車のタイヤがパンクしちゃったから
自分でスペアタイヤと交換したよ
(どや顔)
すごいじゃないですか!
で、ホイールナットは
どれくらいのトルクで締め付けました?
トルク?締め付ける力のことだろ?
んなもん、緩まないくらいしっかり締めときゃ大丈夫でしょ。
テキトーだよ。
最後は足でレンチを踏みながら締めたよ。
いやいや・・・。
それはホイールナットやハブボルトが傷んでしまいます。
逆にタイヤが外れる事故にもなりますから・・。
実を言うと、プロの整備士でもホイールナットの締め付けを「だいたいこれくらい」みたいな感覚でやっている人もいます。
車載レンチの上に乗って全体重をかけてホイールナットを締めた動画を上げて炎上してたDIY系ユーチューバーさんもいました。
今回は、かなり大事なホイールナットの締め付けトルクについてのお話です。
ホイールナット(ボルト)の規定トルクついて
ホイールを固定させるホイールナット
タイヤとホイールが一体になった状態のものをタイヤ・ホイールなどと言います。
一般的に「タイヤを付け替える」という作業は、このタイヤ・ホイールを脱着することを指し、一般ドライバーでもパンクなどの緊急時に行う可能性があります。
タイヤ・ホイールを交換するときは、ホイールを車体に固定するためのホイールナット(ホイールボルト)を緩めたり締めたりする作業がともないます。
乗用車の場合はホイールナットが4個ないし5個使われていて、均等に締め付けられています。
均等とはいえ、締め付ける力加減が適当ではなく、メーカーが指定している規定トルクが決まっています。
規定トルクとは、『このホイールナットを締め付けるときはこれくらいの力加減で締め付けてください』とメーカー側が指定している締め付けトルクのことです。
締め付けトルクを間違えるとどうなる?
タイヤの脱落の原因にもなる
冬タイヤとの入れ替えのシーズンになると起こってしまうタイヤの脱落事故ですが、その原因の大半がホイールナットやボルトの締付けに起因します。
「しっかり締めときゃタイヤが外れることはないよね?」と思った方もいるかもしれませんが、それは誤解です。
ホイールナットの締め付けトルクが緩すぎると、走行中にナットが緩んでくるのはどなたでも想像できると思います。なにせ緩いわけですから。
ところが、ホイールナットを締め付けすぎてもタイヤが外れることがあり、タイヤ脱落やホイールボルトが破断する原因も過ぎが原因になることもあります。
ホイールナットが緩まなくなるトラブル
ホイールナットを締め過ぎるとネジ山が傷んでしまい、緩めることができなくなり、最終的にはハブボルトごと折れてしまうことになります。
このトラブル、整備士をしているとよく経験するトラブルで、スタッドレスタイヤとの入れ替えやタイヤローテーション、スペアタイヤとの入れ替えなどで起きます。
ユーザーさんがDIYでタイヤ・ホイールの入れ替えなどをすることは違法ではありませんし、車の維持費を下げることもできるのですが、正しい知識がないとトラブルになることもあります。
そのなかでもとくに多いのがホイールナットの締めすぎで、僕の経験では緩すぎてナットが外れたということはほぼありません。
つまり、ほとんどのユーザーさんはホイールナットを締めすぎていて、それが原因でハブボルトが折れたりナットが緩まなくなります。
ホイールナット(ボルト)はどれくらいで締める?
日本車なら103N・m~108N・mが多い
くわしくは当サイトの締め付けトルク一覧表をご覧いただくとして、ざっくり言えば日本車の普通車なら103N・m~108N・mの締め付けトルクがほとんどです。
トヨタとダイハツは103N・mがほとんど
トヨタとダイハツの乗用車の場合、軽自動車も含めてほとんどの車種で103N・mの締め付けトルクとなっています。
もちろん例外もあるので正確に把握しておく必要はありますが、この数値から大きく離れているモデルは少ないです。
ホンダ・日産・マツダは108N・mが多い
上記の3社は108N・mが多いのですが、年式などによっては締め付けトルクに幅を持たせていることもあります。
その場合でも中央値が108N・mになっていることが多いので大きく変化はしていません。
軽自動車と普通車の規定トルクの違い
軽自動車は普通車よりも軽量で馬力も控えめですが、ホイールナットの締め付けトルクに関しては各メーカーによって結構違ってきます。
ほとんどの軽自動車は100N・m前後が多い
軽自動車メーカーも数社ありますが、ダイハツは103N・mで統一されています。
他のメーカーも、ホンダが108N・m、三菱やスバルも100N・m前後、日産の軽自動車は他社のOEMなので元のメーカーに準じての規定トルクです。
スズキの軽自動車は要注意
スズキの軽自動車のホイールナットの規定トルクはほとんどのモデルで85N・mとなっています。
ただし、JB64系のジムニーは特殊で100N・mの締め付けトルクとなっています。
ホントに多いのが
スズキの軽自動車のホイールナットの
ネジ山がずるずるになっているケース。
締めすぎてるんですよね・・。
輸入車(外車)のホイールボルト・ナットのトルク
ドイツ車の締め付けトルクは120N・mと140N・m?
