今回はスズキ・スペーシア(MK32S)のエアコン不調の診断と作業記録です。
結果的にはお客様はそこそこの高額な修理をすることになりましたが、そのまま乗り続けてしまうとオーバーヒートでエンジンを壊してしまった可能性がありました。
今回のトラブル、先に原因を言ってしまうと、ラジエーターのモーターが壊れていたことでエアコンが冷えたり冷えなかったりする現象が起きたようです。
エアコンのトラブルシュートをしたことがある方なら「例のよくあるヤツ」な症例です。
つらつらと書いてしまいましたが、読み進めながらトラブルシュートの「なぞなぞ」に少しお付き合いいただければと思います。
MK32Sのスペーシアでエアコンが効かない症例
↑エアコンユニットが冷えていれば低圧側のパイプも冷たくなっているので手で触るだけで確認できます。
エアコンが効いたり効かなかったりする原因
スペーシアのお客様からいただいた相談は「乗り始めは効くがしばらくするとエアコンが全く効かなくなる」というものでした。
いきなり冷えなくなったとのことで、エンジンルームを目視でチェックしたところ、エアコンサイクルの低圧側パイプは濡れていました。
この部分が濡れているということは、クーラーが効くだけのガスが残っていて、なおかつコンプレッサーも機能しているということになります。
エアコンの冷房がしっかりと冷えるには、ガスの量もコンプレッサー、エキスパンションバルブ、コンデンサーファンなど、いろんな機能が正常である必要があります。
これらのどれか一つでも不調になると冷えが悪くなったり、まったく冷えないことになります。
冷えるときはしっかり冷えるということは・・?
クーラーの診断をするときに重要なのは、不具合の状態を確認し消去法で「該当しない部分」を消し込んでいくことです。
たとえば、「冷えるときは冷える」ならガスの量が増えたり減ったりすることはありえないので、クーラーガスの量は問題ないということになります。
また圧縮されたフロンガスを噴霧、気化させるエキスパンションバルブの異常では「常になんとなく冷えない」というケースが多く、このケースも除外できます
となると、電装系のなにかしらの回路が正常な状態からいきなり異常になり、まったく冷えなくなるという症例がもっとも近いと考えられます。
つまりなにかの回路が断線したり一時的に復帰したりを繰り返していると考えるのが妥当だということになります。
点検は調べやすい部分から調べる
トラブルシュートをするうえで、整備士は「早く」「正確に」診断を終わらせようとします。
当然すぎる話かもしれませんが、原因を科学的に立証したいわけではなく、確実な修理ができればいいのでリレーやユニット、モジュールなどの対象となる部位を特定できればいいのです。
そのため、消去法で関連性が低い部分を点検項目から除外し、可能性が高い部分を調べていくことになります。
なおかつ分解をともなうような時間や手間がかかる部分よりも、簡単に調べられることから潰していくほうが効率はいいです。
スズキ車のエアコントラブルの「あるある」とは
どのメーカーでもエアコンのトラブルは発生しますが、メーカーや車種によってその傾向が決まっていることもあります。
スズキ車で多い回路異常によるエアコンのトラブルと言えば定番といえるマグネットクラッチリレーの作動不良です。
調べ方をいくつか紹介すると、エアコンをオンにした状態でマグネットクラッチリレーにドライバーなどで振動を与えてみることです。
初期症状なら「コンコン」とやるだけでいきなりマグネットクラッチが作動し始めることもあり、リレーを交換してあげれば修理完了となります。
完全にリレーが壊れている場合は別のリレーと入れ替えてみたり、廃車から取り外していた別のリレーを移植してみるのもありです。
マグネットクラッチリレーのトラブルが該当しなければ、少し手間のかかる診断に進む必要がありますが、今回のスペーシアの場合は電動ファンが作動していなかったのでチェックはしませんでした。
なおマグネットクラッチリレーの場所の特定方法などは別の記事にしていますのでそちらを御覧ください。
【関連記事】車のマグネットクラッチリレーの場所はどこにある? 見つけ方を解説
コンデンサーファンモーターの不良
一定の周期でマグネットクラッチが入ったあと数十秒で切れるという現象を繰り返していたので、エアコンサイクルのガス圧を測定することにしました。
「高圧異常だろうな」という確信はありましたが、コンプレッサーの健康状態もねんのために調べておくことで、修理する段階になってコンプレッサーの異常で慌てることもありません。
実際に高圧側の圧力を測定してみると、やはり電動ファンが作動しないことで高圧が異常に高くなっていることがわかりました。
高圧側が30MPaまで上昇、マグネットクラッチの電源がカットされる
エンジンを止めてゲージマニホールドを高圧、低圧の両方に接続し再度エンジンをかけてエアコンの能力を最大にして圧力のチェックを行います。
案の定というか、コンデンサーファンが作動しないことでコンデンサー内のガスが冷却されずどんどん高圧になっていきます。
約30MPa(メガパスカル)まで上昇した途端、マグネットクラッチが切れてしまい、高圧側も緩やかに下っていきます。
ちなみに、正常なカーエアコンなら気温が30℃でエンジン回転が1000rpmなら低圧が3MPa前後、高圧が15MPaから20MPaくらいです。
電動ファンが作動していないことが原因という結論は出ましたが、電動ファンのモーターそのものが壊れているのか、電源側に問題があるのかを確認します。
電動ファンのリレーは問題なく作動しているようだったので、ファンモーターそのものの可能性が高くなってきました。
