
モビリオスパイクという車種は、フィットをベースにしたスライドドアを採用したコンパクトカークラスのミニバンです。
ただ、エンジンやトランスミッション、エアコンなども、ほぼフィットと同じものを使っているため、フィットにおきるトラブルはモビリオやモビリオスパイクにも起きます。
逆にいえば、モビリオ系に起きるトラブルはフィットにも起きることもよくあります。
モビリオスパイクに実際にあった事例としてご紹介します。
コンプレッサーからの激しい異音
ユーザーさんからの問診では、
「エアコンを入れるとものすごい『ガラガラ』という音がしていたが、エアコンは効いていた。」
「そのまま乗っていると、ヘンな音はしないけど、エアコンが全く効かなくなった」
この情報を参考に診断を始めました。
案の定、コンプレッサーは動いてなく、運転席のエアコンパネルのACボタンを押しても変化はありません。
つぎに、エンジンルームにあるリレーボックスのなかのマグネットクラッチリレーを引き抜き、リレーを作動させるための電源が来ているかをチェックします。
すると、メインの電源はきちんと12Vあるのに、スイッチングの電源はきていません。
ということは、さらに上流の電源がきていないということになり、ハーネスの束のような配線をたどっていくことが難しいので配線図をとりよせることにしました。
まさかのECUの故障
配線図をたどった結果、マグネットクラッチリレーを作動させる電源の上流は、なんとコンピューター(ECU)内部から「直接」流れるようになっていたのです。
そうなると、ここでのざっくりとした判断は、
・コンピューターへのなにがしらの情報が入っていない
・コンピューターそのものに問題がある
このどちらかとなりますが、ここでラッキーな偶然があり、まったく同一車種のモビリオスパイクの廃車があったということ。
正常なコンピューターと入れ替えてみれば、結論はすぐにでます。
かなりアナログなやりかたですが、整備士が車の故障診断をするときは、意外とこんな感じで思いつく限りの「消去法」で故障の原因を絞り込んでいくことも多いです。
別の車のコンピューターに交換したとたん、マグネットクラッチリレーへの電源が出力されるとおもいきや・・・
エンジンがかからなくなってしまった!
イグニッションキーをひねってクランキングをしようとすると、セルモーターは勢いよく回りますが、エンジンがかかる気配がまったくない。
むなしくセルモーターが規則正しく回る音がするだけでした。
結論からいうと、メインキーとコンピューターはペアリングされていて、別のコンピューターや別のキーではエンジンがかからないようになっているのです。
ただ、ホンダ車のこのタイプの場合は、クランキングができてしまうので、よけいに原因がわかりにくく、無駄にセルモーターを回してしまうという落とし穴があるのです。
もとのコンピューターに戻すと、嘘のように快調にエンジンはかかったので、近くのホンダディーラーに車を持ち込み、そこで別のコンピューターに交換しました。
あとは、その状態で現在のキー溝に合うもとのメインキーとあらたに交換した別のコンピューターとのペアリングをディーラーのパソコンにつないでペアリング完了となりました。
はたして、エアコンリレーへの電源は?とどきどきしながら確認すると、しっかりとクラッチリレーへの電源が出ています。
つまりメインコンピューターが悪いという結論がでました。
コンピューターが壊れた理由
そもそもなざコンピューターの内部が壊れたのかが気になります。
車の頭脳であるECU(メインコンピューター)は十万円近くする高価な部品ですが、それなりにしっかりと作られていますので、走行距離が8万キロほどのこの車の場合、壊れるのが早いと感じます。
結論からいえば、おそらくマグネットクラッチの内部のコイルがショートし、直接コンピューターにつながっているので、コンピューター内部もショートしてしまった。
そもそもはエアコンコンプレッサーの内部が壊れ、マグネットクラッチへの負担になり、コイルにも負担がいったのかもしれません。
異音がしたら使用をやめるべき
もしも、エアコンのスイッチをいれて大きな音がコンプレッサーからしていたのなら、エアコンを使うのをやめていたら、コンピューター内部のショートにはならなかったかもしれません。
残念ながら、コンプレッサーの不具合からの二次災害というか、無理やりにコンプレッサーを使ったことによる人災ともいえます。
フィットとモビリオは兄弟車、ということは・・・?
今回はモビリオスパイクであったエアコン修理の事例ですが、ほぼ同じような部品を多用しているフィットにも起こりうるトラブルです。
もちろん、コンピューターを交換したらエンジンがかからなくなるという部分でも同じことがおき、ホームセンターで作成したキーではエンジンがかからなかった経験もあります。
エアコン修理を進めていったらメインコンピューターを交換するハメになったというのは、珍しい事例です。
ただ、以前はエアコンの制御をするためだけのコンピューター(エアコンアンプとも言います)がメインコンピューターとは別にあることが多かったです。
ただ、燃費を少しでもよくするには、エンジンの制御の中にエアコンの制御も含まれるようになったのかもしれません。
とくにハイブリッドカーやアイドルストップ車は、エンジンをストップさせるという、燃費向上の制御と、エンジンが止まるとエアコンの効きが悪くなるとう、相反するものをバランス良く制御する必要があります。
その一方で、単純にコストの問題で、一個のメインコンピューターでエアコンもオートマチックやパワーステアリングの制御もしている可能性もあります。
ようするに、エアコン修理といえども、まったく関係のない部分の部品まで交換することで修理も高くついてしまうということですね。
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