日本国内でよく見かける輸入車といえばフォルクスワーゲンやBMW、ベンツ、アウディなどのドイツ車です。
ドイツ車はホイールナットではなくホイールボルトを採用していますが、締め付けトルクはコンパクトカーや少し古いミドルクラスは120N・mの締め付けトルクが多いです。
対して、SUVや排気量が3000ccを超えるような馬力のあるモデルは140N・mが多いです。
輸入車の場合はホイールボルトの締め付けトルクは調べてもなかなかわかりませんが、車に備え付けられている説明書にたいてい記載されています。
多くの輸入車は日本車よりも高い締め付けトルク
ドイツ車だけでなく、欧州車やアメリカ車でもホイールナットやボルトの締め付けトルクは日本車よりも高くなっています。
悪路を長距離に渡って走破するからでしょうか、かなり強めの締め付けトルクが多いですし、馬力も日本車のような規制はありません。
日本車と同じ感覚でホイールボルトを締め付けていると緩すぎてしまう可能性もあります。
締め付けトルクはどこに書いてある?
↑以前はこんな感じで運転席の近くに表示されてあったホイールナットの締め付けトルクも今は説明書にも載っていないこともあります。時代の流れなのかもしれませんが。
取扱説明書の中のどこかに書いてある
スペアタイヤが標準で装備されている車の場合、車の説明書のどこかにホイールナットの締め付けトルクについての記載があります。
それに対して、最近では主流になっているスペアタイヤが搭載されていない車種に関しては、説明書でもタイヤ脱着に関する説明が省略されていて、締め付けトルクについても書かれていません。
公式サイトから調べることもできる
日本車に関してはどのメーカーも公式サイトから各モデルの取扱説明書を閲覧できるようになってきています。
PDFでまとめられていてダウンロードすることができるのですが、トヨタなどはPDFを廃止してHTMLで記述されているようになってきています。
ウェブサイトと同じなのでいつでも加筆修正ができるようにしてあるので、必要な項目を付け加えたりできます。
締め付けトルク一覧表を作ってみた
国産普通車、軽自動車、輸入車のホイールナット・ボルトの締め付けトルクの一覧表を作成しています。
◆外車・輸入車のホイールナット・ホイールボルトの締め付けトルク一覧表
トルクレンチの使い方
プリセット型のトルクレンチがおすすめ
トルクレンチはボルトやナットを任意のトルクで締め付けていくときに便利な工具です。
そのなかでもプリセット型と呼ばれるタイプのものは設定したトルクになると「カチン」いう音と手応えでわかるので、複数のボルトやナットを締め付けるのに適しています。
使い方は簡単で、トルクレンチの後ろ側にあるダイヤルを回してトルク値を設定するだけです。
おすすめのトルクレンチ
僕が仕事で自分専用として使っている『アストロプロダクツ1/2DRプリセット型トルクレンチTQ969』というトルクレンチはかなり使っていておすすめできるものです。
測定範囲が40~210Nmというキャパの広さがメリットで、輸入車や大型SUVのホイール締め付けにも対応できます。
【関連記事】アストロプロダクツのプリセット型トルクレンチの精度を比較レビュー
締め付け作業後にも確認
タイヤ脱着作業のあとでも再度トルクレンチを使って確認をすることは大事です。
ヒューマンエラーとしてホイールナットの一部を締め忘れてしまうこともありますが、車体の重量がかかった状態で走行するとホイールナットが緩むこともあります。
とくに多いのが、新しいホイールやハブボルトと取り付けた直後で、ホイールのナットとの当たり面の塗装、ボルトとハブの初期馴染みで緩んでしまうことがあります。
一定の距離を走行したら再度トルクレンチで確認
タイヤ脱落を防止するためには、タイヤを脱着して走行したあとに再度トルクレンチをあてておくことも大事です。
ただしハードなブレーキングなどでハブ周辺が高温になっているときはボルトが伸びてしまうので、車体がある程度冷えて常温になってからにしましょう。
トルクレンチがなくても安全な締め付けはできる
タイヤがパンクしてしまったときなどはスペアタイヤと付け替える必要があり、状況によってはプロに依頼する時間がないこともあります。
トルクレンチは車に常備されておらず、簡易的な車載レンチがあるだけなので、その場にあるものだけで対処する必要があります。
とはいえ規定トルクを知らないと難しい
短くて頼りなさそうな車載レンチでも、足で踏みつけるような締付けをすると、かなりのオーバートルクでホイールナットを締め付けてしまいます。
