車のエンジンがオーバーヒートしたら、そのあと車はどうなるのでしょうか?
いざ自分の身に降りかかってみないとその状況は浮かびにくいですし、
対処の方法もすぐには浮かびません。
高額な修理になってしまうのか?
その場をどう対処していけばいいのか?
そもそもオーバーヒートした状態とはどんな症状なのでしょうか?
今回は、オーバーヒートの判断の仕方やその場でできる応急処置を
安全面に配慮しつつ考えていきましょう。
車がオーバーヒートするとどうなる?
車のオーバーヒートとは
車のオーバーヒートとは、いいかえればエンジンのオーバーヒートということになります。
車のエンジンはガソリンや軽油を燃焼させてパワーを発生させていますから、つねに高温になっています。
もしも冷却装置が一切ない状態なら、エンジンはすぐに高温になり、エンジンオイルの粘度が極端に落ちてしまいます。
オイルの粘度が下がりすぎると、クランクシャフトやカムシャフト、バルブ周りの潤滑が十分にできなくなります。
エンジンオイルによる潤滑が行われないと、メタルと言われる軸受けのベアリングの役割をする金属部品に傷がついてしまいます。
この状態になると滑らかな回転はできないので、エンジンはぎくしゃくとした回転しかできず、
さらにメタルへの損傷が進むと、回転すらできなくなり、エンジンは止まってしまいます。
また、エンジンが高温になると燃焼室の内部で異常燃焼が起き始めます。
これは、本来ならスパークプラグなどで燃焼するタイミングがコントロールされているはずが、燃焼室の内部が高温になりすぎると勝手に燃料が引火してしまいます。
この状態では、本来は燃料が燃焼することで動力を取り出しているはずが、逆にエンジンの回転を妨げるようなタイミングで燃焼し、大きくパワーダウンしてしまうことにもなります。
異常燃焼が原因でバルブが溶けてしまうこともあり、エンジンの圧縮が抜けてしまう原因になります。
オーバーヒートしたときの症状
エンジンの内部で異常燃焼が起きると、エンジンがスムーズに回転しないだけでなく、「ノッキング」とよばれる異音がします。
ノッキングが起きたときの音は
「カタカタカタカタ」
とか
「カリカリカリカリ」
といったたぐいのかなり大きな打音がエンジン周りからします。
またノッキングが起きているときはアクセルを踏んでも、車がいつものように加速しないだけでなく、非常にぎくしゃくとした動きをし、さらにひどくなるとエンジンが止まってしまうこともあります。
また、オーバーヒートの原因が冷却水の水漏れの場合は、エンジンルームの周りから水蒸気がスチームのように大量に吹き上がるときがあります。
ときには運転席のダッシュボードの奥のあたりから「ゴボゴボゴボ」となにかが煮立つような音が聞こえてくることもあります。
オーバーヒートの後遺症とは
エンジンがオーバーヒートをすると、シリンダーブロックと呼ばれる、エンジンの下側半分の部分や、シリンダーヘッドと呼ばれるエンジンの上側半分の部分が熱で歪んでしまいます。
シリンダーヘッドやシリンダーブロックは、アルミや鋳鉄でできています。
エンジンの心臓部でもある、ピストンが収められたこの部分が熱で変形してしまうと、燃焼室の密閉が保たれなくなります。
オーバーヒートを一度でも起こしたことのあるエンジンはその後、燃費が悪くなったり、エンジンの始動性が悪くなったりします。
走行中のエンジンの音もオーバーヒートをする以前よりも大きく「ガチャガチャ」とか「カタカタ」といった雑音が増えてきます。
エンジンがオーバーヒートしたときの応急処置
まずはオーバーヒートのレベルを確認
エンジンがオーバーヒートするとエンジンへのダメージが次第に大きく拡大していきます。
オーバーヒートがどこまで進んでいるのかによっても応急処置の仕方は違ってきます。
また、エンジンルームを触る場合は高温になった部分を触ることになり、火傷などをする可能性もあり、非常に危険です。
素手ではなくタオルや軍手も必要になることもありますし、
本来は冷却水の顔面への飛沫の可能性もあるのでゴーグルなども欲しいところです。
オーバーヒートの初期段階
オーバーヒートをし始めたすぐの状態とは、運転席のメーターの中の水温警告灯が点灯した状態を指します。
エンジン冷却水は通常は80度から90度くらいで安定していますが、なんらかの原因で水温が110度から120度を超えたくらいから、水温警告灯が赤く点灯します。
この段階では、エンジンにはそれほどのダメージは受けていません。
ただし何度も起きるとダメージが蓄積されていきます。
まずは車を安全な場所に止めて、水温の警告灯が消えるのを待ちます。
もしもそのまま警告灯が消えない場合はエンジンを止め、できればボンネットを開けておきます。