いちおうショック療法も試してみる
モーター類の作動不良は「ショック療法」で一時的に解消することも多く、長いドライバーやプライバーでモーター本体に衝撃を与えてみます。
「動かんのかーい」と独り言を言いながらファンモーターへの電源カプラーを外し、点検用の電球を繋いでみて光るかどうか確認、電源は問題なしとなりました。
LEDの検電テスターでは微弱な電流でも12ボルトあれば光りますので、お手製の電球テスターはよく使います。
大きな電球なら回路の抵抗も光り具合でわかるのでかなり便利です。
高圧異常で電源がカットされる
今回のスペーシアのエアコンが効いたり効かなかったりする原因は
↓
・圧縮されたガスが冷却されず高圧になった
↓
・圧力スイッチが高圧異常を検知しクラッチへの電源をカットした
↓
・コンプレッサーが停止することで少しずつ高圧側の圧力が下がる
↓
・一定の圧力まで下がると再びクラッチに電源が入る
↓
・エアコンが冷える
このサイクルを繰り返すことで「冷えるときは冷える」というエアコン不調を起こしていたのです。
ところが、この診断結果をお客様に報告すると、お客様から「そういやヘンなマークも点いてたな」というお話です。
しまった、オーバーヒートもしてたのか・・・。
診断の初期にお客様にそのことを聞けていなかったことが悔やまれます。
スペーシアで赤い水温警告灯が点灯
今回のスペーシアの事例ではエアコンが冷えないということで入庫した修理案件でした。
ただ、調べていくとラジエーターとコンデンサーの両方を1個の電動ファンで冷却している車種だったため、ファンモーターの故障でエアコン不調とオーバーヒート、両方の原因になっていました。
いきなりオーバーヒートになるケース
じつは軽自動車によくあるオーバーヒートの原因の一つとして電動ファンのモーターが壊れて起きるケースはかなり多いです。
モーターなどの電装品の故障はいきなり起きるので、前日まで普通に走れていたのに、翌日にはオーバーヒートでレッカーサービスのお世話になる、みたいなトラブルに見舞われます。
1個のファンが壊れることのリスク
電動ファンが1個しかない場合、ラジエーターとエアコンのコンデンサーを背中合わせのようにして、ひとつの電動ファンで冷却しています。
そのため、ファンモーターが壊れた場合、オーバーヒートと同時にエアコンも冷えなくなり、とくに夏に発生しやすいトラブルです。
冬場では気が付きにくいトラブル
ラジエーターの電動ファンは冬場では作動する回数も少なく、オーバーヒートになりにくく普通に走行できることが多いです。
なおかつ冷房を多用することは冬場ではあまりないので、電動ファンの故障に気が付かないままで走行していることもあります。
「夏になったらエアコンが効かなかった」みたいな相談もよくいただきますが、じつは電動ファンの故障は数ヶ月前から起きていた可能性があります。
オーバーヒートの後遺症はないと判断できた
真夏に電動ファンの作動不良でオーバーヒートをしてしまった場合、エンジンを冷却してくれている冷却水が高温になり、シリンダーヘッドが歪んでしまうことがあります。
ヘッドガスケットの交換だけですむケースもあれば、シリンダーヘッドの交換や面研などが必要な場合もあり、どちらにせよかなりの高額な修理になってしまいます。
お客様に水温警告灯が点灯することの重大さをお伝えしましたが、どうやら赤い水温計のマークが点灯してすぐに目的地に到着したことや、ほんの数日前の一回だけのことだったとのことです。
オーバーヒートをしてしまった場合の最悪のパターンは、運転手が警告灯に気が付かないままエンジンが焼き付くまで走行してしまうことです。
その点、このユーザーさんはメーター内の警告灯に気がついていたことや、「これは普通の状態ではない」という認識があったようでした。
運転席のメーターのところに、ぬいぐるみとか書類とかレシートとかいろんな物を置いている人がいますが、これでは警告灯が点灯しても気が付かないことが多いです。
エアコンも効くようになり納車
↑クーリングファンが作動することで低圧も高圧も無事に正常圧に。もちろん冷えも復活した。
今回はMK32Sのスペーシアのエアコン不調の事例でした。
このトラブルはスズキの軽自動車だけでなく、他のメーカーの軽自動車やコンパクトカーにも発生します。
ポイントとなるのは
・ラジエーターとコンデンサーを1個の電動ファンで冷却している
・電動ファンのトラブルは冬場には気が付かないことがある
・ファンモーターはいきなり動かなくなる
という内容でしたが、ファンモーターの不具合は予兆があることもあり、「ときどき作動しない」みたいなこともあります。
電動ファンモーターは「まるごと交換」だった
電動ファンモーターが故障しているのなら、モーターの部分だけを交換すればいいと考えてしまいます。
残念ながら部品は純正しかなく、なおかつファンモーターやファン、シュラウドがくっついた状態でしか部品の設定がありませんでした。
交換作業料と部品代で4万円超の修理
結果的には部品の価格が3万円ほど、作業工賃も含めると4万円を超える修理費用となりました。
とはいえ、オーバーヒートのダメージは残っていなかったようなので「不幸中の幸い」だったのかもしれません。
事前に気がつけばオーバーヒートはなかったのかも
『たまにエアコンが効かなくなるけど、効くときはちゃんと冷える』と感じたなら、もしかすると今回のようなトラブルの可能性があります。
エアコンを多用する季節に入る前に点検をしておくことで、今回のような電動ファンの作動不良が発見できたのかもしれません。
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