僕の経験でも、お客様が自分でスペアタイヤに付け替えをしてきた場合、ほとんどが締めすぎていてインパクトレンチでも少し苦戦することもあります。
走行中に緩んでタイヤが外れてしまうよりはいいのかもしれませんが、ハブボルトやホイールナットのネジ山が傷んでしまうと、余計な修理費がかかってしまいます。
100N・mのトルクがイメージできたらOK
現在ではホイールナット(ボルト)の締め付けトルクはN・m(ニュートン)で表示されています。
日本車の場合では100ニュートンから110ニュートンくらいの締付けトルクが多いですが、車載レンチの当て感だけでこのトルクを守るには少しコツが必要です。
100N・m≒10kgf・mと考える
正確には100N・mは9.8kgf・mほどとなりますが、トルクレンチを使わずに「締めすぎず、緩すぎず」の適度な締め付けトルクという意味では10kgf・mがイメージできればOKです。
詳しくは別の記事に書いていますが、車載レンチの長さが25cmなら1メートルのレンチの端に10キロの力を加えることを考えるとわかりやすいですね。
答えは、柄の長さが4分の1なので力は4倍、つまり25cmの車載レンチなら 10キロ × 4倍 = 40キロということになります。
つまり大人の体重のかなりの重みをレンチにかけることになります。
締め付ける順番も大事
「対角に少しづつ」が基本
20年以上整備士をやってきて本当に大事だと思ったことをお話します。
ホイールナットの締め付けをするうえで、規定トルクで締め付けるのと同じくらい大事なこと。
それが、
・同じトルクで対角に締め付けていく
という、しごく当たり前すぎるようなことです。
解説すると、たとえ最終的に同じトルクで締め付けていても、仮締めをするときにバラバラのトルクで締め付けることはダメ、ということです。
慎重に締め付けるなら3回、慣れた人なら2回ほどにわけてホイールナットを締め付けていきます。
ここで重要なのは仮締めをするときでも同じくらいの力加減で締め付けるということ。
いくらなんでも仮締めにまでトルクレンチを使う必要はありませんが、レンチを持つときは同じ体勢で、連続してテンポよくを意識して締め付けを行っていきます。
便利な道具も知っておこう
↑ ハンドルの長さを変えられるタイプのものは
作業性が向上したり力の入れ方がわかりやすくなります。
DIYでスタッドレスタイヤとの入れ替えをする方も多いですが、ハブボルトを傷めてしまったり、腰を痛めてしまうこともよくあります。
安全で確実にタイヤの脱着作業をするための便利な道具も紹介しておきます。
伸縮タイプのレンチ
伸縮タイプのラチェットレンチ、トネ(TONE) 伸縮ラチェットハンドル(ホールドタイプ) RH4EH 差込角12.7mm(1/2″)はホイールナットを締める時も緩めるときも非常に便利です。
とくに輸入車のように高い締め付けトルクで締まっている車種では威力を発揮、なおかつキーナットはインパクトレンチで緩めることができないのでこれがあると重宝します。
しかもこのレンチ、長くした状態ではグリップと差し込み部分との長さがちょうど50cmほどになり、締め付けトルクのイメージがしやすいです。
タイヤドーラー
タイヤを取り付けるときにボルトを痛めてしまう原因として、ホイールをハブボルトにぶつけてしまうケースがあります。
タイヤを中腰のままで持ち上げるのはかなり体力が必要で、腰を痛めてしまうこともあるので、補助をしてくれる道具はありがたいですね。
たためるクロスレンチ
クロスレンチは両手を使って締め付け作業をすることができるので便利なのですが、少し場所をとるのがデメリットでもあります。
僕も自分の車に常備している、小さくたためるクロスレンチ、KDR スパーダ(SPADA) 9.5角×17×19×21mmなら邪魔になりませんし、車を買い替えてもずっと持っていられるのでおすすめです。
もちろんトルクレンチは必要
トルクレンチを使ってホイールナットの増し締めをすることで「ちゃんと締まってる?」という不安はなくなります。
プロ用の高価なものでなくてもよく、コスパがいいトルクレンチとボックスのセットでもプライベートで使用するなら十分です。
また、輸入車などの高い締め付けトルクでの締め付けをするなら僕も仕事で愛用している、アストロプロダクツのトルクレンチ TQ969もおすすめです。
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