ボンネットを開けることで、エンジンルームの熱を効率よく排熱することができます。
安全な場所がすぐに見つからない場合は、なるべくエンジンに負担をかけないように優しいアクセルワークで走行してください。
オーバーヒートが進行した状態
エンジンの冷却水が高温になったり、冷却水が漏れたままでの状態でいると、室内のダッシュボード付近からゴボゴボといったお湯が沸騰するような音がすることがあります。
これはヒーターコアと言われる暖房の風を作るための装置の中で冷却水が沸騰している音なのです。
また、エンジンルームの周辺から白い湯気のようなものが吹きあがっている場合もオーバーヒートがかなり進行した状態です。
この状態では、そのまま車を自走することもしてはいけませんし、可能な限りエンジンをすぐにでも止める必要があります。
ただし、白い煙のようなものは高温の水蒸気ですので、車両火災になる可能性は低いです。
この段階になってしまったら応急処置はエンジンを止めてこれ以上のオーバーヒートをさせないようにするくらいです。
ボンネットを開けてエンジンまわりの熱を逃がすことも大事ですが、みだりにボンネットを開けると、高温になった水蒸気で火傷をする可能性があります。
とくにオーバーヒートを起こした直後にラジエーターキャップを開けることは絶対にしてはいけません。
もしもそこで開けると、その瞬間にラジエーター内の冷却水が一気に沸騰して、まるで間欠泉のように熱い冷却水が噴出する恐れがあります。
顔などにかかれば顔面を火傷することになりますので、プロの整備士でもエンジン回りが冷えるまで待つことが多いです。
また、少し冷却水が冷えてきたからといって、軍手などを付けてラジエーターキャップを開けることも危険ですのでしてはいけません。
「軍手をしたほうが安全なのでは?」
と思われるかもしれませんが、もしも軍手をしたままでラジエーターキャップを開けて、熱湯と化した冷却水が軍手にしみ込んだ場合、そのまま火傷のダメージが続くことになります。
つまり、高温になったおしぼりをずっと手に当てているようなもので、すぐに手から外すことができないため、火傷の範囲も広く、皮膚の損傷もひどい状態となります。
どうしてもラジエーターキャップを開けたいときは、厚手のタオルをラジエーターキャップにあてて、ゆっくりと開けるようにしましょう。
ただし、エンジン本体周りが高温の状態では、水道水などの常温の水をいれると、灼熱の状態のシリンダーブロックを急激に冷やすことになり、シリンダーブロックが急激な熱収縮を起こしてクラック(割れ)が入ってしまって再起不能になることがあります。
車がオーバーヒートしても応急処置できないケース
エンジンが止まってしまった状態
オーバーヒートの最終段階は、走行中にエンジンが止まってしまうことです。
この状態は、エンジン内部のメタルと言われる金属部分が焼き付いてがっちりと金属と金属が噛みこんだ状態です。
もしもこの「焼き付き状態」になってしまっているなら、一度エンジンが止まってしまったら、再度エンジンをかけることはできません。
スターターを回そうとしても「カチッ」という、まるでバッテリーが上がってしまったかのような症状です。ただ、バッテリー上がりとの決定的な違いは、いかなる方法でもエンジンを回すことができないことです。
整備士がエンジンの焼き付きを確認するときは、メガネレンチなどでクランクシャフトを直接回してみるのですが、どんなに力を入れても、クランクシャフトを動かすことはできません。
たいていは、クランクシャフトとコンロッドと言われる部分のメタルが熱で焼き付いている状態なのです。
もはや応急処置どうこうという状態ではなく、整備工場でエンジン載せ替えなどの準備をしてもらうことくらいです。
最後に・・・
エンジンがオーバーヒートしてしまったら、自走することは難しいです。
初期段階の水温警告灯が点灯した状態でも本来はレッカーサービスを依頼することが望ましいです。
なぜなら、オーバーヒートをした原因がわからないままで走行すると、エンジンへのダメージがさらにひどくなるからです。
もしもエンジン回りから湯気が立ち込めたり、エンジンが止まってしまった状態だと、応急処置よりも安全な場所に車を止めてレッカー移動を手配するくらいしかできることはありません。
整備工場側でも、オーバーヒートの車が運ばれてきたら、車検が近いとか、十年以上使用している場合などは、エンジン載せ替えか、車の買い替えか、というくらいの選択肢をお客様に選んでいただくケースが多いです。
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